第47話 呪縛への対策
「大沢君、これは今日中にグリミー以外の構内作業員全員に連絡する。すぐに実行だ。」
「分かりました。」
あとは、誤仕分けと、もしかするとこれもかな?
”その人によって違う。” の対策だ。
草加部は大急ぎで、時間予約の設定でメールを打ち込む。
インパクトが強い文章にする。
ーーーーーー
呪術使いによる呪いの解き方
昨日、今村所長より朝礼でお話しがあったと思いますが、「本当にやらなくていいです。」ただ、今までやっていたことですから、突然やらないとなると、「やらないことへの抵抗感」が出てくると思います。
その正体は呪縛です。
台車を空ける時にパレットに逃がしたり、発送の準備でホームを片付けていると配達の準備をしていると勘違いされますが、これは紛れもなく構内作業員の契約書上の業務です。
その時に、配達ドライバーは呪文を唱えます。そっちをやるならこっちもやれ。今まで公平性という言葉の魔術にも蝕まれています。
呪い返しをしちゃいましょう。
その呪文は、
「どうして、こっちをやったら、そっちもやらなければ、ならないの?」
ポイントは質問で返すことです。
これで呪縛から解けます。
公平性については、今まで何年も、紛れもない配達ドライバーの仕事を押し付けといて、公平性という言葉の意味を履き違えています。惑わされないでください。
全ては、呪縛による錯覚です。
これで呪縛は解け幸せな毎日になります。
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これを、各出社時間の10分前に設定した。
カケルさん、カイさん、仁田さんへ送るように設定した。
今村所長に報告で送る。
大沢君には即送った。
大沢君は読んでいた。
草加部はタバコを吸いに喫煙所へ向かった。
タバコに、お気に入りの赤いライターで火をつける。
月がきれいに見える。もうすぐ梅雨は明けるだろう。公園では今日もバスケットを楽しんでいる若者たちがいた。ボールが弾む音と声の掛け合いが賑やかに響いていた。
ちなみに公園の電灯は消えていて月明りと街灯の明かりだけだった。
”あとは誤仕分けだな。これは構内作業員も悪いと思っている。だらしないのは事実だ。でも、全てを夜勤者に押し付けるのは違うと思うし、それを見て楽しんでいるグリミーやカケルもいる。カケルは故意に仕組んでいたこともある。
間違わないように気を付けて間違うのと、間違ってもいいんだと適当にやるのは違う。
前者と後者、大きな違いがある。
グリミー1号の嵯峨と2号の村上は、言い返せないであろう誤仕分けを盾にして一線を越えてくる。陰湿で狡猾だ。
さて、これをどう攻めるか?”
すぐに答えは見つからなかった。
”その人によって違う” はどうだろう。
”その人によって違うのを我々が合わせる必要があるのか?”
”サービス業じゃねえよ”
”いや待てよ。これって、もしかして。”
”20年前に流行った「普通って何?」と論法が一緒じゃないか?”
”どういう時に使う?”
”両方とも、相手に何も言えないようにする時の口封じ的なものだ。”
”困らせたい時に使う。”
20年前に草加部は普通って何?と言い寄ってきた若者に対して、
「おめえは普通の意味も知らねえのか?分からない時は辞書で調べろ。何で威張って聞いてんだよ!」と、一喝したことがある。文句あるか!教えて欲しけりゃ態度弁えろ。
その人によって違う。
そもそも、構内作業員の作業内容を担当者単位に合わせるのは不可能だ。
いや、そもそも、その人によって違う思考が分かるわけがない。
その日の荷物の量や入ってくるものは毎日違う。曜日単位で似ているが全く同じことはない。担当者だって、出社して自分のホームに行って見て初めて分かる。これから来るトラックもある。それらも見ないと一日の流れは決められない。しかも、その仕事の組立ては担当者によって違う。
判断するのは担当者であって構内作業員じゃない。
もしかして、これで行けんじゃないか?
その人によって違うものを我々が分かるわけありません。
で、いいんじゃないの?
だから、パレットの置き方にもケチ付けるけど、そもそも満足させるようになんてできないんだよ。わざと、切りがないもので攻撃して、嫌がらせをループ化しているだけなんだ。
誤仕分けも似たようなもんだろう。狡猾だ。
そもそも、その人によって違うんですという言葉を用いる場面ではないところで使われてるように感じる。
日本語の使い方を間違えてるんじゃないか?
この言葉を使う場面は、例え話をすると、朝日と夕日だったら、どっちが好きと聞かれて、朝日と答えたら、聞いた方がそれを否定して夕日の方がいいよと言ってきた時に、その人によって違うんですという風に使われる言葉なんじゃないの。
自分の思い通りにしたい時に、相手を黙らせる時に使う言葉じゃないよ。
ちょっとくどかったかもしれないが、まだ解明できていない時には明快に言えないものだと思う。
「よしっ、その人によって違うものを俺が分かるわけねえだろ!」
草加部はつい、独り言を言ってしまった。
もう一本吸ってから戻ろう。
ーつづくー
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