二十八

 玄の店は今日もシャッターが閉まっていた。中に人がいる気配もない。ふと、誰かに見られているような気がした。振り返る。だが、いつものとおり誰もいなかった。

「ふん、どうせヤマト会やろ。コソコソせんと、出てこんかい」

 呟いた瞬間、スマホが震えた。登録のない番号。迷ったが出る。

 立野だった。ガラガラ声が耳に響く。

「すまん、すまん。おまえのところの若い衆に番号を聞いたんや」

「何の用や?」

「何も訊かんと『福』まで来てくれへんか?」

「……」

 警察署まで来てくれと言われたら断ったが、立野は「福」に来いと言う。何か大事な話があるのだろう。

 返事をせずに電話を切り、「福」に向かう。その道中も、誰かに尾行されている気配は消えなかった。

「福」は支度中の札がかかっていた。引き戸を開けるとフクと立野だけがいた。

 岬が椅子に座るやいなや、立野が口を開く。

「玄やけど、もう長くないらしい」

「!」

 この前見た時、異常に痩せていた。食えないからだと言っていたが、病気のせいだったのか。

「店も売ってしもたらしい。たった五百万で」

「……」

「半田のオッサンも詐欺に遭った」

「詐欺?」

 半田の件についてはフクが説明してくれた。

「明らかにヤマト会が描いた絵図やないか」

 ビールを呷り、吐き出すように言う。

「証拠がない」

「それを調べて明らかにするのがおまえらデコスケの仕事やろ!」

「……そやな」

 立野が珍しく素直に頷く。

「くそっ、玄のアホめ……店を売ったこともそうやけど、なんで病気のことを言わへんのや!」

「親友やからこそ言いたくなかったんやと思う。うちにだけ言ったみたい。誰にも言うなって釘刺されたけど……」

 フクの言葉を立野が引き取る。

「いや、教えてくれてありがとう。ダチのワシらが知らんのはおかしいからな。なあ、岬?」

 岬はそれには答えず、フクに礼を言った。

 フクは、

「玄ちゃんの店……半田さんの家もそうやけど……もうどうにもならんのやろか?」

 岬は黙って立ち上がった。

「おい、どこ行くんや? まさかヤマト会に殴り込みかけるんやないやろな?」

「ふん、昭和の唐獅子牡丹やないわい!」

 岬は「福」を出た。スマホを取り出し、かける。かけた相手は、福井に帰ったしずかだった。

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