第10話
「ごめんなさい」
「わかればいいんだよわかれば」
「で、雨宮くんが痛いって話に戻るんだけど……」
戻らなくていいよそんな話と思いつつ、目を逸らし続けるのもどうかと思い、ドリアを食べながら耳を傾ける。
「一番痛いのは、わたしのことを『君』って呼んでることだよね。それかっこいいと思ってるの?」
「うるさい、名前を呼ぶのが恥ずかしいだけだ。というかそれは君も同じでしょ」
「わたしさっき雨宮くんって呼んだよね」
「く、罠か」
「ほら、呼んでみなよ」
ここで、意趣返しをしようという僕の悪い心が働く。ここまで滅多打ちにされてるんだから仕返しの権利くらいあるだろう。
いったんピザを挟んでから仕返しをする。
「結衣。これでいい?」
唐突に名前で読んだら、晴家さんはどんな反応をするのか検証してみた。だが、晴家さんは案外動揺していない。普通にチキン食べてる。
「そう来ると思ったよ、星」
「まさか、僕の思考を予測しているのか……!?」
あまりの動揺のなさと対抗策の早さからして、完全に読まれているとしか考えられない。僕はピザをもうひとかけら口に運んだ。
「で、なんなのこの心理戦描写みたいなもの。大したこと考えてないでしょ」
「急に現実に戻らないで。今いいところだから」
「そもそもなんで食べながらやってるの。食べるか演技するかどっちかにしなさい」
晴家さんの説教を受けながらピザの最後の一切れを口に……
「あ」
晴家さんがなにかに気づいたみたいだ。
「そういえば、晴家さんピザ食べてないね。まだ口つけてないけど食べる?」
「……いや、いいよ。食べて」
「いやいや、晴家さん食べなよ」
僕は手に持ったピザを皿に戻す。
「晴家さん潔癖症? 食べなよ」
「別にそういうわけじゃないけど……」
その言葉を聞いて再びピザを手に取り、晴家さんの口元に運ぶ。
「口開けて」
「いや待って」
晴家さんの顔が赤い……?
「反撃開始。ほらほら、口開けて」
「いやいや」
拒否しながら、彼女は遠慮がちに口を開く。
僕はピザを食べさせた。こっちを見る店員の目線が冷たいような。
「仕方ない、仕返しするしかない」
「いや、これでトントンのはずでしょ」
「知らないよ、口開けて」
僕は軽く抵抗する。……が、別に嫌ではないしなんなら少し嬉しい。
晴家さんの呼びかけに、形だけ抵抗してから大人しく口を開く。
フォークに刺されたチキンが口の中めがけてやってくる。
「うぐっ!?」
チキンをフォークごと口の中にぶち込んだ。おい。
「ごめん、星が痛すぎてつい」
「なんも言えねえ」
「論破された瀬戸大也?」
「『なんも言えねえ』って言ったのは北島康介だよ」
「ごめんなさい北島さん」
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