第72話 そして1か月ちょっと、欺瞞に満ちた行動。

10月16日 月曜日


あれから1か月ちょっと過ぎた。

ナイトワーカーズはグリミーこと東藤の観察を続けていた。


8月から始めた荷降ろしの手伝いについて、草加部の提案が通り、自分がそれに従っているような感じになっているのが気に入らなかったようで、草加部を陥れるために林や配達ドライバーに吹聴を続けていた。


キーーーー、夜勤なんて誰でもできるから

林でもできるからキーーー、あいつなんて大したことねえから

知ったかぶりしてんだからキー


こんな感じで、持ち前の承認欲求を発揮し、草加部の信用を落とし、東藤自身が自己中心的な解釈で自分の価値を高めることに執着していた。ちなみに承認欲求が強すぎるのは、言動が大げさで誇大的になる傾向がある人格障害で演技性パーソナリティ障害と言うらしい。


ナイトワーカーズとしては、東藤は何かしらの人格障害だと見立てている。


グリミー6号の伊藤と7号の榊についても観察を続けている。


二人については、お手伝いしてもらってるというのを忘れてきていると思う。作業員がやるのは当たり前だ。作業員の仕事だ。なんでありがとうなんて言わなきゃならねえんだ。こんな感じだ。


そういえば、こないだグリミー榊に言われた。


「草加部さんが休みの日は誰も手伝わないよ。」

「えっ、なにそれ?」

「東藤だっ。」

「だって事前に相談したら、やるべきだって言ったの東藤さんですよ。」


「昔からこうなんだ。ダメなんだ。」

「とりあえず所長指示でやってることなんで、やると決めたわけですからやりますから。」


グリミーはいつもこうだ。決めたことや自分が言ったことを守らない。言うだけだ。


“でもさ~榊さん、伊藤さんの態度も傲慢だよ。そういうのも関係あんじゃないの?”


「伊藤さんもどうかと思いますよ」


「あいつは、頭の中で自分のルールが固まっててダメなんだ」


「ダメなんだって言われても、あの傲慢ぶりは困りますよ。ただ榊さんに言っても仕方ないですよね。」


「機会があったら言っときますから」


「それなら私も東藤さんに言っておきますから」


こんな感じのことがあった。


グリミー2号の村上、1号の嵯峨、5号の沢木の観察も続けている。


嵯峨については、1号という称号の通り感化されやすい性格なのではないだろうか。村上からの誘惑と闘いながらも、まだくすぶっている感じがある。村上は社会病質者だろう。短絡思考で衝動的に荷物を叩きつける。声を上げる。周りに吹聴することを繰り返している。異常を感じる執念だ。5号の沢木は、マイペースで周りには全く関心を持たず、都合のいい解釈で自己中心的な配達の段取りをしている。分かりやすく言うとパレット物の組み換えは自分でやるようになったが、積みきれなくなるくらい枚数を広げ、自分のホームに置けなくなっては被害者面する。一生懸命に積みきれない段取りをしては被害者面をしながら他のホームに置きだしては当然の権利を主張し、草加部に「草加部さんもちゃんとこういう風に考えて置けるところに置いたらどうですか」と紳士風な口調で諭すように正論っぽいことを言う。正論っぽいことを言うが行動を見ていると短絡思考で考えが及ばない、衝動的にキレている時がある。ある意味、何らかの人格障害を患っていると思っている。ナイトワーカーズは社会病質者ソシオパスと見ている。


なかよし保育園のテレビの取材の件は、先週の12日木曜日の夕方の番組で放送された。


たまたま草加部は休みで偶然やってたのを見た。


教室の壁には、園児達が自由に想像したグリミーの似顔絵が貼ってあった。鬼みたいなのもあれば宇宙人みたいなのもあれば、一つ目の妖怪みたいなものもあった。


タレントの人が似顔絵を見て、「こういうふうになりたくない」と言いながら、いじめっ子対策を紹介していた。


保育士が作った内容は、いじめっ子は心が汚くなって、そこから臭くなって、グリミーになっちゃうよみたいな感じだった。


「いじめっ子はカッコ悪い、ダサい、臭い」

「グリミーになっちゃうよ~」


こんな感じで最後は、


「いじめっ子はカッコ悪い、ダサい、臭い。」


と、みんなで言ってスタジオが映った。


スタジオでの話しのなかで、ネット小説グリミーを紹介してくれた。


こんな感じだった。それから小説へのアクセス数は増えた。草加部は頑張って更新している。ネット小説でのコメントやメールも増えてきた。メールの内容は共感してますみたいな内容が多かった。それだけハラスメントが多いのだと思う。


“綿貫さんの活躍のおかげです。”



20:16分、事件の報告を受ける。


草加部と大沢君はいつもの席にいた。

大沢君が思い詰めた感じで、

「草加部さん、今日の朝なんですけど」

と、切り出した。


昨日の日曜は大沢君だけのシフトで、月曜日の朝は荷物が入って来ないので日勤が7時に来たら交代であがるのだが、グリミーが出社してくるなり乱暴に、


「おー!おー!大沢ちょっと来い!」

「はい」

「おめえや、なんで100円ショップの11個口が2台にまたがってんだよ。日曜なんか暇なんだからやれよ!おーい、聞いてんのか!」


「・・・」

「やりますって言わねえのか?」

「・・・」

「俺はここまでやってたぞ。なんでやれねえんだ。」


というやり取りが延々続いたということだ。


話しが終わったかなと思いトイレに行き、トイレを出る時に出れないようにしながら、


「おめえは仕事舐めてるんだよ!なんでやりますって言わねえんだ。」

「舐めてません。」

「舐めてんだよ。俺はやってたのになんでできねえんだ!生意気なんだよ!」


と大声で怒鳴られて、終わったかなと思って荷物持って車に向かったら、喫煙所にグリミーがいて、車に向かったら、


「おー!おー!ちょっと待てや、おー!おめえは生意気なんだよ!」


と絡み始めてきて大変だったという内容だった。これが結構長くて、グリミーが出社してから7時20分くらいまで続いたということだった。


「えっ!何それ?キツかったな?」

「・・・はい」


「で? この20分間グリミーは仕事しなかったってことか?グリミーがやればいいんじゃないの?っていうか、グリミーがそこまでやらなくていいって俺に教えたんだぞ。それを俺が大沢君に教えたんだ。いつからそこまでやるようになったの?何かきいてるか?日勤だってやってないよな。」


「何も聞いてないですし、日勤もやってないと思います。」


「ダメだ、所長にメールしておくよ!」


即、その場で報告メールをした。


即、今村から電話がきた。


チリリーンのチで即、出た。


「草加部です。」

「草加部さん、今メール見まして、ちょっと大沢君がいないところに行けます?」


「はい、分かりました」


と休憩室を出た。


「はい、出ましたけど」


「あれね~ちょうど俺が出社した時と重なったんだけど、誤仕分けがあったから指導したって言われたんですよ。大沢君からその事は言われました。」


「いいえ」


「たぶん、都合の悪いことは言ってないんじゃありませか。」


「え~そうなんですか?でもそれで20分?出社してすぐ?」


「都合のいいことしか言ってないと思うんですよ。」


「そういうことですか~」


「とりあえず、そういうことで。」


草加部は電話を切って休憩室に戻った。いつものところに座り少し考えた。大沢はこっちを気にしていた。


沈黙が続く。



“よし、不意を突く。”


「でっ、誤仕分けのことはグリミーに何て言われたの?」


大沢がキョトンとした顔をした。


「は?何ですか、それ?そんな話しは全くされてませんよ。」


“嘘はないと思う”


「なんか、所長が出社した時に見かけたのでグリミーに聞いたら、誤仕分けしてたから指導してたって言われたんだって。」


「はー? まったく知りませんよ。」


「わかった!まずは所長も都合のいいことしか言ってないんじゃないの的だったから、誤解だと連絡する。」



「なあ、大沢君」

「はい」

「これが社会病質者、ソシオパスなんだ。」

「怖い」

「怖いよな~、罪悪感ないんだよ。」


草加部はすぐにメールした。


内容はそのままで送った。


即、返ってきた。


『了解しました。実は配達ドライバーからもあれは酷いと連絡が来てましたので、明日話します。』


草加部は、

『誤解が解けて良かったです。今回は悪質です。よろしくお願いします。』


「大沢君、とりあえずオッケーな。」


「それと、グリミーに朝の荷降ろしは草加部さんが勝手にやってることだから、やらなくていいからって言われました。」


「えっ!」


ソシオパス、想像を越えてくる。これが欺瞞ぎまんだ。


欺瞞ぎまんに満ちた行動とはこういうことではないだろうか。恐怖を感じる。ここに罪悪感はない。


 Grimm is endless

〈残忍でおぞましい出来事が終わらない。〉


ーつづくー

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