第10話 日向友香の初恋


私に対して一郎くんが「日向さんは?どうしたの?」と聞いてきた。

日向友香とは私達のライトニング・スターのメンバーの1人の名前だ。

私は何とも言えないまま「今は忙しくてね」ととにかく誤魔化した。


正直。

仲が悪い様な事があるとは言えない。

私達の仲が日向友香とあまり宜しくないとは...言う事が出来ないのだ。

これでもあくまで私達はそれなりに仲が良いとしてきたから、だ。


「ねえ。きいちゃん」

「なに?ゆっちゃん」


確かに転校して来たきいちゃんにそう聞く。

するときいちゃんは私にニコッとしながら話してきた。

私はそんなきいちゃんに「日向友香の事だけど」と真剣な顔で聞いてみる。


きいちゃんの手が止まる。

イラストを描いていた手が、だ。

彼女の趣味の模写してのイラスト。

きいちゃんは私を見てくる。


「あの子の話はしないって約束したよ。だって彼女は私達の...」

「その言い方はマズイよ。だって彼女だってあくまでライトニング・スターのメンバーなんだから」

「ゆっちゃん。私達は確かに彼女とは関係性がある。だけどそれ以上のそれ以下でもないから。あの子の話はおしまい」


きいちゃんはそう言いながら私を真顔で見る。

私はぐっとなって言葉が発せなくなる。

それからきいちゃんは「そんな事より」と言ってから笑みを浮かべる。


「これどうかな」

「イラスト...スズメかな?」

「うん。スズメ。...可愛いからね」

「...模写、上手いね」


私はそう言いながらも内心は複雑だった。

話に集中が出来ない。

そう思っているときいちゃんは「あの子は...何であんなのだろうね」と言ってくる。

私は顔を上げた。


「友香も大概...仲良くしてたら可愛いのに。そっけない感じだしね」

「そうだね。いや。...実は彼に言われたの。友香は何なのかってね」

「ああ。上条くんに言われたんだね」

「そう。だから気になっていたの。...友香は...どうしてあんなのなんだろうねって」

「...私は友香の考えも友香の思いも分からない」


「だけど友香があんな態度を取るなら私達も永遠にこのままだと思う」とスケッチブックを片付けるきいちゃん。

私は両ひざに頬杖を突く。

それから「だね」と返事をした。


「友香さんがあんな態度を取るなら、だね」

「そう。...私は永遠に認めない」

「...」


私達はそう言いながら空を見上げる。

そして寄り添ってから話をした。

それから放課後になる。

私は仕事の為に事務所に来た。



「...」

「...友香さん...」


事務所に来る誰も居ない部屋の中でパーカーを深く被っており。

こっちに目もくれずスマホゲームをしている友香さんが居た。

とても可愛らしい顔をしているが。

この様子では「慣れ合わないで」と言っている様にしか見えない。


「友香さん。おはよう」

「...」

「...」


駄目か。

そう思いながら私はロッカーに色々置いたりしていると「ねえ」と声がした。

見るとスマホゲームを置いてイヤホンを置いている友香さんが居た。

私を真顔で見ている。

その行動が物珍しく見てから聞く。


「...どうしたの?」

「上条一郎となんなの。貴方は?」

「!?」

「答えて」

「...どうしたの。彼が」


私は友香さんを見る。

すると友香さんはギュッと胸の前で拳を添える。

そして友香さんは私を見た。

それから断言する。


「私は絶対的に上条が嫌い」


その様に、だ。

いや待って。

何の為にそんな事を言うのだ?

そう思いながら不愉快げに彼女を見る。

すると彼女は何故か泣き始めた。

え、え!!!!?


「...私の貴方が奪われてしまう」

「私の...貴方?」

「...私は貴方が好き。同じ同性だけど」

「...へ?」


私は素っ頓狂な声が出る。

すると彼女は私に詰め寄って来る。

鋭い眼差しだがその奥には何か決意した様な目線。

顔立ちがとにかく宝塚の俳優の様な顔をしている為もあり、私より10センチ身長が高い為に威圧感がある、が。

そんな事より。


「ま、待って。好きってそれは本気で恋愛相手としてなの!?」

「そう。初恋だった。...私は女性しか好きにならないと思う。貴方が大好きなの」

「...」

「だから私はツンデレの様な態度を取っているけど。...貴方が嫌いな訳じゃない」


そう言いながら彼女は胸に手を添える。

それから頬を赤くして潤んだ瞳で私を見てくる。

まさかの告白だった。

そんなの...どうしたら、と思っていると。


「何をしているの」


ときいちゃんの声がした。

よく見ると事務所に来てから直ぐに私の前に立ちはだかったと思うきいちゃん。

それから友香さんを睨む。

友香さんは「...」という感じできいちゃんを見る。


「ねえ。何でそんな高圧的な態度しか取れないの?貴方」

「待って!きいちゃん!話を聞いて!」

「...私だって好き好んでこんな態度を取っている訳じゃ無い」

「は?」


そう呟く友香さんにイライラする様な感じを見せるきいちゃん。

私はそんなきいちゃんに「きいちゃん。話を聞いてあげて。お願い」と頼む。

きいちゃんは「...?」となっていた。

すると友香さんは「...私は...」と涙を浮かべる。

それから事務所から飛び出して行った。


「そんな」


私は慌てて追った。

だが見失ってしまった。

流石は公立塩原高校の陸上部の女神だと思える。

ここら辺の高校の生徒らしいが。


県大会に優勝するぐらい滅茶苦茶に足が速いらしい。

私では追いつけない。

確かに筋トレはしているけど。

そう思いながら見失いとぼとぼ歩いてると公園のブランコに友香さんが居た。

ゆっくブランコを動かしながら泣いていた。


「...友香さん」

「...!...こ、来ないで」

「お話、聞かせて」


「!」となる彼女。

私はゆらゆら揺れるそんな友香さんを見ながら横のブランコに腰掛ける。

それから私は漕ぎ始めた。

そして友香さんをニコッとして見た。

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