第13話―1

 雨。


 夏休みが明けた。


 彼女が姿を現さなかった。


 僕は彼女が生意気だという印象が強いが、クラスメイトにとってはそうではないらしい。彼女を心配する声が多く見られた。


 僕は心当たりがあるにはあるが、どこ吹く風で、いつも通り誰かに絡むこともなく、かといって交流を避けるわけでもなく。彼女を心配する声には適当にうなずく。


 気まぐれな彼女のことだ、いつか帰ってくる。


 期待する。


 だが、心の奥底ではわかっていて。降りしきる雨粒に、彼女の笑顔を感じる。いや、あるいは、涙かもしれない。


 学校が終わる。


 家に帰り、雨の中、あの日と同じように自転車に跨る。


 まだ新鮮な記憶が、僕を妙に高ぶらせる。


 もしかしたら、明日けろっと姿を現すかもしれないのに。


 それでも、雲の向かう方へ――。


 必死に漕ぐ。ひたすらに漕ぐ。ただ、漕ぐ。


「……」


 自嘲。


 いつか見た夢の国は、雨でも普段と変わらぬ賑わい。それが、勝手に興奮していた僕を、現実へ引き戻す。


 遠く聞こえる雨の音と、夢溢れる園内アナウンスが漏れ出る音。


 雨が強まる。


 遠く聞こえる園内アナウンスと、近くなった雨の音。


 強まった雨の音に彼女の声を聴く。強まった雨の匂いに彼女の匂いを、強まった雨の感触に彼女の空気を。


 僕が、彼女が、どこへ行くのかわからない。ただ雲の向かう方へ。


 動き回って、走り回って、どこかもわからない路地裏に迷い込んで、奇跡なんて起きなくて、いつの間にか雨は止む。


 ああ、また帰るのも面倒だ。いっそこのまま、雨に消えてしまおうか。


 川を横目に動き回ると、ちょうど暗い神社が目に入る。


 雨に消えるという印象に、よく似合う神社だ。


 冷たくも湿った暗い空気を肌に浴びながら、鳥居をくぐる。


 はあ。


 息を吐いて、空を見上げる。


 未だ黒い空は、雨が止む兆しも見せなかった。

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