第7話 その存在
☆
木島きい。
それが私の名前だ。
私はライトニング・スターのメンバーとして活躍している。
そんな私だけど私は...霧島幸奈。
ゆっちゃんの恋心を応援している感じだ。
まあ陰ながら、そうなれば良いな、と思っているだけなので実際はあれこれ違うかもしれないけど。
だけどこんだけ必死に動いているゆっちゃんだ。
あくまでその例の男の子が気になってない訳が無い。
転校までするぐらいなのに。
そう思いながら私はゆっちゃんを陰で変装して待って居た。
私はその男の子を見定める為にこの場所に来た。
わざわざ仕事をすっぽかして、だ。
レコーディングのお仕事の約束があったけど私は「体調不良。腸チフス。色々。おなかが痛い」と言って休んだ。
そしてこうして待っている。
私はサングラスとマスク姿で怪しまれていた。
だけどそんなのは今は良い。
私は...。
思いながら待って居ると海原高校の奥。
校門辺りから男の子が出て来た。
その横にゆっちゃんが居る。
間違いない。
例の彼だ。
私は慌てて動く。
それから2人が人通りが少ない場所に入ってから「ゆっちゃん」と声を掛ける。
すると背後を振り返ったゆっちゃんが私を見て「!?...きいちゃん!?」と声を発しながら驚く。
横に立っていた彼も愕然としている。
「学校はどう?」
「い、いや。満足しているけど...何できいちゃんが!?」
「私は彼を見定めに来た」
「彼を?何で?」
目をパチクリするゆっちゃん。
横の冴えない男性を見る。
この男性が上条一郎くん、か。
そう思いながらまじまじ見ていると上条くんは真っ赤になった。
それから私に「あの?」と聞いてくる。
「あ。私の事知ってるよね」
「ライトニング・スターのメンバーさんですよね。木島きいさん」
「そうそう。大当たりです」
「...な、何のご用事で?」
「...痴漢から助けたそうですね。ゆっちゃん。もとい、彼女を」
「そうですね...」
私はじっと彼を見る。
でもやっぱり冴えないなぁ。
何でゆっちゃんはこんな男性と?
そう思いながら見ているとゆっちゃんが「もう。彼に失礼な事を考えているでしょ」と頬を膨らませて怒る。
私は「ゴメン」と謝りながら苦笑する。
「あの頑固なマネージャーが何で許可を出したのか気になってね」
「...ああ。そういう事?」
「そう。私は...不思議に思っている」
そう言いながら私は上条くんを一瞥してから「何故彼なのか」と考える。
そして「...実は私、空き家を借りたの」と告げる。
その突然の告白に「?!」となる2人。
私は「彼の家の近所の家が空き家になっていたから借りた。それから私、当面の間そこで観察しようって思って。彼を」と宣言する。
「待って!そんなの認めないよ?!」
「そう?じゃあ一緒に暮らす?ゆっちゃん」
「そんなのも駄目でしょ!」
「うん?でもそれだったら良くない?」
「良くない!」
私は「駄目って言っても不動産業者に相談したもんね」とニヤッとする。
その言葉に頬を膨らませてあからさまに嫉妬するゆっちゃん。
私はその姿に「ゆっちゃんも暮らそうよ。...丁度、共同生活の様だし」とニコッとしながら彼を見る。
「ね?良いよね?上条さん」と彼に聞く。
「え?ええー...」
「まあもう荷物も運び入れているし。もう引き返せない。さあどうしよっか。ゆっちゃん」
「...い、いや。私は...」
「因みに私は海原高校に転校もするよー」
顎が落ちる2人。
「はい!?」と絶句しながら私を見る。
だって2人だけで放置できない。
観察の為にはこうするしかないのだ。
そう思いつつ私は「上条さんがどういう人なのか見定める」とニコッとして2人に告げてから踵を返す。
「じゃあ」
「ちょっと待って!きいちゃん!そんなの...ま、マネージャーが許さない!」
「いやいや。それはおかしいでしょゆっちゃん。貴方が認められて私に自由が無いのおかしくない?...それに貴方を支えないと」
「...確かにそうだけど」
そう言いながら「ぬぬぬ」となるゆっちゃん。
私はニコッとしながら手を振る。
そして私はそのまま歩き出す。
その中で。
私は「頑張れ、ゆっちゃん」と呟き応援していた。
ゆっちゃんだからこそ。
幸せになってほしいのである。
何故なら...彼女の泣き顔はもう見たくない。
「お母さん...そんな...」
思い出すその言葉を。
私は歯を食いしばりながら空を見上げる。
そしてそのまま胸に手を添えたまま走り出した。
誰も追い掛けて来れない様に。
こんな顔は見せたくないから、だ。
☆
木島きい、と私は話した通り幼い頃から幼馴染だ。
幼馴染だから彼女は私の事を良く知っている。
それはどれだけ知っているかというと。
私の母親が突然、幼い頃の私達の前で脳幹出血で倒れて亡くなった時も知っている。
きいちゃんが遊びに来ていた時だったのだが。
動かない母親を見てどうすれば良いか分からなかった。
そしてその中できいちゃんは直ぐに救急車を呼んでくれた。
だが母親はその日、亡くなった。
悲しかった。
私の目の前が暗くなった。
家族を失った衝撃で。
大切な母親が亡くなった衝撃で、だ。
その中で私達は(アイドル)という役職をたまたまきいちゃんがオーディションとかのサイトで見つけた。
きいちゃんだけが輝けば良い。
そう思っていたのだけど。
私の方が輝いてしまったのだ。
だけどきいちゃんは決して批判せず。
私を笑顔で同じアイドルとして支えた。
「私が傍に居るから。ね?これから先もずっとずっと!」
きいちゃんはずっとそう言ってくれた。
私の手を握ってくれた。
どれだけ暖かったかそれが。
私にとっては女神の手に思えた。
だけど。
私は自責の念に駆られている。
本来、きいちゃんがなるべきセンターを私が奪った挙句。
私がアイドルで人気が出ている。
それは...自責の念だった。
なりたくて...なったわけじゃない。
アイドルになってみたかった。
何でアイドル?
相反する想いがぶつかっている中で私は痴漢に遭い。
猶更、アイドルを怖くて辞めたくなったのだけど。
その中で私は彼に出会った。
「大丈夫ですか」
誰もが見て見ぬふりの中。
私にとってその言葉は...きいちゃんと同じ手だった。
本当に泣きそうなぐらい嬉しかった。
だからこそ私は彼にお礼を。
そう思えたのだ。
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