第4話 アイドルという職業
☆
私は彼。
痴漢から救ってくれた上条一郎くんの家のお手洗いを借りた。
それから便器に座ったまま私は顔を手で覆う。
馬鹿な真似をしてしまった。
こんな隠す様な感じは良くない。
「はぁ...」
恥ずかしさを頭の中から抹消する為に。
記憶媒体を壊す様な感じで私は首を振る。
恥ずかしさは取れなかった。
そうしていると...スマホがピコンと鳴った。
(マネージャーがブチギレてる。この先の予定が合わなくなるって)
そう必死の文体で書かれていた。
キャラもののスタンプも添えて、だ。
メインディッシュが出ている。
私はその、きい、の言葉を眉を顰めて見る。
正直に言ってしまうと私は...センターもアイドルも辞めたいと思っている。
何故か。
それは簡単だ。
きい、を支えてはいるが私は裏方が良かった。
だからこそ、やる気、が今は起きない。
ここまで有名になってしまった挙句しかも売り上げナンバーワン。
それだと簡単には辞められないのだ。
今苦労しているアイドルの人達に向けては申し訳ない言葉だが。
私はあくまでアイドルになりたかった訳じゃ無い。
自由が無いからでもあるが。
「...」
私は、きい、に向けてメッセージを飛ばした。
(今はそっとしておいて)と。
すると、きい、は(なる。了解。じゃあマネージャーをとりま説得しておく)と返事をくれた。
きい、はいつもこんな感じだ。
本当に...良い子だと思う。
そう思いながら私はスマホの時計を見る。
既に5分以上経過している。
これはいけない。
私はスマホを仕舞ってから慌てて立ち上がりそのままドアをゆっくり開けて閉め。
そのままリビングに戻る。
するとそこには笑みを浮かべている彼が居た。
何かを持っている。
「それは?」
「...これは...俺の成長アルバム。...君が何だか落ち着かない様だから楽しませようと思って。まあでもつまらなかったら言って」
「...」
彼は無邪気そうな感じで言う。
私はその言葉が...胸に突き刺さる。
というか優しさが突き刺さる。
涙が出そうになるがそれを私は堪えて「うん。見たい」と言ってからアルバムを見せてもらった。
そこには一郎くんの雄姿があったり。
ふざけている姿があったり。
裸の姿があったりした。
私は驚いたり笑ったりして忙しなかった。
そのうちに私は何だか気分が落ち着いてきた。
私は驚きながら自らの胸に手を添える。
すると彼は「どうしたの?」と不思議そうに聞いてきた。
私は首を振ってから「落ち着いた」と笑顔になる。
「ああ。そうなんだね」
「...貴方は優しいね。一郎くん」
「...俺は優しいんじゃないよ。根暗だしね」
「優しさは一つの才能だよ。...それに根暗じゃないよ」
私は言いながらハッとした。
あ。そうだ、と思ったのである。
その様子に「?」を浮かべる一郎くん。
私はニコッとした。
「お部屋どこ?」
「おへや...ってまさか!!!!?」
「そうだよ。君の勉強している部屋」
「と、トップアイドルだよ!?俺の部屋汚いし釣り合わない!」
「私は構わないよ」
そして私は一郎くんに柔和になる。
すると一郎くんは「...ちょっとだけ片しても良い?アニメグッズとかが床に転がっているから」と頬を掻いてから反応した。
私はその言葉に頷く。
「じゃあ待ってるね」
それから私は待つこと5分。
一郎くんがお部屋に呼んでくれた。
私は「お邪魔します」と言いながら入室...する。
よく考えたら男の子の部屋って初めてだ。
不思議な体験だな。
☆
「わ。凄いいっぱいのアニメグッズだね」
「ゴメン...片付けが間に合わなかった...」
「だから構わないって言っているよ?私は」
「でも恥ずかしい」
「そっか。だよね」
私は一郎くんの部屋を見渡す。
そこにはベッド、学習机、アニメグッズ、テレビゲーム、テレビという感じでいっぱいあった。
その空間は特別な...。
何だか落ち込んできてしまった。
「...どうしたの?」
青ざめてから思いっきりワタワタする一郎くん。
私は落胆した姿から顔を上げた。
それから「ねえ。一郎くん」と一郎くんを見る。
一郎くんは「???」という感じで私を見てくる。
息を吸い込む。
そして聞く。
「自然な形ってどういうのだっけ」
そしてそう一言私は訳の分からない質問をしてしまった。
頭の中で想像している言葉と違う。
「良い部屋だね」と言いたかったのだが。
私はハッとしてから青ざめた。
するとキョトンとしていた一郎くんが「ああ。成程」と納得した様に見てくる。
私はさらに落ち込む。
やらかした。
そう思いながら、だ。
だが一郎くんは笑みを浮かべる。
「君は忙しいんだよね。トップアイドルとして。だから疲れているんだろうね。素の姿を忘れているみたいだけど。俺は忘れてないって思う。アルバムを観てくれて有難う。それが大切なものだと思う」
私はまさかの答えに衝撃を受ける。
すると一郎くんは更に言葉を学習椅子に腰掛けて続ける。
そして一郎くんは「大変だね。アイドルって」と労ってくれる。
その言葉がグサッと胸に刺さった。
それから涙が溢れる。
「...私...分からないからね。...自分が。それで私は...アハハ。こんなの一郎くんに言っても仕方が無いのに」
「...俺にも分からないよ。君の事は。自分自身しか分からない。...だけど大丈夫。未来は明るいから」
一郎くんはティッシュを渡してくる。
そうか。
私は。
きっとこうして本音が吐けなくて疲れているんだな。
そう思えた気がした。
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