第45話 こういう戦い方もある! 始まった
7月12日(火)19:37分
今日も蒸し蒸しする暑さだった。
所長の今村が草加部と大沢を呼んだ。
「草加部さん、大沢君、ちょっといいですか。」
「はい」と二人は所長の方へ行った。今村も歩いてきている。
荷降ろしのホームの前の通路付近、構内の真ん中より少し事務所よりのところ。
「すいません、作業中に。」
「いえ、お疲れ様です。」
「今日の朝礼で全員に話しましたよ。書面も渡しました。」
と、今村は朝礼で話した内容を説明した。
「新しい方が入ったんですか、よかったですね。」
「はい、当面は見習いという形ですけど、すぐに乗務許可の申請します。すぐに下りると思いますよ。」
「どこを担当するんですか。」
「前職で経験があるので客先が詳しいんですよ。だから、その日に足りないところをやってもらいながらとは考えてます。まだ分からない。」
「カケルさんは、これで取り消せないですね。」
「実は、昨日、カケルさんから改めて退職の意思を伝えられたんですよ。もう固まってたので諦めました。だから、シフトも考えなきゃいけません。」
「募集はかけるんですか?」
「さっそくかけましたけど、来てくれればいいんですが。」
「パレットの組み換えの件の反応はどうですか?」
「朝礼の後は、誰からも何もない。」
「日勤には説明してくれたのでしょうか?」
「10:30分頃の一段落付いたあたりで日勤を全員呼んで説明しましたから。大丈夫ですよ。」
「グリミーとカケルさんの反応はどうでしたか?」
「本当にやらなくていいんですか?という反応でした。カケルさんはそんなの徹底できっこないよという感じの表情と態度で、辞めるから関係ないという感じだと思います。カイさんは、やらなくていいとなってもやらされる羽目になるのを前提の感じで、半分笑ってました。さて、どうなるかという感じですね。」
「今までやっていたものをやらなくするわけですからね。戸惑いはありますよね。で、実際には、パレットの組み換えをやってたんですか?」
「率先してはやってない感じですけど、ドライバーが態度に出しながら、所長に言われたからってやらねえのかよ的に仕向けるような感じだから、やってるのを見て手伝っているという感じですね。」
「手が空いてる時に、やっている姿を見て手伝うのはいいですよね。ただ、グリミーとカケルさんが、配達ドライバー側に媚売って、真逆のことを言い出したり、やり出したりすると徹底が難しくなりますね。全員で貫かないと。」
「それができなかったから、こうなったのではありませんか?」
草加部は笑いながら「その通りです。」と認め、
「一筋縄ではいかないかもしれませんね。」と続けた。
グリミーとカケルは、八方美人と言えば分かりやすいだろうか。特にカケルはこの言葉通りで、配達ドライバーが喜びそうなことを言っては自分はやらない。グリミーも基本的にはそうだが、人を選ぶ。そして、気に入られたい人の前だけで、自分だけはやってますという感じでやり出す。朝礼で言ったことに対しての矛盾は気にしない。その時に自分が優越感を得られればそれでいい。他の作業員が嫌な思いをしても関係ないし、それを見て喜びを感じる。
”カイさんとは共有しよう。一方的になっても構わないからこちらの徹底ぶりを伝えよう。”
草加部は直感で、そう感じた。勘だ。
草加部は続けた。
「今後の方向性というか骨格については説明して頂けましたか。」
「はい、言っておきました。大丈夫かは不安になってきましたが説明しましたよ。」
「今村所長!」草加部は名前を呼んだ。
「はい?」
大沢君も草加部の方を見る。
「ここは、絶対にブレないで行きましょう。
自分の仕事は自分でやる。その上での助け合い。」
今村は、朝礼で説明した時は楽観していたが、草加部と話すうちに根深さを感じて心配になってしまっていた。
しかし、草加部のブレず行きましょうで、今まで以上の覚悟を決めた。
「そうですね。」
「はい、そう思います。」大沢も所長にならって答えた。
「私は貫きますからね。」と草加部は言った。
「そうじゃないと困ります。それじゃあ、今日はこれであがります。」
「はい、ありがとうございました。」と草加部はお礼を言って作業に戻った。
今村は、そのまま帰った。事務所のいらない電気は消えていた。
草加部は黙って作業を始めた。
”やはりカケルには消えてもらうしかないな。”
”情報収集と分析。”
ーつづくー
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