第74話 これが結界か

そして、草加部と大沢とのすれ違いで今村が出社してきた。

今村の頭の中では夕べの草加部からの最後のメールが気になっていた。


”今回のは悪質です。”


配達ドライバーからも言われていた。

”あれは酷い!”


今村は車から降りた。事務所に行くために喫煙所の前を通る。何名かでたむろっていた。


「おはようございます」

「おはようございます」


”何か、いつもと違う感じがする。何か言いたそうな。”


階段を昇りホームに上がった。

ドレッドヘアの沢木が作業をしている。珍しくトサカ頭の能見が手伝っているではないか。


”なに?こんなことがあるんだ。”


今村は、いつも休憩室側から入り事務所に入る。


ガラス越しに、何か貼ってあるのを何人かで読んでいるのが見えた。


今村は入った。


「おはようございます」

「あっ、おはようございます。」


とりあえず、今村はほって置いた。自分の席に向かった。机の上に書面があるのに気づいた。事務所と休憩室の仕切りのガラス越しに休憩室の様子を見た。机の上の書面を見た。


”あれって、これか。”


今村は、立ちながら読み始めた。周りの声は入って来なくなった。


欺瞞ぎまん行為?”


”自分の意図したようにするために人をあざむいていた?”


”意図は?何をするために?”


構内にいるグリミーを目で探した。


”わからない。何がしたい?”


今村はとりあえず、グリミーの方に行った。


「東藤さん、私に嘘をつきましたか」


周りは、何の話しなのか察しがついている。

黙って見ている。

今日の構内はいつもより静かだった。


今村はグリミーを凝視している。


「はい、とっさに・・・」

グリミーが嘘をついたのを認めたのだ。


「東藤さん、あなたは何がしたくて大沢君を責めたんですか」


「・・・・あれですよね。読みました。」

と手で遮ってるのか、分かってますのジェスチャーなのか、どちらにも見える素振りをした。


今村は答えにならないことを言っているグリミーを見て、


「東藤さん!」と少し強めに言った。


グリミーは「OKです。あれ、読みましたから」と手で遮られた。


今村は話しにならないと諦めて事務所に戻った。


”罪悪感がないのか?”


”とりあえず、これだけ話題になるのはいいだろう”


ふと、今村は綿貫が気になった。いつも通りに仕事をしていた。


今村のスマホが鳴った。


”草加部さん!”


『夕べお話しさせて頂きました件。大沢君は嘘をついていません。今回のは名誉回復措置です。危なく大沢君が潰されるところでした。これで2回目です。』


もう1通来た。


『グリミーについて気になります。

ズバリ言いますと社会病質者ではないでしょうか。


今までのを思い起こすと、自己中心的な解釈で、衝動的かつ短絡的な行動や言動が目立ちます。かつキレる。


グリミーの場合は承認欲求が強いので、そこから自分の欲求を満たすためだけの思考が強く働き、承認欲求を満たすだけに突出しているのではないかと思わざるをえません。


その目的のために欺瞞ぎまん行為を繰り返し周りの人を操作コントロールしようとする。これに長けてるんです。


そこに罪悪感はないんです。


自分が満たされればよく相手の尊厳は気にしません。軽視します。相手の尊厳を軽視して貶めて自分の立場を優越的にする。そのためだけにやっているのではないでしょうか。


例えば、自分はちゃんとやっているけど夜勤がダメなんですと吹聴する。今回の大沢君に対してのも同じではありませんか。


これは説明がつくんです。社会病質者。”ソシオパス”です。』



今村はグリミーを見た。


今村は地頭がいい。


続いて、


沢木、村上、嵯峨、能見を見た。

大型ドライバーの伊藤、榊、大森を思い浮かべる。


消去法で行く。

嵯峨、大森、能見は消去。


そうすると、東藤、村上、沢木、伊藤、榊。


”どおりで繰り返すわけだ。


周りの権利は軽視して自分中心のことばかり言う。


そういう思考なんだもんな。そして罪悪感がない。


そのためには欺瞞行為、風評の流布るふをして周りを操作コントロールしようとする。


ある意味手段は選ばない。

この5名でビンゴだ。説明がつく。”


草加部からまたメールが届く。


『これの治療法はないそうです。

本当に相手にしてはいけない相手っているんです。

即、結界を張りましょう。

具体的には、グリミーと大沢君が顔を合わせないようにシフトをずらすだけで結界が張れると思います。


それと本部のハラスメント相談室に実名で告発があったことにしましょう。必要であれば所長の上司には報告できませんか?今回のは悪質です。こういうことがありシフトをずらす方法を取ったと。それをグリミーに話せばグリミーの精神にも結界が張れます。


大型ドライバーとの結界はもう少し機会をうかがいましょう。』



”社会病質者であれば結界を張るしかないな。”

”本部の件は少し時間を置こう。その方が信憑性が出る。”


今村は決断した。東藤の方に行った。


「東藤さん、明日から8時からでいいですよ。」

「えっ、いや、あいつらだけでは」

「そこまであなたがやっていますか?」

「いや、それでは残業代が」

「そういうことですよね」

「せめて7時半からで」

「それでいいです。では明日から。」


”なんだよ、結局、残業代と自分のエゴじゃねえか”


カイは黙って見ていた。”これが結界か”


休憩室の中にはさっきよりも人が集まっていた。



ーつづくー


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