第4話

「で、なにから聞きたいの?」


「じゃあ、スタバ好きとか言ってたくせに初めてっていう詐欺師なところ。どうしてそうなったの」


 僕の想像よりも晴家さんはご立腹らしかった。僕を詰める彼女をなんとか鎮めたと思っていたら、まだ足りなかった。


「なぜこういう性格になってしまったかというと、それは僕の人格の根源に関わる話だな。長くてつまらない話だろうけど、それでも聞きたい?」


「なんでもいいから、話して」


「それで言うと、この性格はほとんど演技だ。実際の僕はもっとピュアだね」


「そういうのいらない」


 わかりやすい冗談を言ったら、彼女は過去にないくらい鋭い眼光を見せたので、僕は真面目に切り替える。


「まあ、ちょっと語弊があるか。ピュアというより、僕は優しすぎる」


 それも冗談だと思ったのか、彼女は明らかに怒っているように見える。


「これは冗談じゃない。もうちょっと詳しく言うと、これは全部僕以外のためだ。なんせ、素の僕は重すぎる」


「体重が?」


「そういうのいらないんじゃないのか」


「うるさい」


 なんと理不尽な。しかし先にふざけたのは僕なので怒るに怒れない。


「つまり、僕の希薄すぎる人生の価値を、他人に求めてしまう割合が高いんだよ」


「かみ砕いて言うと?」


「メンヘラ」


 よくできました、と晴家さんに言われるのは満更でもない。


「それはよくないだろうってことで、他人に寄りかかりすぎないよう、外面を作ることにした。受け入れられているのが嘘の自分なら、その人に全ベットなんてできやしないから」


「いちいちわかりづらい」


「つまり童貞を拗らせてるってこと」


 本当の自分を受け入れてくれる人を求めてしまう。


 僕の本質を捉えた言葉に、彼女はそれでも笑った。


「きみ、例えが上手いねえ」


「お世辞だろ」


「お世辞だよ」


 お世辞だとわかっていても、悪い気はしないんだけど。


「まあ、僕の性根の由来はこんな感じ。またなにか質問があれば答えるよ」


「じゃあ質問。わたしは結構本当のきみを受け入れられる自信があるんだけど、全ベットしてくれる?」


 スタバに来てから、やけに素直だ。どういうわけかはわからないが、僕の話を酷評されるよりはいい。


 だがしかし限度というものはあって、今の発言は明らかにそれを超えていそうだ。もしくは、まるでそうは見えないけど、冗談か。


「それは、君の話を聞いてから判断する」


「え、わたしも話すの?」


「いろいろ豹変しすぎだ。クラスでの晴家さん、ここに来るまでの晴家さん、そしてここでの晴家さん、全部性格が違う」


「しょうがない。ちょっとだけ話してあげよう」

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