第7話
「そろそろ説明してくれ、なにがしたいんだ君は」
「雨の日って、なんかよくない?」
「アーティストか」
「いや、確かにアーティストは雨が好きがちだけど!」
「音楽性の違いで解散とかしたことある?」
「いや、確かにアーティストは音楽性の違いで解散しがちだけど! アーティストあるあるかよ!」
軽い漫才で話を本題から逸らしに逸らし結果、ばっちりと晴家さんからのツッコミを受け取る。
「話が進まないからボケるのやめようか」
「始めたのはきみなんだけど」
「……で、今からなにするのさ」
的確なツッコミはしっかりとスルーし、この先の予定を尋ねる。
「なにも考えてない」
予想通りというべきか、無計画だった。ある意味、さすが。
このギャグ調の掛け合い、最初の互いに刺し合うような空気感はどこに行ったのか。もしこれが小説なら、読者を選びそうだ。
その流れを元に戻すべく、ちょっと鋭い空気を演出。
「僕は考える気はないよ。自分で考えといて」
「……」
さすがに僕の真剣な空気感を読み取ったのか、彼女は考える仕草をした。
「水族館とか」
「僕は別に構わないけど、雨あんまり関係ないな。行くなら晴れた日がいい」
「じゃあ、動物園にしよう」
「構わない。ちなみに晴家さん、お金は?」
「持ってない」
お金がなければ入場できないので、却下ということになった。
「じゃあ星見に行こうよ」
「雨の昼間なんて星と対極に位置するんだけど」
「きみ賢いね」
「晴家さんが馬鹿なんだと思う」
一度漫才を始めてしまったらもうシリアスには戻れないのかもしれない。
「そうだな、晴家さんは究極なにがしたいわけ?」
「雨宮くんと距離を縮めたい。一緒にホテル行きたい」
「じゃあ、一緒にご飯でも行こうか」
「所持金ゼロなんだけど」
「君、面倒くさいな。仕方ないから僕が払うよ」
「本音出てるよ。ご馳走になります」
にやっと笑みを作って両手を合わせる。晴家さん、こういうの上手いんだよな。
「しかもなんだよ雨の日に飯って。意味がわからない」
「だがそれがいい」
訳わからんことを言う晴家さんを放って、傘を手に屋根の下から一歩踏み出す。放っといてごめんね世界。
放置していたせいか、さっきよりも雨が強くなっている。そんな中、晴家さんが湿った口を開く。
「わたし、死ぬなら雨の中に溶けるように死にたい」
「いったいなんの話なのかな。君が死のうとしても、僕は別に止めないよ」
「本当に?」
「……」
さした傘に強い雨を受ける。彼女の質問にはっきりと言い切ることはできなかった。
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