第一章
第2話 冷遇されてるけど、ちゃんとやり返しているからOK
転生した私だったが、今度はけっこう冷遇される立場だった。
私は公爵家の愛人の娘として生まれた。
私の母は街の花屋の娘で、その美しさから公爵に見初められ、手を付けられたらしい。
当時35歳の公爵が、18歳の私の母に手をつけたということだが、あまり裕福ではなかった私の母の両親、つまり私の祖父母は、公爵の寵愛を大喜びしていたようだ。
積極的に二人で会える場所を提供し、やがて母は私を身ごもった。
そしたら、祖父母は金目当てに公爵家に行って抗議をしたらしく、公爵は母を屋敷の離れに住まわせることになった。
祖父母は、実質私の母を公爵に売り飛ばしたという形だ。
公爵が花屋に出入りしていた事は周知の事実だったので、母の妊娠に対して、公爵も知らんぷりはできなかったんだろう。
母は、紳士的な公爵に心の底から惚れていたので、離れとは言え公爵の近くに住めることを喜んだのだが、公爵の興味は次第に冷め、母は次第に孤独な日々を送るようになった。
私がかつて暮らしていた世界でも、歳の差カップルはいたが、公爵…私の父はクソだと思った。
どうしてここまでの情報を私が知っているかというと、使用人たちが、母をバカにしているから、聞こえるようにいろんな事を言うのだ。
「かわいそうよね。実の両親に大金で売られて」
「公爵様は、すっかり飽きてもう呼び出しもないわよね」
「顔だけの女だしね。あーあ、私達なんであんな女の面倒見ないといけないのかしら」
と、まあ、こんな感じで。
私が生まれた時の産婆さんは、割といい人だったんだけど、ずっといてくれる訳もなく、こういう性格の悪い使用人に囲まれて、母は肩身の狭い思いをしていた。
母は、女の私から見ても、本当に美しい女性だった。
祖父母のような金の亡者に育てられたのにも関わらず、心優しく常識的、そして、穏やかな性格だった。
でもなー、いい人が馬鹿をみるのはどこの世界も同じなんだよね。
毒親のせいで、依存体質になってしまうっていうのは聞いたことがあるけど、私の母の場合は公爵の愛に依存してしまっていたようで、どんどん精神を病んでしまっていた。
私がいたから、なんとか生きる希望が持てていたみたいだ。
生後三か月頃のある日。
使用人が母が大事にしていた花瓶をわざと割った。
「すみませ~ん、手が滑って~! あっ、今から私たち屋敷の方の仕事で呼ばれているので、片付けできませんので~」
と、その使用人たちはクスクス笑いながら言った。
母は文句も言わず、片付け用としていたが、私は使用人に対して腹が立ちすぎて、「燃えてしまえ!!」と念じてしまった。
「あ、あうあ!!!」
と、私の怒りの言葉で、体中の毛が逆立つような感覚になったかと思うと、一気にその沸き立つ力が放出された。
その途端、
「えっ!何!!ちょっと!!燃えてる!!服が!!」
「いやーーー!!私の服も!!」
「きゃーーーー!」
使用人3人の服がスカートから燃え始めた。
大慌ての3人が、外の井戸で水をかぶり、軽い火傷はしたものの命に別状はないようだった。
え…!!
魔力もあるし、魔法も使える!?
私、世界一強い赤ん坊じゃん!!
いや…、でもこれは気を付けなくては…。
魔力は弱いものの、魂に刻まれた大賢者の力は健在だったことに驚いたが、私の力は人を簡単に殺せてしまうものだ。
使用人は軽い火傷で住んだが、私は魔法をむやみに発動しないように、とても注意するようになった。
「あの…、大丈夫?」
と、母が使用人たちに声を掛けた。
「ひ、ひぃいいいいいい!!」
と、使用人たちは母の呪いかなんかだと思ったのか、一目散に逃げて行った。
その様子を見て私は、
「いたずら程度なら、魔法もいいだろう…」
と思ってしまったのだった。
生後6か月。
一般的には少し早いようだが、ハイハイができるようになって活動範囲も少し広くなった。
母に意地悪をすると、なにやら不吉な事が起きるので、使用人たちの態度も以前よりは悪くはなくなった。
何せ、やられたらやり返す!10倍返しだ!の精神で、意地悪をされたらこっそり仕返しを続けたのだ。
魔法で家具を動かし、彼らを驚かせたるのは常套手段。
「うわっ、何だこれ!?」
使用人の一人が、勝手に動き出す椅子からから転げ落ち、悲鳴を上げた。
「お化けだ!お化けが出た!」
別の使用人も慌てふためいて叫んだ。
風魔法とかを使えば、けっこう色んなことができるんだよね。
あと、雷の魔法で、天気のいい日に庭の木を真っ二つにしたこともあった。
私の母に意地悪をした時に、決まってそんなことがおきるものだから、使用人は気味悪がって、すっかりおとなしくなってくれた。
私たちが住んでいる屋敷の離れは、広大な庭園の端にひっそりと建っていた。
古びた石造りの建物で、壁には苔が生え、風雨に晒された跡が残っていた。
内部も決して豪華とは言えず、簡素な家具が並ぶだけの質素な部屋だったが、それでも、私が日本に住んでいた家よりはずっと大きい。
使用人がいなければ、家事は大変だからね。
しっかりやってもらえたら、文句はない!
私の体は赤ちゃんだけど、魂自体は異世界で暮らした時間も合わせて20歳ほどだ。
視力がぼんやり見えてくる頃になると、視覚の情報から、文字や数字などは異世界に来た時とほぼ変わらない事がわかってきた。
母が寝た後、静かにベットを抜け出し、魔法で書斎の本を毎日見るのが日課になった9か月頃。
中学校の保健の時間に、赤ちゃんの視力についての話があったのを覚えていた。
たしか、9か月頃は、メガネが必要か必要じゃないかの微妙な視力って言っていたな。
たしかに、1.0の視力だった当時の私よりは劣るが、割とちゃんと見えるようになってきた。
あのおばちゃん先生、元気かな。
あれから何年たったのかもわからない状態が、少し怖かった。
だから、本で読んで情報を探ろうと思い夜な夜な読書をしているのだった。
色んな本を読んでわかったことは、私が死んでから、約200年経っている事。魔王を倒した勇者ランドルが英雄になり、今はランドルの子孫が皇帝になっていること。
あと、私たちの事も書かれていた。
勇者の仲間たちが、魔王討伐に貢献したこと。
ランドルが、仲間の死を乗り越え、魔王を倒したこと。
うそばっかりだな!
あいつ…。
まじで許さない!!
家の中が、バチンバチン!!と音を立て始め、私は我に返った。
あぶない、あぶない。
怒ると体から魔力があふれ出してしまうので、落ち着こう…。
あと、魔法を使える人間が、激減していることもわかった。
魔王に対抗するために、人間も魔力を持っていたようだが、魔王が倒された今は人間が使える魔力も減ってきたということだ。
自然の摂理ってすごいな…。
魔獣はまだいるが、適正にハンティングされているため、人間の生活には支障がないようだ。
元々魔獣は動物との差別化も難しいものも多かったし、武器や道具に使える素材も多かったので、むしろ絶滅しないでいてくれた方が人間も助かっているのだろう。
うまくこの世界の生態系ピラミッドにも溶け込んでいるということだ。
まぁ、平和になっているのはいいのだけど、ランドルに対しての憎しみは消えない。
でも…、子孫に復讐をしたところで仕方ないとも思ってしまう。
私は、ランドル本人を八つ裂きにしたいのだ。
あの時の…、仲間たちの死ぬ姿は、一生忘れることはないだろう。
歴史を知ると、私のやり場のない怒りでどうにかなってしまいそうだったが、それでも今の赤子の自分には何もできない事もよくわかっていた。
私は本を読みながら、いつの間にか泣いていた。
自分でも気づかなかったが、大泣きしていたようで、その泣き声を聞いた母が飛んできた。
「リト…、こんなところにいたの!? 心配したのよ…!!」
母は私を抱きしめた。
温かい。
私の中に渦巻いていた怒りが、母の温もりによって解けていった。
でも、私は涙が止まらず、母にしがみついて泣いた。
シエーナ。
ダイアン。
ラターシュ。
そして、リアム…。
助けられなくて、ごめん。
異世界から来た私を、いつも心配して優しくしてくれた。
仲間として大切にしてくれたけど、みんな私を末っ子の妹みたいだと、かわいがってくれていた。
最期の最期まで、私に「逃げろ」って言ってくれた。
あの時から200年経っているけど、生まれ変わった私は、みんなのために何ができるかな…。
かたき討ちを望んでいるのだろうか。
わからない。
行き場のない気持ちが溢れ、私は泣きつかれて眠るまで、ずっと母にしがみついて泣いていたのだった。
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