第7話 ルナウルフについて知った日。

翌朝、私はルナと共にエルマギアに向けて再び歩き出した。

山道以外はルナが背中に乗せてくれてた。


昨日の夜の食事の後、ルナはまたいなくなったと思ったら、水浴びしたのかきれいになって戻ってきた。


私が血を見て落ち着かないと気づいたのか、食べた後もキレイに始末されていた。


こんな気遣いできるなんて、人間ならモテモテだな!


町の外観が遠くに見え始めたとき、私の胸は高鳴った。


「ルナ、多分あれだ!見えてきたよ!」

私の言葉にルナも小さく吠えて反応する。


ようやくエルマギアがすぐそばまで見えた時、私は深い感動を覚えた。

ここに来ることができた喜びと期待で胸がいっぱいになった。


街の門は巨大で、その前には数人の門番が厳しい表情で立っていた。

エルマギアはセキュリティが固い街であり、特に魔法の力を持つ者が多く集まるため、外部からの侵入者に対して厳重な警戒をしているということだった。


大丈夫かな…?

入れてもらえなかったりして…。

特にルナは無理かもしれない…。


「ここはエルマギアの門。通行手形はありますか?」

門番の一人が私たちに声をかけてきた。


手形!!

そんなのない!


「わ、私はリト。魔法が使えます。こちらの狼は私の友達のルナです。エルマギアで魔法の知識を深めたいと思っています」

私は少し緊張しながら答えた。


「あなただけでしたら、手続きして問題なければ手形を発行します。でも狼はダメです。人に危害を加えそうな動物は許可できません。」

別の門番が厳しい口調で言った。


だよね。

でも、一応説得はしてみよう…。


「で、でも、このルナはただの狼じゃないんです。私の言葉を理解できるし、危険ではありません」

私は説明しようとしたが、門番たちは頑として聞き入れなかった。


どうしよう。

ルナには町の外にいてもらうしかないか…。

なんか、ここまで一緒に来たのに、せつないな…。


その時、突然後ろから穏やかな声が聞こえた。


「待ちなさい。その狼はただの狼ではない」

振り返ると、一人の老人がこちらに近づいてきた。

門番たちに緊張が走り、背筋が伸びる。

彼は長い白髪と白い髭を持ち、古びたローブを纏っていた。

彼の目は鋭く、何かを見透かすような光を宿していた。


「その狼は『ルナウルフ』だ。魔獣の中でも特別な存在であり、危険な生き物ではない」

老人は静かに言った。


「ルナウルフ…?」

私は驚いてその言葉を反芻した。

門番たちも、

「ルナウルフ…?まさか…。初めて見たぞ…」

と、ザワザワしている。


「そうだ。ルナウルフは月の光を浴びてその力を増し、人間と心を通わせることができると言われている。非常に賢く、忠誠心が強い生き物だ」

老人は微笑みながら説明してくれた。


「門番殿、私はこの町の守護者だ。私が責任を取りましょう。この者たちの入城を許可します」

老人がそう言うと、門番たちは驚いた表情を浮かべ、すぐに敬礼をした。


「わかりました、長老様。リト様、ルナウルフ様、失礼いたしました!!どうぞお通りください」

門番の一人が通行手形を発行し、私たちは無事にエルマギアの門を通ることができた。


「ありがとうございます…。長老様」

私は深くお辞儀をして感謝の意を示した。


「お礼には及ばないよ。君のような若者がこの街に来ることは歓迎すべきことだ。それに、ルナウルフが君を助けているということは、君には何か特別な力があるのかもしれない」

長老は優しい笑顔で言って、去って行った。


エルマギアの街に足を踏み入れた瞬間、私はその美しさと神秘に圧倒された。

古風な建物が立ち並び、所々に魔法使いが使う道具や薬草が並ぶ店が点在していた。

街を歩く人々も、どこか異なる雰囲気を持っており、魔法の力が日常生活に溶け込んでいることが感じられた。


「ここがエルマギアか…すごいな」

私は街の様子に圧倒されながら、ルナと共に歩を進めた。

街の中心には巨大な塔がそびえ立ち、その頂上には輝くクリスタルが据えられていた。

そのクリスタルは昼夜問わず光を放ち、街全体を見守るようにしていた。


私は、まずは宿を探すことにした。

幸い、街の入口近くには宿屋がたくさんあり、私はその中の一つに入ることにした。


「いらっしゃいませ、お泊りですか?」

宿屋の主人が笑顔で迎えてくれた。


「はい、しばらく泊まりたいのですが…。あの…、こちらの狼も一緒にいいですか?」

私はルナを指差しながら尋ねた。


主人は一瞬驚いた顔をしたが、まじまじとルナを見た後、

「もしかして…ルナウルフですか?実物、初めて見ました…。それなら特別な部屋を用意しよう。安心して泊まってください」

と、快く引き受けてくれた。


「ねー、ルナ。あなたって…ルナウルフってそんなにすごいの?なんか、ルナウルフに対しての反応がすごいんだけど…。」

私が言うと、ルナはちょっとドヤ顔している。


なんか腹立つな、その顔。


ルナウルフだから、「ルナ」って名前が気に入ったのかと、今になって納得。




部屋に荷物を置き、少し休んだ後、私は街の図書館に行くことにした。


図書館の周りには広大な公園があった。


「ルナごめん。図書館はさすがに一緒に入れないから、待っててくれる?」

私の言葉にルナは了解したように、大きな木の下で丸くなりだした。


ルナ、実はけっこう疲れてるのかもしれないな。

私は乗せてもらえて助かったけど、ルナは休んでいないもんね。


私はルナの首あたりを少し撫でてから、図書館の入口に向かった。


エルマギアの図書館は古代からの魔法の知識が詰まった場所で、多くの魔法使いが利用していると聞いていた。


図書館の中は広く、壁一面に古い書物が並んでいた。私は興味深い書物を手に取り、読み始めた。


その中で、洞窟で食べた牛のような魔獣についての記述を見つけた。


「ブルホーン…?これって、昨日食べたやつじゃん!!」

私は思わず口に出してしまった。


ブルホーンは非常に強い魔獣であり、その皮膚、牙、角は武器に加工できる。

また、肉は高級食材として扱われ、どちらもギルドで高値で買い取られるということが書かれていた。


へー!あの肉が美味しかったのはそういうことか!

牙とか角も血まみれだったから触りたくなかったけど、持って帰れば良かったかも…。


っていうか、この非常に強い魔物を、ルナは余裕で仕留めていたよな…。

ルナが味方で良かったが、強すぎて怖いな…。


「ルナウルフ」についても記述されている本があった。

私はその内容に目が飛び出そうだった。


以下、本に書かれている事を抜粋。



ルナウルフ(Luna Wolf)は、伝説の魔獣の一種であり、魔法の世界において特別な存在とされています。その名の通り、月(ルナ)の力と深く結びついており、月の光を浴びることでその力を増幅させることができるとされています。


特徴

外見…ルナウルフは銀色の美しい毛並みを持ち、その毛は月光を反射して輝きます。

通常の狼の二倍の大きさを持ち、その姿は威厳に満ちています。

目は澄んだ青色で、知性と優しさが感じられます。


能力…ルナウルフは高い知性を持ち、人間の言葉を理解することができると言われています。

非常に強力な魔力を内に秘めており、月の満ち欠けに応じてその力を自在に操ることができます。

戦闘能力も高く、鋭い牙と爪で敵を圧倒することができます。


特別な力…ルナウルフは特定の人間と心を通わせることができ、その人間に対して忠誠を誓います。

月光を浴びることで癒しの力を発揮し、自らや仲間の傷を癒すことができます。

また、危機的状況においてはその魔力を爆発的に増幅させることが可能です。


伝説

ルナウルフの起源は古代の魔法書に記されており、その力は月の女神ルナによって授けられたと伝えられています。ルナウルフは女神の使者として選ばれ、地上の人々を守るために存在していると言われています。


生息地

ルナウルフは通常、深い森や山岳地帯など人里離れた場所に生息しています。彼らは非常に希少であり、その存在を確認することは極めて困難です。


関連する魔法具

ルナウルフの毛や牙、爪は、強力な魔法具の材料として珍重されています。これらの素材から作られる武具や防具は、持ち主に対して特別な力を与えるとされています。


飼い慣らしと忠誠

ルナウルフが心を通わせた人間に対しては、絶対的な忠誠を誓います。彼らはその人間を守るためならどんな危険にも立ち向かい、命を懸けることを厭いません。




ルナって、魔獣だったんだ…。

狼にしてはでかいと思っていたけど、こんなに貴重な魔獣だったなんて…。


図書館の窓から、ルナが昼寝をしている様子が見えた。

その周りに、ルナウルフの存在を知っている人なのか、数人興味深そうに見物していた。


エルマギアでは、知能が高い魔獣も町の中にいて、ペットというよりも相棒として一緒に歩いている人もいた。

日本にいた頃馴染みがあった、ライオンとかヒョウとかトラとか、そういった動物に似た魔獣が多く、この辺は動物と魔獣の区別って本当に難しい。


私はこの手の勉強はしてこなかったので、魔獣は知能が高かったり、非常に強かったりするから、それで区別してるのかな?くらいに思っていた。


それにしても、私がいた公爵家の生活からすると、ここは別世界のようだった。


町には様々な魔法使いが集まり、日々の生活の中で魔法が使われていた。

そんな様子を見ていると、昔日本で見たサーカスを思い出す。


図書館で3時間ほど本を読んでから、私はルナの元に戻った。


ルナは子供達に囲まれて、少しうるさそうにしていたが、静かにしていた。

私が来ると立ち上がえり、私の横にピッタリと寄り添った。


ルナウルフはかなり貴重な存在のようだったが、町の人達は興味深そうだが深く詮索もせず、それが私にはありがたかった。

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