第12話 友香、幸奈と一郎
俺、上条一郎は自宅で勉強していた。
すると横に置いて有るラジオが放送が始まり俺は耳を澄ませた。
このチャンネルはライトニング・スターのメンバーの活躍が聞けるのだ。
なので耳を澄ませて古ぼけたラジオで聞いている。
毎日、メンバーが交互に入れ替わりになる。
「...ああ。今日は木島きい、さんか」
木島きい、さんがラジオに出ている。
それからずっとリスナーに向けて発信をしていた。
俺はその言葉を聞きながら居るとインターフォンが鳴った。
「宅配便か?」と呟きながら「はい」と返事をすると。
「一郎くん」
と声がした。
それは幸奈だった。
俺は慌ててドアを開けるとそこに長身の女性と共に...幸奈が居た。
というかこの女子は何だか見た事がある。
え?この女子は...。
「此方、日向友香さん」
「えぇ!!!!?」
「初めまして。...アタシは...じゃなかった。私は日向友香です」
日向さんと幸奈がその場に居た。
そしてにこやかに手を振ってくる。
俺は唖然としながらその姿を見ていた。
すると門を開けて幸奈と10センチぐらい違う友香さんが入って来る。
「きょ、今日はどの様なご用事で?」
「...友香が貴方に謝りたいと。そう言ったから連れて来ました」
「はい?謝る...謝る?何を?」
すると日向さんが律儀に90度腰を曲げる。
それからまるで客室乗務員の様な礼儀正しさで向いてくる。
俺は唾を飲みこむ。
宝塚の衣装とか和装がマジに合いそうだ。
男装でも、だ。
「私、貴方に対して良いイメージが無かったんです」
「...!...それは」
「そうです。幸奈にまとわりつく様な人間だって。滅茶苦茶に貴方は愚かだって。...思っていたんです」
「...そうなんだな」
「...はい。...だから最低だなって思って来ました」
日向さんは頭を上げてから俺を見据える。
正直、俺と同じ身長。
俺は175センチあるのだがその彼女を見ながら驚く。
すると幸奈はニコニコしながら「お茶が飲みたいなぁ」と注文してくる。
俺の家はお主の事務所じゃないんだが。
「ちょ、ちょっと幸奈。図々しいよ」
「良いんだよ。一郎くん。ね?」
「ああ。構わない。...貴方も飲みますか?お茶」
「...お構いなく」
そして幸奈と日向さんが家に入る。
すると日向さんは驚いた。
何を驚いたかというと俺の家に、だ。
結構古い住宅だからか?
「...壁。土で出来ているんですね」
「まあほぼ中古住宅なんだ。この家は」
「...そうなんですね。...この土は通気性とかが良く。...そして長持ちしますよ。夏は涼しく。冬は暖かいでしょう」
「?...詳しいね」
「親が不動産業なのでそういう知識も少しは」
日向さんは死んだ様な顔をした。
まるで死んだ金魚が浮かんでいる様な。
そんな顔だ。
俺は「...大変なんだな。君も」と言う。
「...え?」
「...君は大変な目に遭いながらも生きている。そんな感じの顔だ」
「私はそんな事は」
「...俺も大変だったから分かる。親の問題はな」
「え?」
俺に向いてくる日向さん。
それから「俺の義妹。...つまり結は虐待されていた」と言う。
まさかの言葉に幸奈も衝撃を受ける。
そして俺は「それも...実の父親にマジな、だ」と告げる。
「...虐待の種類は」
「ネグレクトだな」
「...そうなんですね」
「ああ」
そう答えながら「だけど君の悩みとは程遠いかもだけど。親では苦労する。俺と君の悩みは違うだろうけどな」と俺はニコッとする。
すると日向さんは「同じです。離婚はしてないですが私も半分ネグレクトです」とポツリと呟いた。
「...成績優秀だったら...私に構って。成績が落ちたら私は罰として放置。...そんな家庭でした」
「...それ初めて聞いたよ。友香」
「私、話すタイミングが無かったしね。...知っても意味無いし」
「...そうだったんだね」
「うん」
「成績が良かったらまあパン一枚とかの夕ご飯もらえました。良くないと全てのご飯が抜きです。ただ私は愛情が欲しかったんですけど。それだけだった」と涙声になる日向さん。
だけど直ぐに「だけどそんな私を助けてくれたのが彼女でした」と幸奈を見た。
俺は堪らずそんな彼女の手を握る。
彼女は心底ビックリしていた。
だけど構わず握る。
「よく頑張ったな!お前は...」
そう声を掛けた。
すると日向さんは「え?え?」となりながら困惑する。
その事に俺はハッとした。
そして「馬鹿ぁ!」と慌てて彼女の手を離す。
華奢な手を、だ。
「すまない!調子に乗った!」
「い、いえ」
「...ゴメン。そういう家庭なんだ。俺の家庭も。だから安心してくれって意味で握った。すまない」
俺は真っ赤に赤面して林檎の様になる。
熟した林檎の様に真っ赤に、だ。
そして慌てて部屋の中を案内する。
すると日向さんは「面白い人ですね。上条さんは」と笑顔になる。
爽やかな姿だった。
☆
「...でね。一郎くんの幼い頃ってかわいいんだよ」
「そうなんだね」
そう会話をする2人を見る。
俺はその姿を見ながらお茶を飲みつつチロドアンを食べる。
すると日向さんが俺に向いてきた。
「上条さんの義妹さんは」と聞いてくる。
「ああ。学校だよ。寮に住んでいてな」
「そうなんですね」
「...いつかそっちでお世話になるかもだから」
「...アイドルの有名になる道のりは程遠いです」
「厳しいようですが...日本中に死ぬほどアイドルは居ます。勿論、有名にならないアイドルから抜け出せないアイドルも居ます。...だけどまあ貴方の義妹さんなら乗り越えると思いますが」と俺に日向さんは言った。
俺はその顔に「そうか」と苦笑する。
それから頬を掻いた。
すると「ところで」と日向さんが切り出した。
「幸奈は...上条さんの事は...」
とそこまで言った時に幸奈が「それはないから!」と慌てる。
そして「ないない」と笑顔になる。
日向さんは目をパチクリする。
それから「そう?」となる。
何の話だ。
「何の話だ?」
「内緒!」
「へ?」
俺は訳も分からないまま「???」を浮かべる。
すると日向さんは「まあその」と切り出す。
それから「少しだけお伝えするなら貴方は素敵で魅力的な男性だと思います」と日向さんは切り出してきた...ha?
「ちょ」
「私は素直に言っているだけだよ。幸奈」
「待って?それどういう意味?」
「内緒かな」
全く訳が分からん。
そう思いながら俺は「?」となる。
そして2人を見る。
日向さんは俺に対して無垢な笑みを浮かべた。
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