第8話 資金調達成功!!

エルマギアでの生活が始まってから、私はまず生活費を稼ぐために魔法使いギルドに登録することにした。

ギルドの建物は古めかしいが、内部は整然としていて、受付には親切そうな女性が座っていた。


「こんにちは。魔法使いギルドに登録したいのですが」

私は受付の女性に声をかけた。


「いらっしゃいませ。こちらにお名前と魔法の属性を書いてください」

女性は笑顔で答え、登録用紙を渡してくれた。


リトと書き、魔法の属性として今まで割とうまく使えた、火、風、雷、治療魔法少々、と記入した。

「これで登録完了です。リトさん、お若いのにすごいですね。魔法使いとしての仕事はたくさんありますので、掲示板で確認してくださいね」


ここでも思うが、この世界は年齢制限がないんだよね。

宿泊とか、12歳の私も普通にできるし、自立できていればOKということで、10歳で会社を立ち上げる人もいる。

異世界に来る前も、そういう天才的な子供がいるとニュースで取り上げられていたが、ここでは割とよくあること。

「保護者」とか「未成年」とかいう概念がないのが、日本育ちの私には不思議で仕方がないが、その分未成年が親元から離れると保護してもらう事が難しかったりする。


今の私にはありがたい事なんだけど、子どもだからって甘く見てもらえないから頑張らないとね。


私は掲示板を見に行った。そこにはたくさんの依頼が貼られていた。


・薬草の採取:特定の薬草を集める仕事。(簡単だけど報酬は少ない)

・防火魔法の設置:町の建物に防火魔法をかける仕事。

・街灯の点灯:夜になると町の街灯に火を灯す仕事。

・浄化魔法の施行:汚れた水源を浄化する仕事。

・荷物の配送:魔法を使って重い荷物を運ぶ仕事。

・防御魔法の講習:一般市民に簡単な防御魔法を教える仕事。

・護衛任務:町の外れに住む老人を護衛する仕事。

・街中の掃除:ゴミを一気に集めて処理する魔法の仕事。

・病院での回復魔法補助:病院で回復魔法を補助する仕事。

・祭りの準備:町のお祭りのために魔法を使って飾り付けをする仕事。


うーーーーーん。

私、爆発的な魔法は得意だけど、コントロールは苦手なんだよなぁ。

転生前の修行でも、苦労したっけ。


公爵家に生まれてからは、魔法でいたずらはしたものの、修行という修業ができなかったから、魔法をコントロールする仕事は今はやめておいた方がいいだろう。


と、いうことで、まずは薬草の採取を始めた。

薬草については、公爵家でも勉強をしたことがあるし、転生前もラターシュに色々教えてもらったので、薬草の形態については少し知識があった。


「よし!たくさん採るぞ!」

私は張り切って薬草採取の依頼を引き受けた。


これで生活費が稼げる!と思っていたのだが…。

町の外に広がる森で薬草を探すのは楽しかったが、報酬はあまり高くなかった。



4時間頑張って、2銀。

こちらの通貨の価値をどうしても日本円で換算してしまう私。


1銅=1円

1銀=1000円

1金=1000000円


こちらの通貨の知識があっても、転生前も後もお金を自分で使う事がなかったから仕方がない。


2銀だから、約2000円。

時給500円かよ!!


「思ったより生活費を稼ぐのは難しいな…」

初日ということもあって、私が効率的に採取できていないのだろうが、私はギルドからの帰り道、ため息をついた。


次の日も薬草探しのギルドの依頼をもらった。


少しでも稼がないとね!

公爵家から持ってきたのは金が1枚、銀が200枚ほど。

それに、この前服を売った時の50銀。

これだけでもけっこうな額だとは思うが、何もしなければ減っていく一方だ。


ルナウルフを間近で見れたお礼という事で、宿泊費は格安にしてもらっているが、それでも一泊7銀はする。


私は夜ベットの上でお金を見ながら、今後の生活の採算した。

ルナは広い板の間でのんびりしている。


ルナの食事代も、ケチりたくないんだよな。

ルナは雑食でなんでも食べるが、やっぱり生肉が一番喜ぶ。

今度ルナが狩りをした時は、狩ったものはギルドに持っていき少しでもお金にしようと思うのだが、そんなお金になる程の魔獣を狩るなんて、そうそうないと思うし。


魔法の修行もして、もう少し稼げるようにならないと!


私は色々考えて疲れたので、シャワーを浴びる事にした。

服を脱ごうとすると、そんな私に気が付いてルナは私に背中を向ける。


すごく不思議なんだけど、私が服を脱ぐときは、絶対ルナは背中をむけるんだよね。

気を遣ってる?

なんか、魔獣なのに変なの。


私がシャワーから出ると、ルナはスヤスヤ寝ていた。

私も連日の疲れで、ベットに入るとすぐに眠ってしまった。



次の日は、昨日よりも朝早くに町を出た。


「今日も薬草探し、頑張ろうね、ルナ」

私はルナに声をかけながら、街の外れにある森へと向かった。

ルナはいつものように私のそばを歩き、時折鼻をクンクンさせて周囲の匂いを嗅いでいた。


森の中は静かで、木漏れ日が地面に美しかった。


最高の朝だね!!

肺の中まで浄化されそうだ!!


私は薬草の知識を頭に叩き込みながら、慎重に草むらを探っていた。


「これがヒーリングハーブかな…?」

私は小さな黄色い花が咲く薬草を見つけ、慎重に摘み取った。

ポーション生成に必要な材料は多種多様で、正確な識別が求められる。


ふと、ルナが森の奥に走って行ってしまった。

「ルナ、どこ行くの?」

と言った時は、もうルナはいなかった。

まぁ、自由にしたい時もあるよなぁと思い、薬草を集め続けた。


「リトさん、こんにちは」

突然、背後から聞き慣れた声が聞こえた。

振り返ると、長老ルーカスがにこやかに微笑んで立っていた。


「ルーカスさん!こんにちは」

ルーカスさんとは、初日に助けてもらった時から、何度か顔を合わせている。

「今日はポーションの材料探しかの?」

「そうなんです。私、魔法が使えるんですけど、最近どうもコントロールがうまくいかなくて。迷惑かけたら嫌なので、とりあえず完璧にこなせそうな仕事をもらってます」

ルーカスさんは、私が持っていた薬草を見て、

「ああ、これはヒーリングハーブではないの。…こっちがそうじゃ。ここの葉っぱの形が微妙に違うんじゃよ。」

と、本物のヒーリングハーブを見つけて見せてくれた。


あっ、本当だ!

ヒーリングハーブの葉は、ハートの形なんだ…。


「ルーカスさん、いつもありがとう。」

私がお礼を言うと、ルーカスさんはにっこり笑い、

「いやいや。私は嬉しいんじゃよ。あんたみたいな優秀な魔法使いに会えて。」

と言った。


優秀?

私が?


「ルーカスさん。私優秀じゃないです。色んな属性は使えるんですけど、いざという時に魔法が出ないし、今まで修行をろくししていないから、コントロールができないんです。」

私は、ここ数日の、ピンチの時に魔法が使えなくなる現象をルーカスさんに話した。

「ここに来たのも、その対処法がわかるんじゃないかと思って。まだ対応が出来てないんですけどね」

ルーカスさんは、私の体の前に手のひらを近づけて、何やら考え込んでいた。


どうしたんだろう…。


「リトさん。私は長年色んな魔法使いを見てきたんじゃが、あんたは本当に不思議な性質を持っている。なんというか…、あんたの肉体と魂が、うまく融合していないというか…。体よりも魂の年齢がものすごく高いというか…」

と、ルーカスさん。


え?

融合できてないとか、ちょっと怖いんですけど…。

っていうか、そんなことわかるとか、この人凄すぎる!

確かに、魂は少し特別だと思う…。

そうか、うまく融合できていないから、魔力も以前よりも少ないんだな…。


「あの…、それって、うまく融合できたら、どうなるんですか?」

私は言葉を選びながら尋ねると、

「融合というか、体がもう少し成長すれば、本来のあなたの魔力を出せるはずじゃ。ただ、その魔力量が…、計り知れなくて少し怖いくらいじゃよ」

ルーカスさんは、いつになく真剣な顔でそう言った。


な、なんか気まずい…。

本当の事を言えるわけないし…。


「えと、じゃあ、あの、ピンチの時に魔法がうまく使えなくなるのは、どうしたらいいか、わかったりしますか?」

私は話を微妙にずらした。


「ああ、それは、呼吸さえきちんとできれば解消できる問題じゃ」

ルーカスさんはようやく表情を柔らかくした。


私はルーカスさんに、魔法使いの呼吸法を教わった。

「この呼吸を毎日意識的に行いなされ。分散している魔力がきちんとまとまるようになるから、どんな時にでも魔法がきちんと使えるようになるはずじゃ。」


なるほどね。

やっぱり、リアムに昔言われた通りなんだ。

あいつ、口悪いけど、いつも正しいことしか言わなかったからな。


転生前にできたことが、今はうまくできないのは、きっとルーカスさんが言う体と魂の融合がまだうまくいってないせいなんだろう。

でも、だからしっかり修行をしないといけない。

もう危険な目に遭うのは避けたい。


「あの…、ルーカスさん。こんなお願いをして本当に図々しいとは思うんですけど、少しの間、私に魔法の修行をしてもらえませんか?」

私は、ダメ元でルーカスさんに頼んでみた。

すると、

「おっけーじゃよ」

という軽い返事。


軽すぎて、思わず

「えっ?いいの?」

と、聞き返してしまった。


「わしも、リトさんはもっと修行すればすごい魔法使いになれるし、勿体ないと思っていたのじゃ。しかも、わしけっこう暇じゃし」

と、にっこり。


暇なのかー。

それなら気軽に頼んでもいいかー。


そんな感じで、ルーカスさんに魔法を教えてもらう事になった私。


「とりあえず、今日の仕事をさっさと終わらせてしまおう。りとさん、こっちじゃ」

私はルーカスさんについて行き、ついた場所を見てびっくり。

「えっ?これ一面ヒーリングハーブですか!?」

先ほどはたくさんの種類がある草の中から見つけないといけなかったのに、ここは一面のヒーリング畑。

「三回くらい鉈で収穫したら終わっちゃうんですけど…」

「うん。さっさと終わらせて、早速修行を開始しようではないか!」


ルーカスさん、なんか張り切ってる!

そうか。

草を掻き分けないで、最初から群生している場所を見つけるのがいいんだな。

一つ勉強になった。


私はヒーリングハーブの収穫を終わらせ、また別の場所へ移動した。

「まずは呼吸法から。さっき教えた呼吸法を、わしがよいというまで続けて」

私は、ルーカスさんの言われた通りの呼吸法をした。


ああ、なんか、昔を思い出す。

私がまだ魔法初心者だった頃、みんなにこうやって教えてもらったな。

ランドルにも…。


「今、呼吸が乱れたぞい。」

「ご、ごめんなさい!」

私は慌てて呼吸を整える。


だめだ。

あいつの事を思い出すと未だに気分が悪くなる。

今は集中しよう。


呼吸を続けること、一時間くらい。

「リトさんは、なんの魔法が一番使いやすい?」

「うーんと…、初めて使ったのは火の魔法なので、割と火は得意です」

「では、今の呼吸をしながら目を瞑って、火をイメージして。そのまま指先を上に向けて…」

ルーカスさんはそう言いながら、私の肩に手を置いた。


ルーカスさんが私に触っていることで、私の中の火のイメージがものすごくしやすくなった。


「そのまま、一気に指先から火のイメージを放出してみるのじゃ」

ルーカスさんの言ったことを忠実にやってみる。


私の指先から、見たことがない火炎が放出された。

その勢いは、まるで火炎放射器!


すごい!!

範囲は狭いけど、威力は転生前の私の魔法と同等くらいだ。


でも、その放出は止まることがなく、私は慌ててしまった。

「えっ、ええっ!!ルーカスさん!!これどうやって止まるの!!?」

私はほとばしる火炎が出ている人差し指を上に向けたまま、顔だけルーカスさんを見る。

見ると、ルーカスさんも目を丸くしていた。

「いや、普通は数秒で自然と収まるのじゃが!!リトさん、消火のイメージじゃ!!」


ルーカスさんも慌てている!!

消火…消火のイメージ…!!


なんとか火炎放射器は止まり、私とルーカスさんは疲れ果てて座り込んだ。


「リトさん、あんた、わしが思っていた以上の魔法使いかもしれん!」

ルーカスさんは汗をかきながらも、笑いながらそう言った。

「大賢者リトと同じ名前なのは、もしかすると運命かもしれないのぅ」


「大賢者リト」

その言葉に私は心臓が飛び出るかと思った。


「こ、光栄です」

と言った後、

「でも、私やっぱりコントロールがきかないです…」

私は正直な感想を述べた。


「大丈夫じゃよ。それを今から修行するのじゃ。すぐに使いこなせるよ」

ルーカスさんのその言葉に、私はホッとした。


「今は、わしが少し魔力の放出の手伝いをしたのじゃが、今の感覚を覚えておくのじゃよ」

と言われ、確かに魔力の放出が促された感覚を思い出した。


「今日は大分疲れたと思うから、続きは明日にしよう」

と、ルーカスさん。


そういえば、かなりの魔力を放出してしまった。

でも、言われるほど私は疲れていなかった。


若さのせいかな。


私達がそんなやり取りをしていると、ルナが何かを咥えて戻ってきた。

大きな牛のような魔獣だった。


「ブルホーン!?また狩ってきたの?」

私は驚いた。


そんなポンポン狩れるものなのかい!!


ルナはどや顔をしている。

きっと、私にプレゼントのつもりなんだろうなぁ。


「ほほほ。リトさんは、友達に恵まれたのぉ。これで明日から修行に集中できるじゃろう」

ルーカスさんは、そう言って去ってしまった。


ブルホーンをギルドに売れば、私がちまちま薬草をとるよりも大金が入ってくるはずだ。

そうしたら、私は仕事をせずに修行ができる!

「ありがとう、ルナ!これをギルドに持って行こう!」


私たちは、ブルホーンをギルドに持ち込むことにした。

ブルホーンを咥えたルナを見て、門番の人達は一瞬ドン引きしていたが、すんなりと門を開けてくれた。

ギルドの受付で事情を話すと、担当者は目を見張った。


ギルドの依頼は受けていないけど、大丈夫かな…。


担当者は、奥の部屋に行って、上司らしき人を呼んできた。

その上司らしき人も、目を見張り驚いていたが、

「これは立派なブルホーンですね。素晴らしい!すぐに査定します」


良かった。

買い取ってくれるようだ。


しばらく待っていると、担当者が戻ってきた。


「これは非常に高品質なブルホーンです。ほとんど傷がないので、皮膚、牙、角、肉、すべて高値で買い取らせていただきます」


「ありがとうございます!」

私は驚きと喜びで声を上げた。


「はい。総額で10金と800銀になります」


「そ、そんなに!?」

私は耳を疑った。

1080万円くらいの価値だ。


「ブルホーンは、仕留めるのに普通はハンター10人必要です。しかも、致命傷をあたえるのが難しいため、傷だらけになるのが一般的なんです。だから、こんなにいい状態の物は、なかなか手に入らないんですよ」

と、説明された。


ルナ…、おそるべし!!

ちなみに、私が収穫したヒーリングハーブは5銀だった。

でもそしたら、洞窟でルナが処分したであろうブルホーンの残骸にも、相当な価値があったんだろうな…!

勿体ないことをしたーー!!


私はその値段で売るのを承諾しようとしたが、

「あ、あの、肉だけはこちらでもらう事ってできますか?もちろんその分は引いてもらってもいいので」


実はルナの食事に困っていた。

ルナは食べない時は全く食べないのだが、この前はブルホーン一頭を、ほぼ丸ごと食べていた。

って事は、私が買ってくるお肉の量だけじゃ、お腹は満たされていないのだと思う。


肉も高級食材だということで、そこから2金引かれることになったが、まったく問題ない。


差額分をしっかり受けとり、お金の重みを感じた。

「ありがとうございます!」

私は感謝の気持ちを込めて、ギルドの人達に礼を言った。


こうして、私はエルマギアでの生活費十分に得ることができ、ついでにルナにもたくさん肉を食べさせることができたのだった。

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