第26話 草加部に異変。

 ”俺は仕分けを早く終わらせたい。”


 グリミーが、ばつ悪そうな感じで仕分けに入り4人で仕分け作業をしている。残り三台だ。


 まあ、問題なく終わる。

 途中で中断することがあったり、パレット物の片付けにも邪魔が入った。何か悪いことをしたかのようにもなっている。スムーズにいかなかったことでのストレスを感じていた。


 大沢は、仕分けをしながら草加部に近づいた時に「ゴリラ」と言った。


 ”そう考えないと無理なんだよな。”


 カケルは、荷物を乱暴に投げるように置き足も使っていたが、グリミーが”コの字”に来た時から足を使っていない。マズイことだというのは分かっているのだ。


 グリミーは、重たい荷物を両手で抱えるように持って目的の方面別の台車に向かっていた。大沢がもっと載せられるように方面別の台車の荷物を寄せたり重ねたりしていた。


 カケルがゴタゴタと台車に載せるだけだから、すぐに置けなくなってしまうのだ。グリミーは、その大沢のいる方面別の台車の前で2秒くらい待っただろうか。


「早くー早くー」

 と構内全体に聞こえるように、俺だけが大変なんだと見せるために嫌みったらしく言った。


 大沢は、「すいません。」と、どける。


 グリミーは、大変だったと見せるために、顔をしかめながら方面別台車に置き、左肩を回しながらイーと言った。

「とろとろやらないでくんねえかな。人が重たいのを持ってる時に。」

 そして、アピールにしか見えないパフォーマンスで、しかめっ面で左肩を回していた。


 ”すごく嫌だ。こういうの。グリミーのバーカ!”


 草加部は仕分けを続けながら、本当にそんなに重いのかを、バレないように少し並べ直す感じで引き摺ってみた。


 ”これが重い?”


 ”おいっ、俺は早く仕分けを終わらせたいんだ!”


 カケルがグリミーに声をかけた。

「大丈夫ですか?これ重たいんだ。こないだ同じ荷物が来てさ大変だったんだ。」と、グリミー3号の座に未練があるのか、取り入るように言う。


 草加部の右目の上あたり、まぶたの辺りが一瞬引き攣る。ピクッと。


 グリミーは、

「まったくよ、今来たばかりで体が動かない時に、ホンっとにきついんだ。普通、重たいものを持ってるのに気づいたら譲らねえすか?」


 カケルは、「ひでえな」と言いながら大沢をバカにしたように、悦に入ったかのように見る。


 グリミーは険悪な相手でもこういう時は利用する。カケルは、こういう世渡り的なもので生き延びてきた輩だ。


 大沢君は表情を強張らせながら一点を見つめるように仕分けをしている。


 グリミー村上は、ギーウギャーと周りに言いながら配達に出発した。


 草加部の中で異変が起きた。

 今まで張りつめていたもの、自分の感情を抑え込んできた毎日、今までは理性を失わないように何とか自分を繋いでいた。繋ぎ留めていた。抑え込んでいた。が、繋がれていたものが、抑え込んでいたものが、少しづつ切れ始めて行った。


 残り1本。糸のように細くなった理性を失わせないように繋がれている何か。


 カケルは続けた。

「東藤さん。村上さんのもさ~、困ったもんだ。」と言った。


 草加部が遮ぎった。

「あれは、北日本便の時間帯に来て、最後に降ろされたもんですよ。」


 カケルは、「分からねえと思って。」と、相手にしていないかのように言い、グリミーと顔を合わせ、二人でバカにしてる感じに目で会話をした。


 グリミーが草加部に言った。

「草加部さんね、俺は夜勤を一人でやってたんですよ。一人と二人は2倍じゃばく3倍違いますからね~」


 ”だから、あんたがドライバーの仕事だと俺に教えたんだろ!”


「これは、配達ドライバーの仕事ではないのですか?」

「ん~難しいですね~」


 グリミーはこういう話し方をする。明言せず、どういう風にでも受け止められるように、でも自分だけはやっているアピールは忘れない。


 仕分けが終わった。


 河童顔のカケルは、ズボンのポケットに左手を入れてダンディに歩きながら、右手で草加部を指しながら、俺は配達ドライバーの見方だと言わんばかりに、


「パレットの組み換えはドライバーの仕事なんだどや、夜勤やるなんて10年早いんだ」と周りに言って回った。


 草加部の右のまぶたが引き攣る。

 ”おいっ河童!おめえが一番やってねえだろうが、口八丁くちはっちょう野郎が!”


 河童顔のカケルの声が構内の端のホームから聞こえた。


「分からねえと思ってや」のこの一言。


 草加部の中の何かが切れた。

 糸が両端から引っ張られプツンと弾けて切れるように。

 プツン


 大沢は急いで2班の荷物を降ろしに行く。草加部もそれに続く。


 グリミーは左肩を回しながら、この時間にいる配達ドライバーに自分はやっているアピールをしながら、夜間作業員のパレットの置き方や荷物の重ね方などを批評していた。


 河童野郎はダンディに決めながら同じように批評をしていた。


 大沢と草加部は二班の荷物を大急ぎで降ろしている。

 草加部の中では、怒りを通り越し、憎しみ、恨みが渦巻いていた。


 ホラを周りに吹き込み、周りがそれに気づいていないと本気で思っている浅はかな河童野郎。ズル休みを重ね有休は残っていないわ、早退、遅刻は重ねるわ。それを口八丁のホラで誤魔化す。今度は口八丁で仕事をしていない自分を隠す。夜勤を悪者にすることで、そこに隠れる。でもそれは周りは気づいている。これに気づかないで繰り返している低レベルの人間に侮辱された。侮辱され続けた来た。そこがかんに障る。夜勤が誤仕分けしたようにするために違う荷物を混ぜられたこともある。


 ”人にはやっていいことと悪いことがあんだよ”

 ”河童野郎だけは許さねえ!絶対に許さねえ!お前なんかよりやってるよ!”


 ダンディーな河童頭のカケルこと佐々翔琉ささかける

 お前は、”一線を越えた。”


 大沢君が、草加部の雰囲気を察したのか周りに聞こえないように、

「ゴリラですよ。」と言った。




 草加部は、漠然とした全てのことを含め決断したかのように、「うん」と頷き、「ゴリラじゃなく河童だ。今のうちに一服しようか。関東便はすぐ来るぞ。」




 二人は仕分けを終わらせ、草加部は喫煙所へ、大沢は休憩室に向かった。

 草加部は歩きながら確認し、


「よし、荷降ろし用の台車は間に合うな。」


 ーつづくー

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