第51話 呪い返しの効果。

北日本便の到着荷物の仕分けをしていた。


始めは中沢さん一人で荷降ろしをしていたが、大型ドライバーの鎌田さんが戻ってきたので、鎌田さんが応援に入り、順調に降ろし終わったようだ。


通路や荷降ろしホームには荷降ろしされた台車が溜まっていた。


草加部と大沢は一つ一つ仕分けをしていた。


「大沢君、荷降ろし終わったようだからパレット物頼めるか。」


「はい、分かりました。」

大沢君はキビキビとフォークリフトに走って行った。


草加部はパレット物の片付けが終わるまでの間、1人で仕分けをしていた。


5:20分

いつも邪魔されていたので、グリミー2号の村上が出社するまでにはパレット物を片付けたかった。


こういう余計なことに気を回さなければならないことがめんどくさいと思う。


二人とも汗だくになっていた。疲労もたまっている。一人での仕分けだとはかどらない。全然違う。


とにかく、一つ一つやっていった。大沢君も一つ一つパレット物を片付けていった。


5:35分

パレット物の片付けが終わり大沢君が“コの字”に戻ってきた。やはり二人だとはかどる。


グリミー村上が出社してきた。


“コの字”を横目に担当のホームに歩いて行った。


少ししたら、配達の段取りをしていたグリミー村上がコの字に来た。


「一個足んないんだけど。ウキー」

「あ~あれですよね。まだ来てないですよ。」

大沢君が答えてくれた。


よくあることだった。


10個口の荷物が9個しか来ていないみたいなこと。

数が揃わないと配達できないのだ。


「いや、データ見たら来てるはずなんだキー。」


大沢は、間違って他に仕分けしたかもしれないと思ったに違いない。


草加部の方を見て、「ちょっと探してみます。」と言い、探しに行った。


草加部は来ていないと確信していたが、証明できないのでめんどくさいなと思いながら、「分かった」と言い、仕分けを始めた。


グリミー村上も雑にだが探し始めた。


しばらくして大沢君が戻ってきた。

「ないですね。」

「まだ、来てないんじゃないかな~」

と草加部は、断言的には言えないので、そう答えた。


二人は仕分けを始めた。


グリミー化までは行っていない川中が出社してきた。


村上は1個足りない説明をした。


川中は、「そうなんですか~」と、コの字の方をちらっと見て、自分の仕事に入った。


しばらくしたら、また、グリミー村上がきた。


大沢君を見て、

「ないんだけど」と言った。

「まだ来てないんじゃないですかね~」

「データでは来てる。」


大沢は、草加部を見て、

「探してきます。」と言い探しに行った。

「分かった。」


草加部は、はかどらない仕分けを頑張った。

グリミー村上は配達できるものだけ積み始めた。


6:00分ちょっと前

グリミーこと東藤が出社してきた。

大沢を見ていた。


「何かないんですか?」と草加部に聞いた。

「村上さんとこの荷物が1個足りないんですって。」


グリミーがニヤっとしたように見えた。そして、村上の方に歩いて行った。


何かを確認しているようだ。


グリミーも探し始めた。

たまに、コの字をちらっと見始めた。


大沢君もグリミーが探し始めたもんだから途中でやめられなくなったのか、何度も同じ所を探していた。


河童頭のカケルも出社した。


カケルさんも来たこともあり、

荷降ろしの台車が残り3台車になったところで、草加部も一応探すことにした。


グリミー対策だ。俺は一生懸命に探したけど草加部は探さなかったと言われないように。


三人で探し始めた。


グリミー村上は積み込みが終わったのか両手を腰にあてて見ていた。


関東便が到着した。


グリミー伊藤だ。相変わらず、がに股でちょこちょこと歩幅がない。いつ見ても特徴的だ。


続々、配達ドライバーが出社し始めた。


どうしたの?と聞かれるので、訳を話して、出てきたら教えて下さいと言う流れになった。


結局、出て来なかった。


グリミーが村上に報告に行き、諦めたのか、配達できるものだけで出発した。


皆、仕分けに入った。


パレット物も降りてきたので手分けしたい。


グリミーにお願いしたら、

「おめえに使われてんじゃねえ!」と言われた。


カケルさんに頼むとぐじゃぐじゃになる。


大沢君を残すのは酷だ。

今日はいろいろあった。


「大沢君、4人いるからパレットやってきて。あと、状況で俺が荷降ろしに入るから。」


荷降ろしも、

やるならやる、

やらないならやらない。

はっきりして欲しい。曖昧なルール。


大沢君はいつものように一つ一つやっていった。


配達のトラックが入って来たのが見えた。緩めのドレッドヘアな感じのグリミー沢木だった。


順調に終わったようだ。


グリミー1号の嵯峨も出社してきた。


しばらくして、

ドレッドヘアの沢木が紳士風に言い出した。

「カケルさん、そっち3人必要ですか?キー」


とりあえず、河童頭のカケルは沢木の方へダンディに歩きながら向かった。


グリミーは「キー、あの野郎」と言っていた。

草加部は聞こえない振りをした。


沢木がカケルに言った。

「あっちのパレット、あんなきれいにやってんだったらこっちもやって。キィー」


河童頭のカケルがダンディに答えた。


「どうして、あっちをやったら、こっちのもやらなきゃならないの?」


呪い返しだ。


沢木はキョトンとして、「何それ」としか言えなかった。


カケルがダンディに“コの字”に戻ってきた。

もう、辞めるからどうでもいいのだろう。


仕分けが三人になった。


大沢君も間もなくフォーク作業が終わる。


カケルさんが、

「東藤さん、荷降ろしやってくるから。」

と珍しく荷降ろしに向かった。

「・・・」


グリミーと一緒にいたくないのだろう。


グリミーは、沢木に断って戻ってきたのも気に入らない。いつもは断れないのかとイラついているが、断ったら断ったで、断れたの?と、おもしろくない。荷降ろしについてもそうだ。どっちにしても何か言う。そういう奴だ。困ってるのを見て楽しみたいのだ。


大沢君が仕分けに戻った。

「どうもね。」と草加部が言う。


グリミーはなんか機嫌が悪い。


グリミー村上も戻ってきた。1号の嵯峨にさっそく風評を流布していた。


視線が刺さる。


誤仕分けの荷物の置き方もさっきよりきつくなった気がする。音も大きい。「バカが」とも言われた。


カイさんが出社した。

いつもの如く、沢木に捕まる。必ず捕まる。


「あっち、荷降ろし手伝ってんのに、なんでこっちやってくんないの?」

いつもの紳士風ではなかった。必死感が伝わる。


カイさんの声が聞こえた。


「どうして、荷降ろししたら、こっちをやらなくちゃいけないんですか?」


極った。連携プレイだ。


今日1日で3回言われた、グリミー5号こと沢木。


「キィー何それ?」としか返せなかった。


グリミーには、

呪い返しのことは連絡していない。

カケルさんとカイさんを見て驚いていた。

動物的勘で何かしらの異変を察知したのだろう。


カイさんは、

いつものぶっきらぼうな太い声で、

「おはようございます。」と仕分けに入った。

「おはようございます。」


草加部は、

「村上さんとこの荷物が1個、まだ来てないので出てきたらお願いします。」と伝えた。


「分かりました。」


7:40分

上越便も戻ってきて全ての作業が終わった。

今日はわりかしスムーズにできた感じがする。


結局、グリミー村上の荷物が来なかったので事務所の人に調べてもらった。

「あっ、出ました。次の便に積まれてますね。」

「あれっ、わっ分かりました。ありがとうございます。」


草加部はグリミー村上に伝えに行った。

「村上さん、次の便で来るそうです。」

「は?そんなの知ってるよ。」

と、簡単に言って、1号の嵯峨と目で会話した。


グリミー嵯峨は、

「ふっふふ」と笑っていた。


“完全に向こう側に行ってんな。”


今日、起きたこと、

呪縛のこと、

呪い返しのこと、

歴史的背景の名残りのこと、

夜勤への差別の名残りのこと、


全て報告しておこう。


ーつづくー

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