第5話 ( ゚Д゚)


俺は...彼女。

泣いた霧島幸奈のその苦労を見た気がした。

今の...立場が喜ばしい事じゃないんだな。

俺はそう思いながら幸奈を見る。


「仕事の件は大丈夫なの?」

「...まあ大丈夫じゃないかもだけど。何だか今のこの場所が居心地が良いから」

「...」


幸奈はてんにんどうのゲームをしている。

アイドルがゲームという...絶対に見られない姿だが。

彼女はとても楽しんでいた。

俺はその姿を見ながら笑みを浮かべる。


「...幸奈も1人の人間だから休憩が必要だったんだよ」

「え?...そうかな」

「...幸奈が喜んでゲームをしている姿を見て思った。俺は君が休憩が必要だったんじゃないかって」

「...」


幸奈はキャラクターが穴に落っこちてゲームオーバーになったテレビ画面を見てから「...私、一郎くんに出会うまで...こういうのを知らなかったから」と呟く。

それから幸奈は俺を見てくる。

可愛らしい笑みを浮かべる。

俺はその顔を見ながら「!」となってからそっぽを向く。


「...一郎くんは不思議な人だね」

「俺が?...いや。普通だよ。君以上には暇人な人間だよ」

「だけど私は貴方に出会って教わる事を教わった。...それは事実だよ。私は貴方は特別な人だって思うな」


そう言いながら幸奈は笑顔になる。

俺はその顔に赤面する。

とても可愛い。

数多くの人を虜にする笑顔と違う。

本音の笑顔だろう。

そうしているとインターフォンが鳴った。


「...え?...宅配かな」


俺は慌ててインターフォンのモニターを観る。

そこに...丸眼鏡を掛けた厳つい顔の女性が立っていた。

スーツ姿である。

一発でこれが誰か分かった気がした。


「...アハハ。帰らなくちゃいけない」


そう...幸奈が寂しそうに呟く。

これは幸奈のマネージャーという事か。

そう思いながら俺は玄関のドアを開ける。

すると女性は律儀に90度で頭を下げながら「突然のご訪問、申し訳有りません。わたくし輝プロダクションの柴田紀子(しばたのりこ)と申します」と言いながら名刺入れから名刺を出した。

それから俺に両手で渡してくる。


「...彼女を探しに来たんですよね」

「仰る通りです。不甲斐なさで申し訳ございません」

「...」


奥から幸奈が出て来る。

複雑な顔をしている。

俺はその顔を見ながら居ると柴田さんが「帰るわよ。幸奈」と言った。

それから幸奈は力無しに「はい」と返事をした。


「貴方の仕事はアイドルという自覚を持ちなさい。...恋愛禁止とまでは言いませんがこの様な事をされると困ります」

「...」


幸奈はゆっくり「はい」と返事をした。

それから俺を見てくる。

俺はその顔を見てから「...じゃあな。幸奈」と言う。


彼女は「うん。じゃあね。一郎くん」と手を振る。

そしてそのまま彼女と柴田さんは車に乗って去って行った。

俺は何故か知らないがその事に壁を殴った。

何故そんな事をしたのかは分からなかったが...。



幸奈が去ってから俺は翌日を迎えた。

そして俺は足取り重く学校に登校する。

2階の教室に入ると数少ないクラスメイトの眼鏡を掛けたそばかすの友人の男、島村正大(しまむらしょうだい)が話し掛けてきた。

「暗そうな顔をしてどうした?」という感じで、だ。


「...ああ。ちょっと落ち込んでいてな」

「そうなのか?...まあゲームで負けたんだろ。...良くある話だよ俺もそうだからな」

「はは。まあそう言う事にしておいてくれ」


島村はうんうんと頷く。

限定版のゲームを買い損ねたとかじゃない。

正直言って幸奈の事が心配だった。

喉を飯が通らなかった為に残したら親父が「どした?」と聞いてきたぐらいだった。

それぐらい食べれなかった。


「...というかお前さん。何だか切なそうな顔だな。そんなに手に入れたかったのかそのゲーム」

「...島村。1つ聞きたい事がある」

「おう」

「...とあるヤツが心配でな。それで食欲が無いんだが。...どうしたら良いかな」

「へ?それは女か?」

「違う...な。うん。ただお前ならどうするか聞きたい」


すると「良く分からんがそりゃまあ気にかかる人なら心配して当然だな」と島村は眼鏡を上げながら眼鏡を輝かせて答える。

俺はその顔に「そうか」となりながら笑みを浮かべているとチャイムが鳴った。

島村は慌てて「じゃあな」と戻って行く。

それを見送ってから俺は開いたドアを見てから真正面を向く。

女性の担任、北島美里(きたじまみさと)が入って来た。


「はい。おはようみんな。...今日は実はね。6月だけど転校生が来ます」

「「「「「は?」」」」」


目が点になる。

みんな絶句している。

そりゃそうだ。

だってそんな気配が無かったのだが。

6月に転校生?誰だ?


「彼女は有名な人だけどこのクラスなら受け入れてくれるって信じています。じゃあ入って来て。霧島幸奈さん」

「は?」


クラスメイトが更に( ゚Д゚)になる。

俺自身はと言うとまぬけな大きな声が出た。

頬杖している手から頭をずり落とすレベルではある。

それから教室のドアが開いた。


「初めまして。霧島幸奈です」


間違いなくライトニング・スターの。

日本一有名なセンターのアイドルある霧島幸奈だった。

髪を靡かせて俺達を聖母の様に見ている。


可愛すぎる姿に島村もそうだが教室の反応はというと絶句し過ぎて言葉が出てこない様だった。

ブッダとかそういう神でもいきなり出現するとこんな感じなのだろう。

その幸奈は俺を見るなり嬉しそうに駆け寄って来た。


「来ちゃった。一郎くん」


恥じらいながらも嬉しそうにはにかむ少女。

教室の視線がぐりんと音を立てる様にボッチの俺に集まる。

俺の手を握りながら笑顔を見せる幸奈。


「いや待てアイツ殺すか?」

「何だあれは...」

「マジかオイ」


何事。

そんな感じで教室がようやっと反応する。

その中で俺はありえないという感じで彼女を見たり握られている手を見る。

ちょ、え?

俺はそんな中でそうしか反応が出来なかった。


で教室はというと。

俺への殺意に満ち溢れていた。

デッド・オア・アライブな感じだ...。

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