第三章 てんし
「お母さん、お母さん」
「あら、どうしたの?」
それは、私がまだ小学校に上がる前のことです。
「てんし、って、どういういみなの?」
偶然、どこかで、その言葉を聞いたのでしょう。何か、不思議なものを感じた私は、お母さんの服をぐいぐいとひっぱって、聞いたのです。
「それはね、とっても素敵な女の子を表す言葉なのよ。とっても綺麗で、とっても優しい女の子」
「すごい!すごい!どうすればあえるの?」
「そうねえ、天使は天国ってところにいるから、会うのはちょっと難しいかもねえ」
「てんごく?てんごくってどこにあるの?」
「お空のとーっても高いところにあるのよ」
「うーん……じゃあ、じゃあ、てんごくって、どうやったらいける?」
「簡単には行けないところよ。良いことを沢山した人だけが行けるところなの」
「へぇー!じゃあわたし、がんばる!がんばって、たくさんいいことする!」
自分のことながら、あまりにも純粋で、単純だなあと、笑ってしまいます。それでも、この時お母さんとしたお話を、鮮明に憶えているのは、きっと、心から天使に憧れていたからだと思うのです。もしかしたら、この後お母さんに、ふふふ、頑張ってね、と言われながら頭をなでられたのが、あまりに嬉しかったから、かもしれませんけど。
***
私は、小学校低学年のころ、とっても良い子でした。そうなるよう、頑張っていたのです。それを頑張ることが、楽しかったのです。そんな私を、お母さんも、お父さんも、沢山褒めてくれました。
家に帰れば、お帰りーっと、いつでもお母さんが、元気よく私を迎えてくれました。学校であったことも、気になったことも、嬉しいことも、悲しいことも、お母さんは、どんな小さなことでも、私とお話してくれました。それで、私が良いことをした日には、優しく頭をなでてくれました。お母さんの手は、柔らかくて、温かくて、元気に満ち溢れてて、まるで、お母さんの心に包まれているみたいで、とっても、嬉しかったです。
休日には、お父さんも家にいて、時々、私を車に乗せて、遠くに連れて行ってくれました。ショッピングモールだったり、遊園地だったり、みんな、私の知らないものばかりで、とっても楽しかったです。もちろん、お母さんも一緒でした。お父さんとお母さんが、楽しそうにお話するのを見て、私も、楽しくなりました。
三人とも、とっても仲が良くて、毎日がピカピカに輝いていて、ほかほかして暖かくて、笑顔の絶えない家族でした。
でも、それは、そういう風に見せかけていただけでした。
本当は、私の家族は、これっぽちも、仲良くなかったのでした。
お母さんは、感情に身を任せる人でした。口々に発する言葉は、とてもあっさりとしていて、だからこそ、活発で、楽しい人でした。逆に、お父さんは、論理的に会話をする人でした。お父さんの話すことは、些細なことも、ちゃんとしていました。
お母さんは、お父さんに言い包められることが多かったです。お父さんの言うことはいつも正しくて、お母さんの言う事は、確かに抜けている所が多かったです。でも、お母さんの言い分が間違っているとは、到底思えませんでした。
私の前で口喧嘩を始めることは、決してありませんでした。二人とも、私を愛してくれていたのだと思います。ですが、小学三年生にもなると、なんとなく、解ってしまうのです。お母さんと、お父さんは、これっぽっちも、かみ合っていませんでした。
個々で見れば、きっとそれらは、とても小さな憤慨だったと思います。だからこそ、私を産み、ここまで育てられたのだと思います。しかし、お母さんとお父さんは、付き合いを初めてから二十年ほど経っていました。二十年という年月は、お母さんの心を真っ赤な感情で染め上げるには、十分すぎるくらいでした。
小学四年生の夏、ついに、お母さんの限界が来ました。だいたい二十年間、ずぅっと、鬱憤をためていたらしいのです。夜遅くに、お母さんの怒鳴り声で目を覚ましました。リビングから声がするのですが、私は、入ることができませんでした。だから、ドアの前に立ち尽くして、二人の声を聞いていました。
お父さんは、ひたすら淡々と、正論だけを発していました。お母さんは、汚い言葉も、支離滅裂な事も、怒声に乗せて、必死に訴えていました。私は、とっても悲しかったのを、でも、涙の出せないような、心でしか泣けないような、そういう悲しみだったのを、よく、憶えています。
次の日、数駅隣りの街に引っ越しました。ワンルームのこぢんまりとした家でした。今日からここで暮らすのよ、お母さんは笑顔を作って、私に言いました。私は、絶対に、お父さんは? とは、聞きませんでした。お母さんの笑顔が、もっと作り物になっていく気がしたからです。
ずっと専業主婦だったお母さんは、慌ててお仕事を探していました。どのような職業に就いたのか解りませんが、きっと、あまり給料のよくないものだったのでしょう。それでもお母さんは、とっても頑張っていました。痛いくらい、頑張っていました。そうして私たちは、なんとか食いつないでいきました。それは、贅沢はおろか、休息の時間さえ、十分に取れていなかった、という事です。私がお母さんと一緒に過ごせるのは、日曜日だけでした。
私はお母さんのことが好きです。だから、できることなら、一緒に遊びたかったです。でも、やつれた顔で寝っ転がるお母さんを、私は、起こすことができませんでした。不幸中の幸いだったのは、ちょうどこの頃、親友とよべる友達ができたことでした。
それでも、やっぱりお母さんと一緒に遊びたくて、お母さんと一緒に楽しいお話がしたくて、お母さんのちゃんと笑っている顔が見たくて、元気なお母さんが見たくて、そして、私は、お母さんの天使になりたくて、できるだけ、めいいっぱい頑張りました。お買い物をしてみたり、お掃除をしてみたり、お洗濯をしてみたり、ご飯を作ってみたり、いつも頭の中には、一年前の、活発に笑うお母さんがいました。
でも、お母さんが元気になることは、ありませんでした。それどころか、私の頑張りは、お母さんを惨めにするだけでした。そして、その惨めさは次第に、怒りへと変換されていったのです。
「やらなくていいって言ったでしょう⁉」
私の記憶に残るお母さんとは、全くの別人でした。私は、ほっぺたを叩かれました。真っ赤にはれ上がって、とても痛かったです。それでも、泣きませんでした。私が泣いたら、お母さんが泣いちゃう気がして、それだけは、絶対に嫌だったのです。
私はもっと頑張りました。もっと頑張って、もっとちゃんとやれば、お母さんが元気になると思っていました。私は、惨め、という感情を、正しく理解できていなかったのです。
私はもっと叩かれました。次第に痣が残るようになって、どんどんどんどん、痛くなって、覚悟して、身構えてないと、たぶん気絶していたと思います。でも、あんなに痛かったのに、何回叩かれたのか、憶えられませんでした。
私が小学五年生になった頃、お家には、空のビール缶が増えました。何度片付けても、それはすぐに湧いてきてしまいました。そして、その度に、お母さんは怒鳴って、私は叩かれました。
結局、私は、お母さんの天使にはなれませんでした。お母さんのお願いを、たったの一つも、叶えられなかったのです。それどころか、お母さんの願いがなんだったのか、知ることすら、私にはできませんでした。
天使が、お母さんの元へ来て、助けてくれればいいのに。
息を荒くして寝ているお母さんの横で、腫れた頬に保冷剤を当てながら、そう、願っていました。その日の夜、私の枕は、濡れてしまいました。
次の日の深夜、私が寝ていると、お母さんが起こしてきました。目をこすって、お母さんの顔を見ると、とっても、笑っていました。異常に気味悪く、表情筋をぐにゃぐにゃと曲げていました。とっても、涼しい眼でした。
「もう、天使に会えるわよ」
お母さんの、その言葉が、とっても嬉しかったです。意気揚々とお母さんの手を繋いで、くっついて行きました。
それは、夏の暑さが消えて、秋の涼しい風が吹く、気持ちのいい夜でした。
「こっちに行けば、天使に会えるの?」
「ええ、もうすぐ、会えるわよ」
お母さんの声が、透き通るような、サラサラと吹き飛んでしまうような、少し、不気味に感じれました。でも、何回聞いても、嘘には聞こえませんでした。だから、私は、お母さんに手を引かれるまま、ついて行きました。
ついに、東京湾の目の前まで来ました。波が、東京の明かりを受けて、きらきらしていました。涼しげな波の音は、とても、心を穏やかにしました。
「ねえ、天使、ここにいるの?」
「ええ、そうよ」
お母さんは、私を、ぎゅうぅ! っと、強く、強く、抱きしめました。とっても、暖かったです。心も、体も、今にも寝てしまいそうなほど、暖かくて、安心していました。
次の瞬間、冷たくなりました。
息が、できなくなりました。
お母さんが、見えなくなりました。
お母さんと、離れてしまいました。
私は、真っ暗闇の、海の中へ、沈んでいきました。
苦しくなりました。
すごく、苦しくなりました。
私は、その時になって、ようやく、天使、とか、天国、とかが、どういうものなのか、はっきりと、解りました。
静かな海の中で、私は、ゆっくりと、眼を閉じました。
***
私は、どうしてか、目を覚ましました。
窓から陽の光がどわっと押し寄せて、あたりは白を基調とした、綺麗なお部屋でした。そこは、病室でした。
ちょっとしてから、お医者さんが来て、どうして私がここにいるのか、教えてくれました。加えて、奇跡だ、なんて、言っていました。それと、お母さんは、死んでいました。
私には、何がなんだか、解らなかったです。とにかく、混乱していました。頭の中がぐちゃぐちゃして、夢と現実の区別が、上手くつけられませんでした。そんな時、お父さんが自殺したことを、知りました。
数週間が経って、だんだんと、みんな現実だってことが解ってきて、恐怖と悲しみが私の世界を覆いつくし始めて、私は、上手に寝れなくなりました。
そんな中、お母さんのお通夜があって、親友が来ることになりました。その日、親友は、お通夜に向かっている途中に、交通事故で死にました。
お母さんも、お父さんも、きっと、二人が出会ったその時から、こうなる運命だったと思います。とても受け入れ難いものですが、仕方のない事なのでしょう。しかし、親友のことは、偶然で、運命の悪戯でしかないのです。こんな酷い悪戯が許されるなんて、それもこのタイミングだなんて、おかしいではありませんか。私は、全てを失いました。
とうとう一睡もできませんでした。引き取られた叔母の家も東京にあるって、窓の外を眺めたって、星の一つも見えません。唯一光っているお月様は、動くのが遅すぎて、まだまだ夜は長いぞと、私を脅迫してるみたいでした。お布団に入って、温かいはずなのに、体中、冷え切っていました。
もしかしたら、そんな私に、どこかの心優しい天使が、慈悲をくれたのかもしれません。
ある夜、本当にどうしようもなくて、近所の公園に行きました。それが、午前二時、いわゆる丑三つ時だったのが、よかったのかもしれません。ふと、森の中へ行ってみたくて、ただ無心で、真っ暗な森の中を進んでいきました。
すると、真っ赤な鳥居が、月明りに照らされて、そこにあるのです。それは、不思議な力を発しているみたいに思えて、月明りの当たっている方から、鳥居をくぐってみました。
なんと、私は、天使になったのです。
体が少し明るくなって、大きな純白の翼をもって、心が、煌びやかに輝く宝石みたいでした。私は、空を飛びました。都市の光を眼下にして、夜空の海を泳ぎました。誰にも邪魔されることなく、後悔だらけの過去も、どうしようもない今も、膨大すぎる未来も、そのどれもが私を邪魔できずに、大空を羽ばたきました。
そのうち、私を邪魔する感情の全てを、忘れることができました。それから、この世界を見渡すと、少し、違う世界であることに気が付きました。
ここでは、丑三つ時は午前一時から一時半で、鳥居は一般的に真緑で、そしてなにより、死んでいるはずの親友と、お父さんが、生活していたのです。ああ、ここが天国なのかなあ、と、私は納得しました。
そして、世界の狭間、すなわち鳥居の近くで待っていると、こっちの世界の人と、お話ができるのです。私は、親友と、お父さんと、お話をすることができました。私は天使ですから、あちら側からは気づいてもらえないのですが、それはいいのです。あの世界で、元気に生活しているのでしたら、いいえ、私とこうして話してくれるだけで、もう満足なのです。
だから、私は、私を天使にしてくれたものに、私とお話をしてくれた人に、
ありがとう……ありがとう……
そう、感謝を伝えるのです。そうしていると、次第に、死、という悲しみが、全身からしみだしてきて、ぼろぼろ、ぼろぼろと、涙を流してしまうのです。その涙に、辛さとか、苦しさとか、そういう、ドロドロとしたものをぜんぶ溶かして、流してしまえば、その夜は、ぐっすりと眠ることができました。
私は、今日も、鳥居の下で待っています。もう一人、もう一人だけ、会いたい人がいるのです。きっと、会えるはずだと、私は確信していますから、こうして、待っているのです。
そして、鳥居の向こうから、お母さんが来てくれました。きょろきょろと、天使を探しているみたいです。
「探しているのは、私ですか?」
くい、くい、洋服の裾をちょっと引っ張ってみて、にこっと笑って見せます。お母さんは、驚いたように見下ろしてきます。
「ほ、ほんとうに、天使に、会えるなんて……」
「驚きましたか?それとも、喜んでいますか?」
「……そうね。うちの子が、とても会いたがっていたから、私、喜んでいるのかも。うちの子も、いつか、会えればいいのだけど」
「きっと、出会うと思います。会いたいと、思っているのでしたら」
「そう言ってもらえると、嬉しいわ……」
お母さんは、薄く笑う。やっぱり、まだ、元気ではないみたいです。
「少し、座りませんか?」
だから、親友にも、お父さんにもそうしたように、地面から出ている木の根に座り、隣に座るよう、促します。やはり、立ちっぱなしというのは、疲れてしまいますので。
「最近、どうですか?元気にしていますか?」
お母さんが隣に座ってから、尋ねます。お母さんは、少し顔を俯けたまま、弱った声で応えます。
「とてもじゃないけど、元気とは言えないわね。少しでも気を抜くと、後悔と後ろめたさに押し潰されちゃいそうで」
「後悔、しているのですか?」
「ええ、少し前の私は、どうかしていたの。あんなに愛していた娘に、酷いことを……」
お母さんは、言葉を詰まらせます。ぐっと、感情を抑え込んでいるように見えます。一方で、全てをさらけ出したいお母さんもまた、そこにいたのです。また、ゆっくりと、口を動かします。
「怒鳴って、叩いて、ないがしろにして、そして最後には、道連れにして……私はいつも、娘に甘えていたの。それも間違った方法で。そして、世界を去る時でさえ、孤独でいれなかった私は、また、娘に甘えてしまったの。
本当に、どうかしているわ」
俯いたまま、私に、そして自分に、語り掛けていました。お母さんは泣いていません。でも、私の耳で振動するお母さんの音は、まるで、寝る間に降る小雨のように、しとしと、しとしと、揺れていました。
「でも、それは、過去の事です。そしてあなたは、その過去を、後悔できたのですから、そんな自分を、褒めてあげてください」
「そんなの、あまりに都合がよすぎるわ」
「都合がよくて、何か悪いのですか?」
「だって、それじゃあ娘に、申し訳なさすぎるじゃない」
「いいえ、そんなことはありませんよ。むしろ娘さんは、今の弱っているお母さんを見たら、少し、悲しむのではないですか?」
「……そうね。そうに違いないわ。娘は、そういう、とっても心の優しい子だもの。人の笑顔が大好きな、そういう子だもの」
さすがはお母さんだと、思います。私の事を、よく解ってくれているのでしょう。でも、おそらく、少しだけ解っていないとも、思います。
私が、人の笑顔が好きなのは、お母さんや、お父さんや、それに親友の、元気に笑っている姿が、とっても素敵だからなのです。私は、みんなのそういう姿が大好きで、そんな様子でいてくれると、とっても元気がもらえるのです。
ですから、たとえ、もう決して会うことのできない関係になってしまったとしても、みんなには、元気でいて欲しいのです。
「あなた自身のためにも、娘さんのためにも、自分を許してあげては、どうですか?」
「きっと、それが一番いい事なのよね。理解は、したのだけど……やっぱり、難しいわ。あんな自分を許すなんて。私はしたのは、誰がどう見ても、許されるような事ではないのよ」
「だめですよ。過去を反省することは、とっても大事なことです。しかし、過去に囚われることは、とっても、悲しいことなのです。特にそれが、取り返しのつかない、どうしようもないものでしたら、ただただ、疲弊するだけです」
これは、お母さんというよりは、私自身に対しての、言葉だと思います。過ぎ去った過去も、死んでしまった人も、どうしたって戻らないことは、誰しもがよく解っているのです。それでも、人間たちは、過去を思い、死人を思って、自らを苦しみの牢獄へと追いやるのです。それは、とても哀れで、しかし、美しい、人間の性なのでしょう。
「……娘は、こんな私のこと、どう、思っているのかしら」
「会えないことに、悲しんでいるでしょう。それに、まだ、こんなに元気の無いお母さんを見たら、きっと、もっと悲しんでしまいますよ?」
「本当に、そうなのかな……あんなことをした私に対して、まだ、優しいままの娘で、いてくれるのかな……」
「当然ではないですか。あなたが、後悔している過去を忘れないように、娘さんだって、あなたと過ごした輝いている過去を、忘れたりなんか、しないのですから。
お母さんのことは、いつまで経っても、大好きなのですよ」
お母さんは、ようやく俯いていた顔を上げ、私の表情を見ます。天使の笑顔の、おかげでしょうか。少しだけ、お母さんの表情が、光った気がします。
「あの、一つ、お願いしてもいい?」
「はい。なんでしょうか?」
「もし、私の娘に会うことがあったら、お母さんは元気にやってるよって、伝えてくれないかしら」
「わかりました。必ず、お伝えします」
もう、十二分に、伝わっていますよ、言ってしまいたかったですが、それは、胸の内にそっとしまって、大切にとっておくことにします。
「それじゃあ、私は、帰るわ」
「はい。お気をつけて下さいね」
私の言葉を聞いてから、お母さんは立ち上がり、私に、背を向けます。
ああ、もう、会えないのですか。本当に、これが最後なのですか。それは、天使としての、終わりを告げているのですか。そう、そうに違いないのでしょう。天使の翼は、ひらひらと、輝く羽を、落としているのですから。
私は、お母さんの背に飛び込み、ぎゅうぅぅっ! っと、それはそれは強く、めいいっぱい、抱きしめました。お母さんは、もう、暖かくありません。
ぽろぽろと、お母さんの背中を濡らしてしまいます。ぐず、ぐず、っと、嗚咽を漏らします。天使が支えていたグラスが傾いて、心も体も、水色の切なさで、びしょびしょになります。
ありがとう……ありがとう……
今まで一緒にいてくれて、たっくさんの元気をくれて、私の世界を輝かせてくれて、最後に、会いに来てくれて、ありがとう。
震える声で、私は、繰り返しました。
***
この長い物語を、今でも鮮明に憶えているのは、最後に母が、涙でぐちょぐちょの私に放った、あの言葉が、あったからでしょう。
小さい頃から大事に使っている、今では古びてしまった宝箱を、そーっと開けて、母の声を、取り出します。
『あの子は、どんな時も、私の天使だったのよ。
だって、抱きしめると、こんなにも、暖かいのだから』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます