第75話 非情になるための理由付け

草加部は家に帰り、ある言葉について考えていた。


”あまり使わない言葉だ”


検索した。


ーーーーー

欺瞞ぎまんとは何か。

 あざむくという字とだますという字で構成されている。

・欺くという意味は、言葉巧みに嘘を言って相手を信頼させ騙すこと。

・瞞すという意味は、暗いこと、目がよく見えないこと、

          騙すこと、あざむくこと、くらますこと。


 騙すという意味が並ぶ単語


※瞞すという字は常用漢字ではなく、常用漢字にすると騙すとなるらしい。』

ーーーーーー


軍事でも使われる言葉らしい。


”欺瞞作戦”


スマホとにらめっこしながら考えていた。


暗いこと、目がよく見えないこと、くらますことという意味もある。


奥さんが、「ごはん食べないの?」と言っている。


が、草加部の耳には入らなかった。奥さんも気にしなかった。


『欺瞞というのは、まだ理解できていない人や全体が把握できていない相手を信頼させ瞞すこと。


だまくらかす という方言が実在する。だますを強調したものということだ。北海道、秋田、群馬、山梨、愛媛、高知の方言らしい。


欺瞞ぎまんの性質を捉えているように感じる。』


”ようは、相手が知らないうちに騙すこと。”


だから新人が狙われる。


”これを軍事作戦で使う時は、まだ相手が知らないうちに嘘の情報を流し、そう思わせて有利に進められるようにする作戦ってこと。”


風評を広めることで周りを固める、


これがグリミー民族の戦略ということか。


そこに罪悪感はない、ということは悪意もない。


『悪意なく自分のことだけを考えて、風評を広めることで周りを固め、自分の意図した通りに事を進めようとする。』


これがソシオパスだ。


罪悪感がなく、悪意もなく、こういう思考が働く相手なわけだから非情にならないといけないということだ。


情けをかけると負ける。

取り込まれる。

引きこまれる。

言われたことを受け止めても、

考えただけでも負ける。


ソシオパスの思考は、自分のためだけの思考で周りを巻き込んでるわけだから応える必要はないということだ。


構内作業員に言っても仕方がないことを言い続けている。


応える必要がない。


これが草加部の解釈だ。


例えば、グリミー6号の伊藤。


自分を被害者であるかのように見せるために、集約店にいる段階で仕事の遅い仲下を残業時間がオーバーしてしまうからという口実で少しだけ積ませて早めに出発させることが目立つことがあった。


その後、仲下のために自分が最後まで残り、全部積んできたことをアピールし、疲れ果てた演技をしながら、コの字を何度も見ながら荷降ろしをして、言いやすいカイさんに作業員が手伝わないのはおかしいと愚痴を言うことがあり、めんどくさくなってきていたことがあった。


この意図は、手伝わせること、いっぱい積むことで歩合を稼ぐ事。


逆に言えば、いっぱい積んできて被害者面をしながら手伝わせて楽して歩合を稼ぐ事。そこに罪悪感はない。


草加部は合点がてんした。点と点が繋がったとはこういうことかもしれない。


グリミー民族は愚痴という呪文を使う。感情移入をしてはいけない、その感情が利用される。いつものようにこちらに罪悪感が芽生えてしまう。


その罪悪感を利用されコントロールされる。


草加部は、まんまとこの術にはまっていたのだ。荷降ろしを手伝うのは構わないが、それが当たり前になりエスカレートしてきていると思う。


非情になることが必要だ。


義務や責任を強いられることも嫌うらしい。


もしかすると自分のためだけの思考なわけだから、質問返し(呪い返し)は効果的かもしれない。


やはり線引きだ。やっていることに間違いはない。


自分の仕事は自分でやる。


ソシオパスは、義務や責任を強いられることを嫌う。ということは自分の仕事は自分でやるという方向性自体に抵抗感があるのかもしれない。


結界を張るが正解で、こちらの精神衛生上、生きるために区別は必要なことだ。


完全な線引き、結界、相手の領域に干渉しない。


こういうことだと思う。草加部は非情になるための理由を見つけた。


草加部は、今回いろいろ調べてるうちに、自分もソシオパスではないかと考えた。周りを巻きんでいる感がある。客観的に自分を見つめてみた。この線引き(結界)は自分のためだけのもではないと考えているし、何よりも違うと言い切れる理由は良心の呵責があること、罪悪感が芽生えること、非情になるためにここまで考えないとなれないことだ。衝動的には無理だ。


ーつづくー

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