第32話 改革 第一弾の段取り
24:32分
北日本便の対応が終わった。
雨はまだ降り続いている。ザーという雨が屋根のトタンに当たる音で周りに音がかき消される。湿度も高い。
「OKだね。」と、いつも通りに大沢君に声をかける。
「そうですね。」
二人は休憩室に入った。
カラッとしている。エアコンが効いていて涼しい。草加部は、ふとタバコが吸いたくなり休憩室を出た。
2:15分までは休める。
雨が強く、屋根がかかっている所でしかタバコを吸えなかった。
雨が線になって降っているのを見ながら深くまで吸い吐く。
公園は喫煙所に置いてある自販機とその裏にある電気関係のちっちゃな倉庫のようなものがあり邪魔で見えない。
”まずはパレットの組み換えはしない書面”
”下書きをしちゃおう。”
タバコを消して休憩室に向かった。蜘蛛の巣がすぐに作られる。まとわりつく。不快だ。
草加部は休憩室に入った。
大沢君はいつも通りあっちを向いて座っている。
草加部はそのまま壁一枚で仕切られた事務所側に行き、片面が印刷されいて用済みのものが何百枚と重なって置いてあるところまで行き、5枚くらい手に取り、いつもの席に戻った。
下書きを始める。
パレット物の組み換え作業についての構内作業員からのお願いということでいいだろう。
これまで、構内作業員が皆様の”お手伝い”と考え、
そのまま積み込み、そのまま配達して、そのまま置けば済むようにという皆様のイメージに応えようと努めてまいりましたが、実際には、その日の配達する担当者によって組換え方が違うなどの迷惑をかけていて、苛立ちながら配達しているように見受けられます。
我々構内作業員一人ひとりが、皆様一人ひとりの思考に合わせた作業をすることは、とても困難なことで、それでも、やってきましたが、3か月前の4月5日の早朝に、到着したばかりで、今降ろされたホヤホヤの
パレット物を見て、仕事をしていないと大騒ぎし、暴力的に空の台車どいしを何度も叩きつけられ、荷物を投げつけ、その後も周りの人に触れ回られたという
ことが起きました。
これは、配達担当者が構内作業員を当てにしている、頼りにしているということでもあるのでしょうが、”お手伝い”としてやっている側としては一線を越えられていると考えます。
我々がする”お手伝い”によって、トラブルの原因になりますし、所長に確認をしましたら、組み換え作業は配達の段取りだから間違いなく配達ドライバーの仕事ということです。ましてや、夜中に入った荷物を担当者が状態を確認しないで、構内作業員が勝手に崩し、組み換えるなんてもっての外と指摘を受けました。
以上のことから、組み換え作業は担当者自身が状態を確認した上でご自分で、作業をしていただくことがトラブルにならずにすむ解決策だと結論付けました。
今後は構内作業員による組み換え作業は遠慮させて頂きますのでご理解を賜りますようお願い申し上げます。
構内作業員
こんな感じでどうだろう。いいだろう。
「大沢君、これどうかな。さっき話したやつの下書き。」
「さっき言ったやつ?もう? はい。」と、言うか、どれのこと?
大沢君が手を伸ばし、草加部は半分立った感じで手を伸ばして渡した。
草加部は大沢君が読んでるうちにタバコを吸いに行った。
草加部が休憩室に戻った。
読み終わったようだ。
「どう?」
「はい、伝わると思います。我々の仕事であるかのように仕向けられて押し付けられてましたが、”お手伝い”と言うことでひっくり返した感がありますね。」
「うん。あいつらはもっともらしい屁理屈並べて言葉遊びしているようなもんだからさ。」
「いいと思います。」
そのあと、大沢君に、誤字脱字の指摘と ”に”、”の”、”は”、”を”、”が”
の使い方がおかしいところをダメ出しされ直した。
草加部はさらにカイさんに連絡と思い、時間指定でショートメールが送れる設定で打ち込み始めた。
”あまり早く送りすぎるのも、漏れる可能性もある”
”今回は7月11日(月)の夕方にするか、事前には連絡しないとな。”
メールの内容は、
”改革を進めるように正式な連絡がありました。
第一弾としてパレットの組み換え作業を撤廃します。
明日の朝礼で所長から説明がありますのでよろしくお願いします。”
「大沢君、カイさんには月曜の夕方に連絡するから。」
「はい、わかりました。」
まだ、グリミー大森が来るまでは時間がある。
さっそくウォーキングでもするかと思い立ち、構内をひたすらぐるぐると歩き回った。
雨はやんでいた。
草加部の視界に人影が入った。
”んっ?人?”
営業所の入り口の門の壁に隠れるのが見えた。この付近はコンビニのデザート工場や食料品の流通センターなどがあり、夜中でも人が歩いていることは珍しいことではない。外国人も歩いている。でも、人通りが多いというわけでもない。
”気のせいか。”
とウォーキングを続けることにした。
その時、ガサッガタンと音がした。草加部の体が一瞬硬直する。”何?”
音がした方へ歩いて行った。荷物が転がっている。
積まれた段ボールが湿気を吸って柔らかくなり潰れてしまい、上にあった荷物が崩れ落ちたのだ。
”妖怪 湿気”だ。草加部はそう呼んでいる。ここに棲む魔物だ。
凄い時なんか段ボール箱がまん丸くなって落ちてくる。それを何回戻しても落ちてくる。
昔の人は、これを祟りとか、呪いとか、何かいるんだよとかと言っていたに違いない。
この正体はそうじゃない。
”妖怪 湿気だ。” その正体は決して目には見えない。
ーつづくー
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