第6話 鼓動


私はマネージャーにごり押しで無理を言った。

それは今の高校から海原高校に転校したい、と、だ。

マネージャーは私を連れ戻したぐらいの人なのでそんな説得に応じないかと思ったのだが私の熱意に根負けした様にゆっくり「...分かったわ」と言った。

そして今私は海原高校に通い始めた。


私は教室で質問攻めにあっていた。

「どうしてこの場所に?」

「どうして?」

「どうしてなの?」

的な感じで人気で攻められる様に、であるが。

私はそんなクラスメイト達ににこやかに一問一問答えながら反応する。


そんなクラスメイトの奥で二人の男子生徒がこっちを見ていた。

片方の人は上条一郎くん。

そしてもう片方の人は島村正大くん。

一郎くんのご友人の方らしい。


私はそれを見てからそのままクラスメイトの質問に答える。

すると一郎くんが立ち上がった。

それから教室を後にする。

私はその事につい立ち上がってしまった。

そして追いかける。


「一郎くん」

「あ、や、やあ。幸奈」

「どこに行くの?」

「俺?...お手洗いだけど...どうしたの?」

「うん。...学校の中を案内してもらおうかって思って」

「え!?そ、それは俺じゃないと駄目なの!?」


その姿に私は「知っている人が一郎くんぐらいしか居なくて」と少しだけ複雑な感じで苦笑する。

そんな姿に彼は頬を掻いた。

それから「うん。じゃあ分かった。お手洗いに行ったら案内するよ」と柔和になる。


「お願いします」

「...」

「...どうしたの?」

「い、いや。...ゴメン。君に見惚れちゃって」

「...へ?」


私はその言葉に「そ、そっか」と返事をする。

そして私は乾いた唇を舐めてからそのまま髪の毛をゆっくり触れてから「じゃ、じゃあ待ってるから」と告げる。

彼は「う、うん」とお手洗いに行った。


これはおかしい。

だってそうだろう。

私はアイドルだからそういう言葉はよく受けるしましてや愛情表現などは握手会でよく言われる。

だが...何だ今の鼓動は。


「...?」


心臓が飛び上がる程、ビビったのだ。

私は訳も分からずなまま壁にもたれかかる。

それから私は静かに目を閉じる。

そして開く。


「...おかしいな。私」


そんな事を呟きながら胸に手を添える。

それから考え込んでいると「お待たせ」と声がした。

そこに一郎くんがハンカチで手を拭きながら居た。

私を見ながら「?」を浮かべている。


「どうしたの?」

「あ、いや。何でもないよ」


私はこの感情の意味が分からないまま。

一郎くんと一緒に学校の中を歩く。


アイドルが居る。


そういう事で学校中から視線が集まっていた。

私はその視線を感じながら一郎くんを見る。

一郎くんは私を心配する様な感じをしていた。


「大丈夫?」

「...大丈夫だよ。一郎くん。有難う」

「何かあったら言ってね。...君の困っている事を全部カバーするのは無理だけど」

「うん。有難う。一郎くん」


そして私は学校中を案内される。

職員室とか音楽室、茶道のお部屋、保健室。

私はそれらを記憶する。

そうして歩く中で一郎くんに言う。


「ゴメンね。君に...こうして案内してもらって」

「全然気にしないで。俺は気にしてない。...むしろ君と話が出来て良かった。また話が出来て本当に」

「...昨日もゴメンね。マネージャーが...」

「良く説得できたね。マネージャーさん」

「...説得っていうかごり押しっていうか。アハハ」


そう言いながら私は苦笑いを浮かべる。

すると一郎くんは話を聞いてから「そうなんだ」と柔和になった。

それから「...マネージャーさんが何で納得したかは分からないけど。...でも君の意思がちゃんと伝わったんだね」と笑みを浮かべる。

私はその顔に頷く。


「...お堅い感じがしたから無理かなって思ったんだけど」

「そうだね...」

「君の顔も見れて良かったんじゃないかな。マネージャーは。それで許可を出したとか」

「それは無いよ。多分。俺なんか役に立たないしね」


彼はそう言うなり複雑な顔を浮かべる。

その顔に私は「?」を浮かべて(聞いちゃいけなかったかな)と思いながら考える。

するとそれに気が付いた一郎くんがハッとしてから「大丈夫」と言ってくる。

私は顔を上げた。


「...すまない。...かつての事があったから人と関わるのが苦手なんだ」

「一郎くん。かつての事っていうのは」

「俺、実は...人に嫌われてね。女の子に。...それで何だか対面で話をするのが苦手で...それで君にマズい事も言ったかも。...ゴメン」


一郎くんはそう言いながら窓から外を見る。

太陽が少しだけ陰り。

それから雨雲が近付いていた。

私はそれを見てから顎に手を添える。

そして考えてから一郎くんの手を握る。


「な!?」

「...大丈夫。...私は...貴方にマズい事はされてない。...貴方は私を救ってくれた。ただそれだけ。本当に貴方の助けは虹がかかる様な感じだったよ」

「...幸奈...」

「貴方が私に接する事を...接してくれる事を。私は嬉しく思うよ」


そう言いながら私は一郎くんの手から手を離す。

それから笑みを浮かべた。

一郎くんはボッと言う感じで爆発する様に赤面していた。

私もハッとして...手の感触を確かめる。


「俺なんかの手を握っても...どうしようもないのに。有難う」


一郎くんはそう言ってから笑みを浮かべる。

私はその顔に...何か。

また先ほどみたいな鼓動を感じた。

何だろうかこれ...?

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