第6話

 夏休み、ではある。


 ただ僕の夏休みは、今この瞬間が冬になったとしてもエアコンが冷房から暖房に変わるくらいの薄っぺらさ。


「端的に言うと?」


「家の外に出る機会がないってこと。なんでここにいるんだ君は」


 なぜかいる晴家さんに異議を唱える。ここは僕の家だが。


「ほら、わたし、きみのことは信用できるって言ったじゃん」


「僕が君のことを信用してるとは言ってないような」


「わたしのことは結構好きとは言ってたけど?」


「やかましい」


 僕の雑なツッコミに彼女はけらけらと笑う。


「わたしはきみのこと結構好きだけどね。ツッコミつまんないし」


「それ短所だろ」


「バレたかー」


「バレるわ。僕のことどんだけ舐めてるんだ」


「のど飴くらい」


「ごめん、僕のど飴噛む派」


「実はわたしも」


「やっぱ僕のこと尊敬してるってことかな」


「舐める価値すらないって思ってるってことだよ」


「サルミアッキか」


「なにそれ」


「クソまずい飴」


「きみ博識だねー」


「いや、それほどでもないよ」


 晴家さんは意外と心から感心したようだが、それに対して僕はスマホの画面を見せつける。


「ググってるじゃん、世界一まずい飴。褒めて損したんだけど。ってか本当にそれほどでもなさすぎる」


「僕は得してるからなんの問題もないな。謙遜だと思ったら大間違いだよ」


「こいつ腹立つ。やっぱわたし、きみのこと結構嫌いかも」


「僕は可愛い可愛い晴家さんのことは好きだけどね」


「もういいよ、本題本題」


「え、晴家さんに目的意識なんてあったんだ」


「わたしのことどんだけ舐めてんだ」


「以下同文なので割愛。で、本題は?」


「外に出よう!」


「外を見よう!」


 なんたって空は雲で埋め尽くされ、大地は空から降った雨で埋め尽くされている。夏の風物詩、雨である。


 梅雨が過ぎたというのに雨が降るのは大自然のねちっこいところが出ているとは思って嫌いだ。


 しかしよく考えたら家の外に出る機会がないので雨が降っていようが関係ない。エアコンが冷房から除湿に変わるくらいだ。


「あ、除湿にし忘れてた。晴家さん、除湿にしてくれる?」


「おーけーおーけー」


 僕の頼みに、晴家さんは立ち上がってエアコンのリモコンを操作する。自分の家かと思うくらい手馴れているが、再度言おう、僕の家だ。


 スムーズにエアコンを操作し、彼女は再び元の場所に座る。


「ってそうじゃない! 外出るならエアコン関係ないじゃん!」


「本当に外見た?」


「見た」


「僕がエアコンを除湿にした理由わかる?」


「わかる」


「じゃあなんで外に出ようとするのさ」


「うるさい」


 彼女は僕の手を無理やり引っ張って、玄関の外に連れ出す。手馴れた仕草で鍵を閉め――なんで僕の家の鍵を持っているかはわからない——、雨空を前に宣戦布告。

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