第66話 保育士の菊池さん。

それから、

1ヶ月が経った2023年9月5日(月)午前11:32分。


近くにある、なかよし保育園の保育士が営業所に来店した。


「こんにちは」と自動ドアから入ってきた。一目で幼稚園か保育園の先生というのが分かった。両手に子供がクレヨンで描いた絵を束ねて持っていた。


「いらっしゃいませ」

「すいません。そこのなかよし保育園の菊池と申します。」

「はい、お世話になっております」

「いつも、綿貫さんがクワガタムシとかカブトムシを園児に持って来てくれまして、そのお礼で伺わせて頂きました。」


今村が席を立ち、

「あ~、なんか一生懸命やってましたね~」


「はい、本当にありがとうございました。それで園児達がイメージしたグリミーの似顔絵を描きまして、綿貫さんに上げるんだって。」


「そうですか、それは喜びますよ。ありがとうございます。」


今村は、“なぜグリミーを?”と不思議で、

「それで、グリミーをご存知なんですか?」


「はい、綿貫さんにネット上の小説を紹介してもらいまして」


「小説?グリミーが?」


「そうなんですよ。ご存知ありませんか?」


今村は何て説明していいか困った。まさか、東藤の渾名とは言えない。


「小説は知りませんでした。」


「内容は、ハラスメントを繰り返すグリミー達と作業員が戦う物語なんですけど、それを参考にして、いじめはカッコ悪いし、ダサいし、臭いというのを園児に教えるために子供向けに作りまして読んであげてるんです。」


「へ~」


「それで、お絵かきの時間に園児達が描きました。」


「そうなんですか」と今村は何枚か見てみた。


子供の想像力は凄い。匂いも感じてくる。


「いや~凄いですね。」


「自分達はこうなりたくないって、嫌がらせする子がいなくなりました。」


「すばらしいですね。たしかに、こうはなりたくないですね。」


事務員も見にきた。

「ほんとだ、こうはなりたくないですね。」


東藤と重ねて笑いあっていた。


保育士の菊池が、


「今度、テレビが取材にくるんですよ。いじめっ子はカッコ悪い、臭い、ダサいという取り組みをどこからか聞いたようで。小説も紹介しようと思ってるんです。」


「へ~それはすばらしいですね。」

「え~私も出たい。」


菊池は笑顔で、

「じゃあ、これで失礼します。綿貫さんにもよろしくお伝え下さい。」


「はい、分かりました。ありがとうございました。」


“小説? 綿貫さんに聞いてみよう。”


そして、お昼に綿貫が戻ってきた。


今村が、

「綿貫さん、今さっき、なかよし保育園の菊池さんという方がみえて、クワガタムシのお礼で園児達が描いたんですって、グリミーの似顔絵。」


「おっ!ありがとうございます」と似顔絵を見始めた。


「凄いですね。これがグリミーですか。臭そうですね~」

「小説って知ってます?」

「は? あ~知ってますよ。所長はご存知なかったんですか?」

「えっ、何々、教えて。」

「ネット小説の中にある、連載中の小説です。たまたま見つけまして。私も読んでます。」

「それをなぜ、菊池さんに?」

「いや、理由はないですよ。話しの流れで、小説が好きらしく話しが合いまして、グリミーを教えたんです。」


「そうなんですか。」


「はい、それをアレンジして、早いうちからいじめに関しての教育をしたいから、子供用の物語を考えたとは聞いてましたけど」


「テレビが来るんですって」

「凄いですね。」

「所長、それじゃお昼しますね。」

「あっ、そうですね。ありがとうございます。」


今村の目は綿貫の表情に向けられた。

プロの工作員の綿貫は、それに気づいていた。


“こういう訓練は受けている”


今村は自分の席に戻った。そして、頭を回転させていた。


“グリミーは東藤の渾名だ。それが小説。グリミー達と作業員の戦いと言っていた。

んっ!

グリミー民族の世論が傾いた時は綿貫が積極的だった。”


今村はパソコンで検索してみた。


“ネット小説”でグリミー。”


“出た”


“作者 ナイトワーカーズ”


“夜 働く人たち”


“なるほど、関係なくはない”


今村は考える。

そして、出した答えは、“泳がせておこう。”


ーつづくー

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