第44話 7月12日(火)の朝礼
そして、7月12日(火) 朝8:42分
夜間作業員は帰宅したのでいない。草加部は休みだった。出勤していたとしても朝礼には参加しない。
所長の今村が事務所から構内に出た。
大声で、「朝礼します。はい、集まって下さい。」と呼び掛けた。
いつも朝礼は、一段落する時間帯にしていた。
続々と配達ドライバーと構内作業員が集まってきた。ドライバーが20名、構内作業員が3名、事務所からは今村を入れて2名、合計25名。
事務所は電話の対応があるから全員とはいかない。
「揃いましたか~
改めまして、おはようございます。」
「おはようございます。」全員で挨拶した。
「まずは、来月の始めに健康診断があります。日程が分かりましたら連絡します。」
「次に、今日から入社しました綿貫康一さんです。配達ドライバーです。よろしくお願いします。じゃあ一言お願いします。」
「はい、おはようございます。綿貫です。前職でも配達をやっていましたが、気持ちを新たに頑張りたいと思いますので、よろしくお願いします。」
拍手が起き、「お願いします。」という声があがった。
特徴という特徴が見当たらない。髪は自然に流れていて、身長は175cmくらいはあるだろうか。中肉中背だった。
「次に、カケルさんが退職することになりました。20日までです。一言お願いします。」
このことを知らない人はいない。すでにカケルが皆に言い回っていた。理由は、親の介護、引きこもりの娘のために静かなところに引っ越す、奥さんの介護と皆に違うことを言うので、どれが本当?と噂になっていた。
今日はなんて言うのだろう。
河童頭のダンディなカケルは、その場で、少し緊張ぎみに挨拶を始めた。
「おはようございます。8年勤めてきましたが一身上の理由で退職することになりました。長い間、本当にありがとうございました。」
皆が各々に頭を下げた。
「次にですが、班長取りに来て下さい。」と草加部が作っていた書面を渡し始めた。
「あとで全員読んで下さい。休みの人にも読んでもらって下さい。」
「今まで、配達の段取りとして、パレットで来た荷物を指定されたパレットに組換えや種類毎に分けての組み換え作業を構内作業員にやらせることが日常になっていたようです。夜間に入ってきたら、夜間作業員がやっていたようです。が、荷物の状態を担当者が確認しないでやらせるのはおかしい。トラブルもあったようです。これからは自分でやって下さい。」
「・・・」という感じだった。
グリミー2号、1号、3号、5号は何を言われたのかが、すぐに分からなかった。
「急ぐ時にやってもらうのはダメなんですか?」
ドレッドヘアが緩い感じのグリミー5号の沢木が紳士風にもっともらしく正論ぽく質問した。
今村が答える。
「業務員に頼みたい時は私を通して下さい。各々、皆がやっといてと頼んだら作業員は大変なことになります。それと、頼まれていたものが出来ていなかったら、それこそ間に合わないなどの問題になる。自分で仕事の組み立てをして自分で管理して下さい。まぎれもなく配達ドライバーの仕事です。」
今村はグリミーこと東藤に振った。
”技ありだと思う。” カイさんは冷静に耳を傾けた。
グリミーが答える。
「キッ! え~、ん~、今、所長からお話しがありましたが、我々作業員は、頼まれたら、やっておかないと配達に影響が出てしまうから、人を取られてしまってもやらないといけなくなってしまうんです。ドライバーは自分だけがちょっと頼んだだけだと考えるかもしれませんが、これが複数人になると、もうテンヤワンヤで自分たちの業務が滞ります。実際は、頼んだだけと思われてるかもしれませんが、絶対的な命令になってるということを分かって下さい。」
3か月前、
グリミー2号こと村上が降りたばかりのパレットを見て暴力的に暴れた事件で、
「私は一人でやってたんですよ。二人だと三倍は違いますからね~。・・・・さあ、どうですかね~難しいですね~」
と、言っていたグリミーがこのように言った。
”そうなんだよ、グリミー。”
後から聞かされた草加部は、その通りなんだと思った。
言ってやりたかった。
今村は、「他にありますか」と、カイとカケルの顔を見た。
二人は首を振った。
今村は配達ドライバー全体を見回し、「質問等はありますか?」と聞いた。
誰も、何も言えなかった。
「はい、じゃあこれで朝礼を終わります。今日も一日よろしくお願いします。」
全員が礼をして、朝礼は終わった。
配達ドライバーは、書面を回し読みし始めた。
キィー、ウギィー、
夜勤なんて、じゃあ何やってんの?
キィー、ギー
カイさん、でもやってくれんでしょ?
コーコッコッコー、コーコッコッコーと、
グリミー3号こと能見は、疲れたアピールとジェスチャーをしながら、休憩室に行った。
今村所長は、今日から入社した綿貫を担当するホームに連れて行き、そこの班長と話していた。ドライバーは経験者だとしても必ず見習い期間を設けなければならない。
そして、今村は、カイに後から構内作業員に話したいことがあると言い残し、事務所へ入って行った。
グリミーは、今までの言動や行動との矛盾があることを朝礼で言ったが、自分では良いことを言ったぐらいの気になって、鼻高々とした感じで、喫煙所でタバコを吸っていた。
矛盾は気にしてない、自分が満足できればそれでいい。
そして、俺が改善したんだくらいに後々まで語る。知らない人が聞くとそれを信じてしまう。こうやって感化していき味方を作っていく。
終わりがない。
きりがない。
Grimm is endless(おぞましい出来事の終わりはない。)
だから、
Grimmyという渾名を付けた。
ーつづくー
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