第25話 グリミー出社。
2022年4月5日(火)朝5:50分
グリミーこと東藤は、タバコの吸殻を喫煙所の灰皿に入れ休憩室に向かった。
いつも、何かを言いたそうな顔をしている。
「おはよ~ございます。」
社交辞令的に、休憩室にいた人に挨拶をする。
長テーブルの上に荷物を置き、集中力を高めるかのようにエプロンを着けた。
「おはよう。」
カケルも荷物を置き、壁一枚で仕切られた事務所に入り、タイムカードを通して構内へ出た。
続いてグリミーもタイムカードを通して構内へ出た。
最近、二人は険悪だった。
カケルの奥さんが市立病院では手に負えず、紹介状を書いてもらい、仙台市内の有名な専門医がいるところに入院して、そこでも手に負えないから、今度は大学病院に入院したみたいな話しを繰り返して、早退や欠勤が続いているらしい。でも、奥さんはバリバリ働いていてお金はあるらしい。
それでグリミーが、「あいつは嘘つきだ。」「俺に負担がかかっている。」と、周りに触れ回り激怒しているとのことだ。カケルのせいで俺が大変な思いをしているアピールだ。その他にも、高校生の娘が引きこもりになって、頻繁にLINEが来るらしい。忙しい時もお構い無しで返信しているから怒っている。
これが本当なら怒るのも分からなくはないが、こないだ、LINEをしているカケルにグリミーが文句を言った時、「死ね!」「殺す!」と怒鳴りちらしたとのことだ。さすがにグリミー3号こと能見が止めに入ったらしい。
カケルもカケルだが、グリミーとはこういう男だ。
5:58分
大沢君は、パレット物の片付けを無事に終わらせ、寄せていた空の台車を全て荷降ろし用として補充し、草加部と仕分けをしていた。
カケルさんが歩いてくるのが分かった。
カケルは河童のような顔で頭のつむじの辺りが薄くておでこが広い。河童がポケットに手を入れて歩いているように見える。歩き方はわりとカッコよくダンディだ。
その後からグリミーが歩いてくる。
気難しそうなムッとした顔で何かを言いたそうに見える。髪は薄くオールバック。やせ形で身長は173cm。真っ赤な作業用の手袋をしていて、「これは高いやつだ。」と自慢気に話していたことがある。
“コの字”に来た。
草加部と大沢は、手を止めずに挨拶する。
「おはようございます。」
河童顔のカケルは、
「おはよう。」と少し気取った風に右手をあげて返した。
グリミーは、挨拶したとたんに顔の向きを変えた。
グリミー2号こと村上のホームを見たのだ。
というよりは、グリミーがこんなチャンスを見逃すはずがない。鼻が利く。
グリミー村上は、朝イチに配達する荷物を怒りを顕あらわにして、わざと大きな音を出しながら組み換えをしている。フォークリフトも置かれたまま。
グリミーは歩いて行く。
村上はそれに気付き、
「何回言ってもダメなんだウギー、仕事しねえんだ。ギー」
「事務所の前に置いたままにしてやーギー!暇なくせに!」
グリミー村上は怒っている。
グリミーはニヤリとしたが真顔に戻り、キーと聞こえたかと思ったら、「すいませんねー」と草加部と大沢が悪いことをしたかのように対応している。
“えっ、組み換えはドライバーの仕事だと豪語していたのはお前だろ?”
村上の作業は終わりかけていたが、グリミーはそれを手伝うかのように一個載せ替えて、手伝ったかのように振る舞いドヤ顔をしている。
グリミーが、フォークを片付けようとして乗り込もうとした素振りを見せた途端に村上が吠えた!
「まだ使うんだよ!」
グリミーは慌てた顔で、「そうですか。」と、敬礼のように右手を上げ、小刻みに何度か前後させながら仕分け作業に来た。
グリミーはこういうところがある。カッコ悪い。
村上もこういうやつだ、本当は使わないのに、こういったやり方で八つ当たりをする。
“八つ当たり? いや、お門違いだ!”
グリミーは、ばつが悪そうな顔でこっちに向かっている。
”気にしていられない。早く仕分けを終わらせたい。”
カケルは方面別の台車に荷物を投げるように置き、その荷物を足で奥に押していた。
“いつものことだ。言っても分かってもらえない。ひどい時は本当に蹴っている。”
早く仕分けを終わらせたい。
グリミーが仕分けに入った。
ーつづくー
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