第9話 突然の悲劇。やっぱりあいつ許さない。
エルマギアでの生活が始まってから一ヶ月が経った。
私はルーカスさんの指導のもと、魔法の修行に励んでいた。
毎日少しずつ呼吸法を習得し、魔法のコントロールが徐々に上達していった。
「リト、今日はここまでじゃ」
ルーカスさんは穏やかに言い、私の肩を叩いた。
「ありがとうございます、ルーカスさん。おかげで随分と魔法の制御ができるようになりました」
私は深くお辞儀をした。
「まだまだこれからじゃが、君は本当に素晴らしい才能を持っておる。」
ルーカスさんは微笑んだ。
ルナは資金が十分だということを理解したようで、最近は私が修行している間に森で小動物を狩って食べていた。
その姿を見ていると、魔獣でありながらも心優しい友人としての存在を再認識する。
そんなある日、平和なエルマギアに突然の悲劇が訪れた。
その日も私はルーカスさんと共に魔法の修行をしていた。
突然、空が暗くなり、激しい轟音が町全体に響き渡った。
「何!?」
私は驚いて空を見上げた。
巨大な火球が空から降り注ぎ、エルマギア目がけて次々と直撃した。
私たちは町の外にいたため難を逃れたが、少し離れたここからでも町の惨状が悲惨であると想像できた。
爆発音と共に火の手が上がる。
煙や炎が見えた。
ルーカスさんは顔を強張らせ、町へと急いだ。
私とルナも急いで町へ向かうと、門は破壊され、入り口に立っただけでも町の変わり果てた姿が嫌でも目に入る。
「これは…誰が…」
私は恐怖と混乱で呆然と立ち尽くした。
「これは皇帝の仕業じゃ…。彼は年々力を持つようになってきたエルマギアをよく思っておらんかった。優秀な魔法使いを王国に差し出すように言われていたが、それを断り続けていたため、報復されたのじゃ。他の町でも同様の事があったと聞いている」
ルーカスさんは冷静に説明したが、表情は怒りに満ち溢れていた。
「でも、私は…私がここにいるせいかもしれない」
私は罪悪感に駆られた。
「そんなことはない。これは皇帝の野心じゃ。君のせいではない。今は生き残ることが最優先じゃ」
ルーカスさんは断固として言った。
町の中に入り、私は言葉を失った。
にぎやかで美しい町は一瞬のうちに壊滅状態となり、多くの人々の泣き叫ぶ声で溢れかえっていた。
生き残った者たちは、瓦礫の中で必死に助けを求めていた。
建物は崩れ、煙と炎が立ち昇り、辺りには瓦礫が散乱していた。
「ルナ、行こう。怪我人を助けるんだ」
私はルナに指示を出した。
ルナは頷き、私と共に行動を開始した。
「リト、わしはここで怪我人を治療する。できるだけ多くの人を助け出すのじゃ」
ルーカスさんは指示を出し、すぐに行動に移った。
私は倒壊した建物の中から必死に人々を救い出した。
瓦礫の下敷きになっている人々を見つけ、回復魔法を使って応急処置を施した。
「大丈夫ですか?動けますか?」
私は怪我をした人々に声をかけ、応急処置した後は、ルナがルーカスさんの元に運んでくれた。
「ありがとう…助かったよ…」
助けられた人々は涙ながらに感謝の言葉を口にした。
しかし、救いきれない命も多かった。
宿屋の主人のダリウスさんは、建物の下敷きになって死んでいた。
私に親切にしてくれた、ギルドの受付をしていたエリナは、爆撃を受けて焼け死んだ。
私がここ一か月の間で、挨拶や会話をするようになった人の中にも多くの死者が出た。
宿屋の主人の奥さんと娘さんは無事だったようだが、血まみれの主人の側で声を上げて泣いていた。
その姿を見て、私も我慢できずに泣いた。
「どうして…どうしてこんなことに…」
私は涙を流しながら、怪我人の救助を続けた。
「リト、大丈夫かの?」
ルーカスさんが優しく声をかけた。
「…私は…今すぐに王国に行って、私の全魔力をかけて報復してやりたい…!!」
私は涙ながらに言った。
「君の気持ちはわかる。だが、今は生き残った人々のために全力を尽くすことが大事じゃ」
ルーカスさんは私の肩を叩いた。
「わかりました…」
私は涙を拭い、再び救助活動に集中した。
ルーカスさんの方が、苦しくてくやしいはずだ。
ルーカスさんは、この町をここまで大きく発展させた人物の一人だと聞いた。
ルナも黙々と瓦礫を取り除き、人々を助け続けた。
街の惨状は本当にひどかった。
建物は崩れ、地面には大きなクレーターができ、街のいたるところで炎が上がっていた。
人々の悲鳴や泣き声が響き渡り、あんなに素晴らしかった場所は地獄絵図となっている。
その光景を見て、私は再び心の中に復讐心が芽生えるのを感じた。
ランドルの子孫も、くそ野郎だ!!
絶対に許さない!!
私があいつの血を根絶やしにしてやる!
私は、怒りで頭がどうにかなりそうだったが、その気持ちを察するとルーカスさんが何度も私に話しかけた。
「リト、今はとにかく生き残った人々を助けることが最優先じゃ。私たちができることを全力でやろう」
私は涙を拭い、心を奮い立たせて救助活動を続けた。
町は壊滅状態。
ルーカスさんがポツリと言ったのを聞いたが、町の半分以上の人が死んでしまったらしい。
生き残った、町のえらい人がルーカスさんの所にきて、何やら話をし始めたので、私はルナと一緒に、まだ生き埋めになっている人はいないか探した。
生き残った魔法使いもいたので、いたるところで人命救助が行われている。
亡くなった人達が一か所に集められ、そこに魔法で冷気が送られていた。
この町にいた人は、旅人も合わせて2000人ほどで、その半分が一瞬の攻撃で亡くなってしまったのだ。
まだ遺体が見つからない人もいるし、遺体さえ確認できない人もたくさんいた。
くそ!!
やっぱり、私が嫁いで息の根を止めてやれば良かった…。
私は、怒りで沸騰しそうな頭を落ち着かせるために、時間も忘れて人命救助をした。
「リト。一度休むのじゃ」
ルーカスさんに、そう声を掛けられたのは、半日が経った頃だった。
周りを見ると、火は消され、煙ももう立たなくなっていた。
優秀な魔法使い達が、被害がこれ以上出ないようにしていたらしい。
私は言葉も発することなく、ルーカスさんについて行った。
ルナも、そんな私を心配そうに見つめている。
なんとか形が残っていた、議事堂の中に通された。
少々狭い場所になっていたので、ルナは議事堂前で待つように伝えた。
「リト。こんなことに巻き込んで、すまんかった。」
ルーカスさんは、私に優しく言った。
「このような支配の仕方で壊滅した町や都市もたくさんあった。しかし、この町でしか生成されない魔法結晶(マナクリスタル)が貴重で、今まで手を出してこなかったんじゃが…」
ルーカスさんはため息をついて、
「わしが油断したせいじゃ…」
と言った。
「ルーカスさんのせいじゃありません!!全部あいつが悪いじゃないですか!あのくそ勇者!!」
私は思わず口にしてしまった。
私がハッとしてルーカスさんを見ると、ルーカスさんは、私をじっと見つめていた。
「もし…、わしの当てが外れていたら、聞かなかった事にしてほしい。リト…、ラターシュ…という人物は知っているか?」
ラターシュ…。
知ってるよ。
私の仲間だった、ラターシュなら。
でも、どういうつもりで聞いてるの…?
私が、どう答えていいかわからず無言でいると、
「シエーナ、ダイアン、リアム、ラターシュ、そして、大賢者リト…。どれも古い書籍に書かれ、この国の者なら誰でも知っていると思うのじゃが…、もしかすると、リトは、大賢者リトの記憶を持っているではないか…?」
そう言われて、ドキリとしたが、私はすぐには答えられなかった。
「わしが、200年前にランドルに裏切られて、体に大きな穴をあけられたラターシュの生まれ変わりだと言ったら、信じてくれるかの?」
えっ?
今、なんて?
「ラターシュ…なの?本当に!?」
私は、思わずルーカスさんの肩を掴んでしまった。
「やっぱり、リトなんじゃな!」
ルーカスさんはにっこり笑った。
「一緒に過ごして魔法を教えていると、どうしても昔のリトの姿と重なってのぉ。そして、その魔力量。さらに、勇者に対しての異常なまでの怒り…。やっと確信が持てたんじゃ」
勇者が裏切り者だという事は、私達以外知らない。
ましてや、勇者の仲間たちがどんな風に死んだかなんて、私達以外知りようもない。
ラターシュだ!
そういえば、外見は全く違うけど、性格はラターシュにそっくりだ!!
私だけが生まれ変わったんじゃなかったんだ!
「ラターシュ!!あの時助けられなくてごめん!!!」
私は、昔の仲間に抱きついて大泣きした。
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