第6話回想

 生まれ変わって16の年月が過ぎた時、私はついに彼を見つけた。


 グレイ・アレグリア。戦争孤児ながらに努力のみで王国騎士団団長まで上り詰めた男。周りからの信頼は厚く、彼もそれを裏切ることはしない。頼りがいのある兄貴分、というのが世間の評価だった。


 だが、中身を割ってみてみればただの自己肯定感の低い馬鹿。天才秀才の中に放り込まれて自分の力に気づかない、哀れな男。才に嫌われた男、とでも言うべきだろう。そんな彼を私が放って置くわけがなかった。


 私は彼を指名で専属の騎士にした。努力で成り上がった者は誰よりも信頼出来る。それに、彼は私をいつも一人の少女として見てくれていた。 

 歳が同じ事から親しみやすさもあったが、周りが私を姫として地位やその資産としか見てこないのに対して目線を合わせてくれていたのは何より嬉しかった。


 次第に私は彼に好意を寄せていった。それを表面上に出すことはなかったけど、自分でもあの男に惚れるとは思っていなかった。戦うことしかできない不器用な男。そこが私の加虐体質をそそらせたのだ。


 自分で言うのもなんだが、私の愛情は狂っている。

 好きな人ほど虐めたくなるし、ひどい目に遭わせて困っているところを見たい。そして私に縛り付けられて、恐怖でガタガタ震えているところを思いっきり抱きしめてあげたい。

 SかMかで言ったら完全にS。それもド級の。そんな私を彼は良くは思っていなかっただろう。


 私は彼にいろんな我儘を言って困らせた。紅茶を淹れさせてみたり、行事がめんどくさいから城から一緒に抜け出そうと言って街に出かけたり。彼にはいろんな無理難題を押し付けた。

 

 あの日もそうだった。国が奇襲に遭い、王城手前まで軍が迫っていた頃、彼を見つけた私は言った。『生きて帰ってこい』と。

 それがどうあがいても叶わないことは知っていた。敵は既に王城に差し迫り、滅亡は逃れられない状況で王国騎士団団長が国のためにやることなんてただ一つしか無い。


 そうは分かっていても、彼を失ったという事実はかなり堪えた。


 あの日を生き延びてから数十年間、私は彼を忘れることはなかった。こんなことになるぐらいだったら早くにでも二人で駆け落ちでもしていればよかった、なんて思いながら。

 彼の名を呼んでも彼が帰って来る事はない。そんな地獄のような日々を過ごした私はついに息絶えた。


 そして私はこの世界に転生し、彼を再び見つけた。財力のある家庭に生まれたことから彼を探すのはそう苦労はしなかった。

 たとえ見つからなくても、見つかるまで探すまで。その精神でいたつもりだったが、彼を見つけたという報告が来た時はらしくなく泣いてしまいそうだった。


 ただ嬉しかったのも束の間、彼には記憶がなかった。自分にはあったものだからてっきり彼にもあるのだと思っていたが、神様は意地悪だ。

 彼の中には私がいない。そう考えると心の中に空虚なものが広がっていくのが分かる。それほどに私は彼という存在を欲していたのだ。


 だが、無いものは無い。さすれば彼の中を私で埋め尽くすまで。この世に再び生を授かったからには存分に楽しまなくては。

 今世では老衰するまで私につきっきりでいてもらう。口答えは許さない。誰にも渡さない。絶対に自分のものにする。


「ふふっ…楽しみね、グレイ」

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