第33話 貫く。

そして翌日、7月7日(木)19:43分

今日は大沢君は休みだった。仁多さんは21:00からなので、いつも二人でやっていた作業を一人でこなしていた。草加部は、今度の(日)(月)が休みだ。


雨は降っていないが湿気がすごい。今日は、妖怪湿気は出るのだろうか。


所長の今村が歩いてきた、もう帰る時間なのだろう。

夜勤者と引き継いで帰るルーティンになっていた。


「お疲れ様です。」草加部から声をかけた。

「お疲れ様です。今日の発送は、北日本のドライバーが福島に行く際に立ち寄るそうで時間は、北上にも寄るから早くはないということでした。」

「はい、分かりました。」

「契約書を調べてみましたよ。」

「ありがとうございます。さっそくすいませんでした。お忙しいのに。」

「で、大まかに言うと、

大型ドライバーは、運搬業務と関連する作業等となっている。

配達ドライバーは、配達業務と関連する作業等、

構内作業員は、荷物の仕分け、構内の整理整頓清掃等となっていました。」


草加部は頭の中を回転させる。


”等は予防的に入っている文言だよな。関連する作業は、それに関連する作業ってことだよな。しかも付随する業務ではなく、関連する業務となっている。”


草加部が口を開いた。

「運搬業務と配達業務というのは、当たり前の役割分担ということですね。その後の関連する作業とは、積み込みの段取り、積み込み、荷降ろしということですよね。ということは、やはり、”線引き” ”役割分担” は、明確になっていますよね。最後の”等”は、大概のものには予防的に付いている文言ですが、これは解釈の仕方ですが助け合うように付けた文言ではありませんか。」


「そうだと思います。契約上は明確に役割分担が出来ている。」


「例えば、最後に”等”が付いてるからって。荷降ろし、パレットの組み換えは構内作業員の仕事だというのは無理がありすぎますよね。自分の業務内容には関連作業とあるのに、それを棚に上げて押し付けるのは、やっぱりおかしいと主張できますよね。」


「無理があると思うし、おかしいし、言える。」

「都合のいい解釈ではありませんよね。」

「解釈と言われると、等と書いてるから分からないけど、世間一般的には無理があるでしょう。」


草加部が考え込む。そして口を開く。

「ということは、3か月前に私が言ったこと覚えていらっしゃいますか?」

「どれのこと?」

「お互いに自分の仕事は自分でやる。その上での助け合い。」


草加部は続けた。

「これで、行けませんか?」

「行けると思います。」

「これからの改革の大まかな骨格というか大筋の方向性は、これにしましょう。」

「いいと思います。そうしましょう。」

「では、来週の火曜日にパレットの件を話して頂くのですが、その後に日勤の構内作業員にも説明して頂けますか。」

「分かりました。それは言っておきます。」

「これで、とりあえず、OKですね。ありがとうございます。よろしくお願いします。」

「そうですね。じゃあ、今日はこれであがります。」

「分かりました。お疲れ様です。」


今村は、事務所に戻り、いらない電気を消して帰った。


草加部は、自分の業務に戻り、カロリーの消費を意識して、いつもよりオーバーアクションで作業を始めた。ダイエットは、とにかく継続させないと意味がない。


草加部は、”貫く”と心に誓う。


20:45分

仁多さんが来たようだ。営業所に入ってくる軽自動車が見えた。

さすがにドリフトはしていない。仁多さんが言うには、ドリフトはFR車の方がやりやすく、FF車はやりづらいらしい。でもできないわけではないらしい。タイヤは減るし、今は頑張ってダブルワークで家族を養うと言っていた。


”頑張ってお父さん。”


仁多は、喫煙所の方から階段を昇り、休憩室側の入り口から入って行った。

荷物を置き、タイムカードを通し構内に出てきた。


本当に優しそうな感じで、髪は長くもなく短くもなく耳が出ているくらい、少し天然パーマ気味だがさほど気にならない。顔の輪郭は逆三角形だ。工場畑出身だからか意識してビシッという感じは微塵もないがいつも小ざっぱりと清潔感がある。仕事は性格なのか職業柄なのか分からないが、仕分けのチェックが厳しいし正確だ。


「おはようございます。」仁多さんが、挨拶しながら歩いてきた。

「おはようございます。」

「あの、今日の朝、大沢君から連絡来たんですけど・・・」

「あっ来た? そういうことですから秘密裏に情報収集をお願いします。」

「はい、それはいいんですけど・・・」

「なに?」

「このメールは自動で消滅するって書いてんですけど消滅しないんです。」

「えっ」


草加部は大笑いした。

大沢君の遊び心なのだろう。”情報、連絡事項が共有できればそれでいい。”

仁多は草加部を見てやられたと思ったか分からないが、全てを理解したようだった。


「消滅するわけがない。」


ーつづくー

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