第36話前記生徒会長

「前期生徒会長、園崎そのさき時雨しぐれ様より開会のお言葉をいただきます」


 会場に鳴り響いたアナウンスと共に、ステージ脇にあるマイクにスポットライトが当てられる。

 教師陣の席の近くにあるマイクの側には美しい青紫の長髪をなびかせる一人の女子生徒の姿。この学園に通っている者なら知らない奴はいないであろう人物、前期生徒会長の園崎時雨だ。

 ウチの学園では毎年前期生徒会長が開会宣言と共に軽いスピーチをするのがおきまりとなっている。拍手に包まれた会場の中で俺は七海の方に目線を向けた。


(…成る程。莉々菜を入れたのはそういうことか)


 マイクの前に立った時雨先輩は、拍手が収まるのを少し待ってから話し始めた。


「皆様、お久しぶりです。今年もこの季節がやってまいりましたね。わたくしも前期生徒会が活動を終えてからこの日をまだかまだかと待っておりました」


 凛とした声は会場の隅にまで届き、生徒全員が時雨先輩の言葉に耳を傾ける。

 前期の生徒会選挙は時雨先輩が大差で勝った。先輩はその期待通りに次々と学園行事を盛り上げ、校則の改善や部費を見直しなど多くの改革を行った。それ故に生徒から彼女への信頼は厚い。熱烈なファンもいてファンクラブもあるのだとか。


「今回は水無月さんと星導さんが生徒会長の座を争うということで、お二人には全力を尽くしていただきたいと思っております。私としては妹の莉々菜をメンバーに据えている星導さんに頑張っていただきたいですね」


 時雨先輩の一言に生徒たちがざわつき始める。 

 あの信頼の厚い前期生徒会長がわざわざ口頭で七海を支持していると言ったのだ。この時点では生徒たちの関心は明らかに七海に向いてしまったことになる。…くそ、莉々菜の奴、最近音沙汰ないと思ってたら七海の方に着いてたのか。まぁあいつにお願いしてもこっちについてもらえないだろうけど。


 七海の方をチラ見すると、勝ち誇ったような笑みを浮かべた表情を浮かべていた。まだこの時点ではなにも決まっていない。焦ったところでいいことはないんだ。ここは一旦落ち着いてできることをするしかない。


 七海の方に鋭い視線を向けていると、その後ろにいた莉々菜と目が合う。莉々菜はまるで俺を責めるような目つきで俺を睨んだ。…俺なんかしたかな。


「ここで前期生徒会長の私から恐縮ではありますが、立候補者のお二人にアドバイスを。生徒の信頼を得るためには公約もさることながら、この行動を実行に移せる行動力も必要です。生徒会選挙はただの始まりに過ぎないのです。この先も任せられる、と信頼された者だけが勝利を収めるのです。お二人共、このことはぜひとも心の内の留めておいてください」


 時雨先輩の言葉に会場の空気が引き締まる。励ましなのか脅しなのか、その言葉には生徒会長相応の圧がある。生徒会長に相応しいかどうかはこの後の行動で決まる、ということなのだろう。説得力のある言葉は俺の心にも響いた。


「…さて、お話はここまでにしておいて。あとはこの場はお二人に任せるとしましょう」


 時雨先輩は一つ間を置いてから言い放った。


「今ここに、第126回、生徒会選挙の開会を宣言します!」

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