第46話 情報の分析 これは呪縛だ

7月12日(火)22:42分


発送の対応、グリミー大森のボーリング大会が終わった。

グリミー大森の耳には既に入っていたと思う。

いつもより感情的なボーリングだったように感じた。

だから、荷降ろしが早かったかもしれない。


今日は順調すぎるくらい順調に終わった。


”天は我に味方せり”


その分、いつもより時間がある。

休憩室のいつもの席に座って大沢君は水分補給した。

草加部は気合が入っていた。


「大沢君。情報収集はどういう感じ?」

「あ~はい、これでいいのかな~って感じですけど、言われた通りにリストにしました。仁田さんのも昨日話は聞いています。」

「おっ、ありがとう。」

「護身術はどうだった?」

「ばっバッチリです。昨日、仁田さんやりましたよ。」

「そうか、護身術はあくまでも護身だからな、逃げられるなら逃げなきゃダメだよ。」

「はい、分かりました。」


「リスト見せてくれ。」

大沢は、リストをコピーを取りに行き、コピーを渡した。


「ありがとう。」

「仁田さんもこれ持ってるの?」

「はい、一緒に作りましたので持っています。」


草加部は目を通し始めた。


”優秀だ。”


「そうすると~、言っている内容はここにあるものだということだな。」

「そうです。」


ーーーーー


ーグリミー民族が言っていることー


0,誤仕分けするな。

1,そっちを手伝うならこっちもやれよ。

2,回り切れねーべや、どうしてくれんの?

3,その人によって違うんだよ。

4,なんでここにパレット置くの?

5,荷物を口毎に揃えとけや。

6,便所掃除がお似合いだ。

7,谷田さんが2年前に離婚していた。

8,狭いべや、持ってくんなよ。

9,いらねえよ

10,こっちは、これから配達するんだぞ。考えろよ。

11,パレットの組み換えしとけよ。暇なくせに。

12,仕事しろよ。または、仕事してねえよ。

13,荷降ろし手伝えよ。

14,仕分けにそんなに人いるのかよ。

ーーーーー


「この0番は?」

「一番キツイんです。特記したかったので0番にしました。それと、こちらにも落ち度があるので、嫌がらせなのか、要望なのかというところもありますのでこうしました。」


「あとは~この便所掃除がお似合いだは誰が言ってんの?」

「1号の嵯峨さんです。」


「なるほど、優秀だね~、谷田さんは離婚してたの?すごい収集能力だ。」

「あ、はい、ありがとうございます。」


草加部はリストを見てしみじみと言った。

「うちの会社は大丈夫なのか?」


この一言に大沢は笑った。

草加部はマジだった。


「契約書の業務内容の話しは知ってるよな。いつから、どうして、こうなったんだ。」


草加部は続ける。

「この中のさ、1番だよな。最初に耳に入ったから最初に載ってんだろ?」


大沢は自分のリストを見る。


鋭く草加部は言った。


「呪縛だよ。」これが草加部の分析だった。


「もう一つは、誤仕分けだ。」


「どういうことですか?」


大沢君は自分がこんな素晴らしいリストを作成し、0番と1番に重要なものまで載せたのにしらばっくれている。


「ご謙遜を。このリストはすげえよ。」

「えっ何?教えてくれませんか?」


「他のもは、これに乗っかってマウントを取ってるだけだよ。」

「大沢君、まだ自分の才能ある感性に気づいてないのか?」


大沢君は草加部の頭の回転についていけなかった。


「いいか、まずは呪縛だ。」


草加部は説明し始めた。

「この、そっちを手伝うならこっちもやれというのは、呪いの言葉だ。例えば、状況で必要になり、台車を空けるためにその荷物をパレットに逃がすことがあるだろう。そうすると、配達の準備をしているように見えるんだ。

あと日勤が発送の段取りで使わせてもらわなければならないホームがあるだろ。このホームを発送で使うから片付けなければならなくてやってるだけなのに、周りの配達ドライバーは、どうしてあそこばっかりとなってしまう。今までの構内作業員の歴代の先輩方も、この”からくり”に気づいていない。もちろんカイさんも。

この、”からくり”に気づかないで作業をしている時に、そっちをやるならこっちもやれと言われたらどうなる?

断れない。

今まで日常的にやってきたものを断れない。断りたいけど理由がない。

だから、この15文字の呪いの言葉をかけられると従わなければならないと錯覚してしまう。これは錯覚だ。契約書上では役割分担が明確になっている。これが、呪縛の正体だ。」


大沢は真剣に聞いている。


草加部は続ける。


「呪縛を解けばいい。」


「断る理由は?」大沢が聞く。


「今日の朝礼で所長が説明してくれたじゃないか。書面も行き渡る。グリミー2号の村上のせいで手伝ってもらえなくなったと周知したようなもんだ。時機に2号への風当たりは変わると思う。」


「呪縛を解くには、誰が掛けたか見つけてやっつけるとかですか?」

「いや、簡単だ。大沢君の得意分野だと思うよ。」

「ゴリラだ。」

「・・・・・ゴリラ?」

「なぜ、ゴリラと呟く?」

「・・・自分に言い聞かせて、そう思い込んで、気持ちが楽になるからですかね。」

「それが、答えだ。やっぱり天才だ。これを教えてくれたのは大沢君だよ。それで楽になったんだろ?」

「はあ・・・・?」

「そしたら、我々も楽になろうよ。そして呪いをかけた人にそのまま返す。」

「返す?」


「呪い返しだ。」


この呪縛が解ければ構内作業員は呪いから解放される。


その呪文は、

「どうして、こっちをやったら、そっちもやらくちゃ、ならないの?」


と質問で返す。

理路整然と説明しても理解できないグリミーには質問で返す。


「大沢君、これは今日中にグリミー以外の構内作業員全員に連絡する。すぐに実行だ。」


「分かりました。」


あとは、誤仕分けと、もしかするとこれもかな?

”その人によって違う。” の対策だ。


ーつづくー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る