第13話 紀子、記者を沈める
☆
私は楽しそうに目の前の上条さんと話す幸奈。
彼女を見てみる。
本当に楽しそうに話す彼女。
そして上条さんはそれを大いに受け止める。
私はその姿を見ながらその気持ちを心の奥に秘める。
多分だがこれは(恋)というもの。
その方向に傾いている。
至極単純に上条さんに惚れてしまった。
私は男が嫌いだった。
だけど上条さんは全てが違った。
男という生き物の中で...私は。
この人の横に立ってから...全てを見据えたいと思える力が湧いた。
それぐらい魅力のある男性だが。
私には恋をする資格はないし。
だからこの気持ちは封印だ。
そもそも主役は私じゃないと言える。
では誰なのかといえば幸奈だ。
「今日は有難う御座いました」
「ああ。また暇があったら」
「そうですね。是非お願いします」
私達は上条さんに頭を下げてお礼を告げる。
それから私達はそのまま門を閉めて歩き始める。
そしてそろそろ上条さんが聞いてないと思う様な場所で幸奈を見る。
幸奈はニコッとしながら私を見る。
「どうしたの?友香」
「...幸奈は本当に上条さんが好きなんだね」
「は...い?!いや!違うよ!そんな訳ないでしょ!」
「幸奈。でもそれって恋の感情に似ている」
上条さんに対して目を輝かせている。
何よりも楽しそうだし。
そう思いながら私は幸奈を見る。
「幸奈。もう認めなよ。それ恋だよ」と告げる。
幸奈は「...」となりながら押し黙る。
「...私は恋じゃないって思う」
「いや。恋だと思う。...というかもしそれを認めないなら彼は私が貰うよ」
「!」
幸奈は衝撃を受ける様な顔をする。
それから私を見てくる。
「まあ冗談だけどね」と私は茶化す。
だが彼女は「...」となって本気で考え込んでいた。
足が止まる。
「...友香」
「うん?」
「...貴方は彼が好きなの?」
「...さて。どっちでしょうね?」
「...内緒にしてくれる?」
そう言いながら紅潮した顔を向けてくる幸奈。
私は少しだけ寂しくなりながらも「うん」と返事をした。
すると彼女はモジモジする。
そして意を決する様に顔を上げる。
「多分私は彼が好きだ」
「...そうだね。...じゃあどうしたら良いか考えないと」
「きいちゃんはと彼は月と太陽だと思う。...だからこそ私は彼を好きになった」
「...うん」
すると幸奈はすうっと息を吸い込んだ。
それから幸奈は「ライバルだね」と笑顔になる。
うん?ライバル?
そう思いながら私は幸奈を見る。
「...貴方は彼が好きなんでしょう」
「...私は確かに上条さんと仲良くはなりたいとは思うけど」
「それは同じじゃ無いかな。私と」
「私はどうでも良いよ。...問題は...」
「いや。どうでも良くない。だって私達は家族だし」
幸奈は手を胸の前で組む。
それから私を真っ直ぐに見上げてくる。
射貫く様に、だ。
私はドキドキした。
そして「幸奈。待って」と言う。
「...貴方も上条一郎が好き。これは間違いないね?私は貴方の気持ちも尊重する」
「尊重って。私はどうでも良いから」
「どうでも?...本当にそれで良いの?」
「...」
私は黙る。
それから「正直。私は恋とか分からないから」と苦笑する。
「だからこそ私は貴方を支えて。そして...強くなりたい」と言う。
幸奈は「じゃあそれだったら私は貴方を支える」と話す。
え?
「いや、待って。それじゃ恋のライバルとか何の関係も」
「私は同じ人を好きになった。それだけで奇跡だと思っている」
「...!」
衝撃を受けた様に前を見る私。
すると幸奈の前に立っている私の背後から声がした。
「全く貴方達は」という感じの声だった。
それは紀子であった。
スーツ姿で眼鏡を掛けて立っている。
「アイドルが恋なんて許されると思っているのかしら」
「...紀子...」
「私はアリだと思うけど」
「え?」
紀子は「私達の事務所ではアリと言っているのよ」と言いながら私達を見る。
私は「!!!!?」となっていた。
そもそも紀子がそんな事を言うとは。
そう思いながら、だ。
「...紀子さん。...ずっと見ていたんですか」
「まあ保護者の様な感じなのよ。私は。...貴方達を見守るのも母親の役目よ」
「...昔はそんな感じじゃ無かったよ?紀子」
「私は今も昔もこんな感じよ」
紀子は私にそう柔和になる。
そして私達は見合っているといきなりフラッシュが炊かれた。
その人物は後藤だった。
スクープ記者の後藤。
「...これはまさか以上の大スクープだ!」
そう言いながら私達を見てくる。
その後ろにまた別のカメラマンが一人。
私達を見ながらニヤッとしている。
私は静かに額の血管を切らす。
そして後藤の元に一気に手を伸ばして詰め寄ろうとした時。
紀子さんのいきなりの回し蹴りが後藤を貫いた。
というかヒールを履いているので相当痛いと思う。
今、腹に食い込んでいたし。
後藤は「あぇい!」と言ってまるでコント映画の様に吹っ飛ばされる。
そしてカメラマンを見る紀子さん。
「貴方達も大概ね。...ウジ虫の様だわ。本当に」
「お、俺達に手を出したらマジに警察を呼ぶぞ!?」
「あらそうなの。...まあでも私が解雇されるだけね。それにプライバシーを侵害したのは貴方達ね。記者失格よ。貴方達は」
そう言いながら紀子さんはヒールを履いたまま猛烈な勢いでカメラをぶっ壊した。
そして紀子さんはカメラマンに笑顔になる。
「私の大切な子達にあまり手を出したら次はこのヒールでキンタ○潰すわ。女になりたいのかしら?色々と無くなるわよ」とカメラマンの胸倉を掴む。
「ひぇ!?ご、ご勘弁を!ご、後藤さん!死んでいる場合じゃないっす!」
「お前を連れて来たのは証人の為だ...俺はスクープの為ならお前も死んで良い!」
「ふざけないで下さい!?マジか!アンタ最低だな!」
「俺はふざけてない!じゃあな!」
そしてカメラマンを見捨てて駆け出して行く後藤。
猛ダッシュで傍に有る車に行こうとするそんな後藤の後頭部に紀子さんが思いっきり投げたヒールが命中した。
それから後藤は「ほげぇ!」と撃沈した。
と言うかヒールってそんなに重たいものなのだろうか。
今、3メートルぐらい離れていたのだが...。
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