第6話 狼との旅で、初めてのグロテスク

銀色の狼と共に町を出た私は、心強い味方を得たことで次の目的地、魔法使いが多く滞在する街「エルマギア」へと向かうことにした。

エルマギアは魔法使いの聖地とも言える場所で、魔法使いが多く集まるという事だ。

ここで新たな知識と力を得ることが私の目標だった。


とにかく、自分の力で生きていくためには、今よりも強くならないと!


それに、とっさの時に魔法を使う事ができなくなるので、その解決方法も知りたかった。


あれから何度か試してみたが、集中できるときは普通に魔法が使える。

でも、ピンチの時に使えないんじゃ、意味がない。


「さて、行こうか」

私は狼の頭を優しく撫でながら言った。

狼はしっぽを振り、私に従うように歩き出した。


ここらだと、さらに50キロくらいはあるという事だが、エルマギアはかなり大きな町なので、そこへ行く道は山道だけど割と整備されていると、昨日泊まった宿屋の主人に聞いた。


ただし、歩いていくとなると、一度どこかで野宿が必要だという事だった。

エルマギアは警備が厳しく、夜間は町へ入る門を開いてくれないらしい。


50キロとなると、平坦な道を休みなく歩いたとしても、10時間くらいはかかるだろうから、今から日が高い間に着くのは無理だ。


「けっこう遠いんだって。途中で野宿するからね」

と、狼に言うと、狼は任せろと言わんばかりに吠えた。


忠犬みたいだな。

っていうか、人間の言葉わかるのかな?

なんとなーく伝わっているような、伝わっていないような…。


私の横をついて歩く狼を見ていると、なんで私に懐いたのかは謎だけど、取って喰うつもりはないようだ。


「ところで、狼さん…って呼ぶのもあれだから、名前をつけてもいいかな?」


狼は、私をじっと見つめている。


「うんと、ウルフとか、どう?」


狼、無反応。


「えっ、気に入らない?…じゃあ、ハチ」


狼、無反応…、っていうか、ちょっとイラっとしている感じ。

犬の名前だってわかるのかな?


「シルバーの毛だから、シルバーとか!」


けっこういんじゃない??


狼、無反応。


こだわり強いのか?


「えー…、なんか面倒くさくなってきた…。うーん」


私はその後、かなり色んな名前を考えたが、狼はシラーっとしているので、適当に色んな名前を言った。


「…もうさ、月の夜に初めて会ったから、月でいいんじゃない?それか、ツッキーとか。ツッキーいいじゃん!ムーンでもいいし、ルナとかは?」

と、適当に言っていると、一瞬狼が頷いた。


ん?

やっと反応あり!!

なんだ?ツッキーか!?


「ツッキー」

無反応。


「ムーン」

無反応。


「ルナ」

頷く、狼。


「ルナか~~!!女の子の名前みたいだけど、それでいいならそう呼ぶね!ルナ!」


ルナは嬉しそうに、吠えた。


はぁ~~~。やっと決まって良かった。

こいつ、意外とこだわり強いわ。

一時間以上考えたじゃん!!


ルナは少し嬉しそうにしているので、まぁ、頑張って考えたかいはあったかな?と思いなおす。


「ルナ、本当は背中に乗せてもらったら早いんだけど、山道だしちょっと怖いんだよね。平坦な道になったら、また乗せてくれる?」

と聞くと、ルナはこくこくと頷いた。


やっぱり、私の言ってる事がわかるんだ!

すごいな!


私とルナは、休憩を取りながらも頑張って歩いた。

何キロ歩いたかは定かではないが、けっこうな距離を歩いたと思う。


日が暮れてきたので、道から少し外れた場所に、小さな洞窟を発見したので、そこで野宿をすることにした。


「ここで少し休もう」

洞口は、深くはないが、私とルナが寝るだけの広さはあった。

そこに腰を下ろし、疲れた体を休めた。

ルナはその隣に座り、私を見守るようにしていた。


「お腹すいたな…」

私が呟くと、ルナは突然立ち上がり、走り出したかと思うと、あっという間に森の奥へと姿を消した。


えっ?

ちょっと、一体どこ行ったの!?

急にいなくなるとか、なくない?


私は、少し不安になりつつ、とりあえず洞窟の近くに落ちてあった木を拾い集めることにした。


夜は寒いから、焚き木をしようと思ってたけど、一酸化炭素中毒とかにならないかな…。


私は、できるだけ洞窟の入り口に木を置き、魔法で火をつけた。


こんなことは、公爵家の教育では教えてもらわなかったからなー。

日本で得た知識を頼りにするしかないな。

…それにしても、ルナは一体どこに行ったんだろう…。


少し寒くなってきたので、焚き木が調子よく燃えてくれたのはありがたい。

先ほどよりも夜の色が濃くなり、気温がぐんと下がってきたのが体感でわかり、心細くなってきた。


私は膝を抱えながら、顔を伏せていると、


どさっ!!


何か大きなものが落ちる音がした。


帰ってきた!


私は顔を上げた。

そして、短い悲鳴をあげた。


口の周りを真っ赤にさせたルナが、得意げに私を見ている。

ルナの足元には、大きな獲物が横たわっていた。


なにこれ!!

牛!!?

牛にしては、なんか牙とか角とかあるし、筋肉質のような気がする!

なにこれー!!


「ルナ…、これは一体…!?」

私は顔を引きつらせながら聞くと、ルナはその牛のようなものの太ももらへんをブチブチっと食いちぎり、私の目の前に近づけた。


ぐろい!!!

モザイクかけて!!!


私は心の中で悲鳴を上げたが、これは私に狩ってきてくれた獲物だということも理解した。


「あ、ありがとう…。私は焼いて食べるね!」

顔は引きつっていたと思うけど、お礼は言った。


ルナは満足そうな表情をすると、私から少し離れた場所にその牛みたいな獲物をずるずる引きずっていき、モザイクが必要な感じでがつがつと食べ始めた。


ひ、ひぃいいいい!!

見ちゃいかん!!


私は、できるだけルナの食事風景を見ないようにしながら、肉を火であぶり食べてみた。


「………んん!!おいしい!!」

味をつけていないのに、本当に美味しくて感動してしまった。


なにこの肉!!

牛肉って熟成しないと美味しくないって聞いたことがあるけど、この肉はこのままで美味しすぎる!!!


あまりのおいしさに、ルナのグロテスクな食事風景も気にならないくらい、私は夢中で夕食をとったのだった。

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