第43話 公安との接触②
「怪しい者ではありません。」と、男は丁寧な感じで警察手帳を出した。
警察手帳と言って正しいか分からない。バッチホルダータイプの身分証明証だ。
「はい、なんでしょう?」
「そこの公園でお話しできませんか。」
「分かりました。」
2人は公園に入った。前の道路は5分に1台は車が通る。
住宅地の公園、薄暗いところで2人は立ったまま向き合う。
2:04分
草加部は懐中電灯を消した。そして男の方を見る。
男の方から切り出す。
「ウォーキングをお楽しみのところ大変申し訳ありませんでした。公安調査庁の佐藤と申します。」
「公安調査庁?」
“何? 公安ってあの公安?”
草加部は理解できない。
「はい、小説を投稿されてますよね。」
「小説ってほどのものじゃないですけど、素人なりに頑張っています。」
「ご謙遜を。実はその内容なんです。」
「内容?」
「今、日本では2024年問題が目前に迫っています。時間外労働の厳正化により、業界全体の深刻な人手不足が起こり、物流の危機に直面する。日本の人口減少、超高齢化、地方の過疎化も深刻な中、物流が滞れば国家の危機です。」
佐藤は続けた。
「その対策チームがあなたの小説を見つけましてね。グリミーです。決して楽ではないお仕事の運送業で、ハラスメントによりさらに環境が悪化し、人手不足に陥る。つまり、2024年4月から時間外労働の厳正化による人手不足がさらに加わるということです。」
さらに続けた。
「きつい仕事、ハラスメント、時間外労働の厳正化の三重の要因で物流が滞る。きつい仕事についての実務的なところは企業努力で頑張ってもらわなければなりません。時間外労働の厳正化についてはドライバーだけではなく全ての従業員に該当するものです。ドライバーに荷物を繋げる役割で間にいる構内作業員が人手不足により流れが滞るとドライバーの労働環境に直結します。」
さらに続けた。
「対策チームが目をつけたのはハラスメントによる離職者を減らせないか、なくせないか。さらには、ハラスメントをなくして職場環境の改善で運送業界がイメージアップして人手不足が解消できないだろうかということなんです。」
草加部は黙って聞いていた。
佐藤が結論を言う。
「これだけ詳細に書けるということは運送業に従事しているのではないだろうか?しかもこれだけの文章が書ける人だ。話しが聞けないだろうか。ということで私のところに調査の指示が来たというわけです。」
初めて草加部は口を開いた。
「話しですか?」
「現状のお話しを聞きたいと思っていたんですが、なかなか草加部さんと接触する機会がなかったもんですから、内定に入らせて頂いておりました。草加部さん苦労されてますね。それなりに把握して報告を挙げています。クワガタ作戦とかね。」
「えっ、そこまで?」
「一応、これが仕事ですから。」
「ほ~」
草加部は話しを聞いてることしかできなかった。
「草加部さん、今村所長を巻き込んで、夜間作業員の方々と改善を図ろうとしてますね。これを報告で挙げましたら、モデルケースとして、全国の運送会社に広められないか検討するそうです。」
話しが大きすぎて戸惑いながらも、
「いや、そんな
「草加部さん自身のやるべきことを、これまで通り進めて下さい。我々は応援してます。
対策チームの名前は、
「ニイレイニイヨン。」
「はい、漢数字の
「わっ分かりました。ありがとうございます。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。それでは私はこれで失礼します。」
と、佐藤は公園を出て、来た方向とは逆に歩いて行った。
草加部は懐中電灯を点け点滅モードに切り替え自宅に向かった。
トイレの灯りと街灯の灯りだけでの二人の話しは終わった。
草加部は汗だくだった。ウォーキングもあるが、誰も知らないと思っていたことを、さらっと言われると悪いことをしてなくても、なんというか、
“従ってしまう。”
“秘密を握られてしまった気分だ。”
まだ、頭の整理ができていない。歩きながら話しの内容が反復する。
“2024年問題”
“時間外の厳正化”
“人手不足”
“物流の危機”
“人口減少”
“超高齢化”
“労働力不足”
“地方の過疎化”
“国家の危機”
“グリミー”
“ハラスメント”
“三重の要因”
“働きかた改革は全ての従業員に該当”
“イメージアップ”
“人手不足解消”
“内定”
“クワガタ作戦”
“モデルケース”
“おいっ!東藤さんよ。
お前はこんなに大物か?”
“いやいや、グリミーは臭くて、ダサくて、カッコ悪くていいんだよ。”
“気にしなくていいかもな。政策は国に任せればいい。”
2:35分
ーつづくー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます