第9話
「はは、君ちょっと痛いよね」
「そんなポップな口調でなんて酷いことを」
「だってさ、カッコつけて僕とかいう一人称使ってるし他人には見せない一面がかっこいいと思ってそうだし」
「なに君、酔ってるの? アルコール一ミリも摂取してないけど」
「いつも酔ってるみたいなテンションじゃん」
「説得力がすごい」
一応この店は酒も提供しているらしいが、チェーン店だし未成年にアルコールを出すようなことはしないだろう。というかスモールライスにアルコールが入っているわけがない。
晴家さんが頼んだのはスモールライス(百円)。彼女の分まで金を払う俺に気を遣ってるということだろうか、意外と優しいところもある。
とはいえこっちが普通に食事をしている一方で、小さいライスと水で時間を稼ぐ姿は哀愁漂う。
「……もうちょっとなんか食べなよ」
「わたし、少食だから」
「栄養バランスが悪い。野菜食べろ野菜」
「まあ野菜は美味しいから食べるけど」
「ホリエモン?」
「でも、雨宮くんにそこまで払わせるのは悪いよ」
「晴家さんにもそういう感情あったんだな」
「わたしのことなんだと思ってるの?」
「不愛想で失礼で計画性のない一文無し」
「事実陳列罪ね、懲役百年」
「小学生みたいな言葉」
言ってるうちに晴家さんのライスは減っていき、気づけば皿についた米粒を剥がす段階に。綺麗に食べるのはいいことだがやっぱり哀愁がある。
「とにかく、なんか食べて。こっちが気分悪くなる」
「じゃあ、ミラノ風ドリア」
「貧乏人根性染みついてるなあ」
「やかましい。わたしの気遣いを無下にするな」
「教えてあげる、いらぬ気遣いは冒涜にもなるんだよ」
めっちゃ名言言った。決まった。
自分ではそう思っていたが……。
「君、友達いないからお金使わないだけだよね」
「それはシンプルに冒涜じゃねえか、事実陳列罪で懲役百年だよ」
「懲役百年って言った人が懲役百年なんですー」
「ガチ小学生かよ、お子様ポテトでも食ってろ」
僕の天才的なツッコミに、晴家さんは店員を呼んだ。
「お子様ポテト、二つください」
「アホかお前」
見るからに小学生以下ではない二人組がお子様ポテトを注文していて意味がわからない。
しかも、二つ注文していることでさらっと僕のことをお子様扱いしているのも気に食わない。
「えと……お子様ポテトは小学生以下の方のみのメニューとなっておりまして……」
「すみませんすみません! コーンクリームスープとミラノ風ドリアとバッファローモッツァレラのピザと柔らかチキンのチーズ焼きとラージライスでお願いします!」
これだけ頼んで一五五〇円。
しかし、晴家さんがこちらを見る目は申し訳なさそうだ。
だから、俺が晴家さんを見る目には最大限の冷気を込めておいた。
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