第22話 圧倒。
草加部は身構えた。
この量を、二人で荷降ろしされるということは仕分けのスピードが追い付かないから溜まる一方。
容赦ない。しかし、これは通常業務だ。
鎌田は、ガサツというか、何も気にしないで降ろすタイプだ。グリミー大森の”几帳面”さは微塵もない。だけどめんどくさくない人で草加部にとっては楽な人だった。 中沢さんは、最低限の気遣いがある荷降ろしをしてくれる人だ。
この二人の荷降ろしが始まった。容赦ない。
大型ドライバーは荷降ろしさえすればそれで終わり。帰れるのだ。その後のことは関係ない。
大沢君が事務所を出て走っている。オレンジ色のユニフォームがズボンから出ている。気にしていない。
高津は全国展開の最大手スーパーの流通センターに配達に出発した。
二人で仕分けを始めた。外は少し明るくなってきている。
方面別の台車に載せていく。
空いた台車を戻す。
いっぱいになった方面別の台車を出し空の台車と入れ替える。
朝いちに配達するところの荷物を別にする。
「5個口来てるぞ。あと3個な。」
と草加部は大沢に伝える。
朝いちに配達する荷物の状況の共有だ。
この声の掛け合いが大切なのだ。
複数人で共通の目的の仕事をする時に、個々に黙々と自分はちゃんとやっていますではまとまらない。グリミー聞いてるか?
「はい、分かりました。」大沢は言う。
「あ~出てきました。あと2個です。」
共有は大切だ。これらの作業の流れを二人は疲れていても、地味に確実にこなしていった。
構内作業員の仕分け作業は、この繰り返し。愚直にこれを繰り返す。
容赦なく荷降ろしされた台車は溜まっていった。通路には置ききれなくなり、空台車を置いていたスペースにも広がっている。荷降ろしするスペースも少なくなる。
「大沢君、台車を逃がしてくる。」と言い、荷降ろしスペースの反対側のホームを荷降ろし台車を置くスペースにするべく、草加部は黙々と運んだ。
それに気づいてくれた中沢さんは、次の台車から反対側のホームに運んでくれた。
”コの字”の前の通路にも荷降ろしされた台車は2列になっていた。
山盛りの台車がこれだけあると、威圧感にも感じる圧迫感があり”圧倒”されてくる。
草加部が入社したばかりで慣れていない時は、この”圧倒”に気持ちが負けそうになる時もあった。仕分けを急ごうとしても気ばかりが焦ってくる。急いでも焼き石に水で、荷物が載せられた台車が次から次に出てくる方が早いのだ。
”夜間は暇だ? 誰だこんなことを言い始めたのは。嘘つきーーーー!”
大沢君も同じ気持ちだったろう。
この時間帯になると別な緊張があるように草加部には見えていた。
草加部が約3年間で悟ったことは、
”こういう時は流れに逆らわない。まずは荷降ろしをさせることを優先させる。そのためにスペースに気を遣う。あとは時間の考え方で6時20分までに終わればいい。早く終わらせようと考えたら気持ちが負ける。”
大沢君が入社して約1年。
グリミーからのハラスメントが酷く、今時っていうか何て言うかみたいな風評が流され、周りは感化され、草加部の耳にも悪い話ばかりが入って来た時期があった。可哀そうだった。草加部もグリミーからの異常で一線を越えた、キチガイじゃないかと感じるほどのハラスメントを受け、その時のグリミーが悦に入ったかのような自然な笑みが忘れらない。
大沢は、グリミーに潰されるところだった。
そして、夜間に誘った。
草加部は大沢が夜勤を始めたばかりの頃、この時間帯の考え方や気持ちが負けてしまう対処法を一生懸命に伝授していた。
いわゆる”攻略法”だ。
そのかいあってか、だいぶ慣れてきていると思う。
が、人間だ。疲れることも計算に入れるべきだ。
草加部は大沢君の姿を見て呼んだ。
「大沢君。」
「はい?」
「頑張って!こういう時は楽しまなきゃダメなんだよ。」
大沢君の疲れている表情が少し明るくなった。
草加部は続ける。
「嘘でもいいから笑顔で爽やかに。」
大沢は笑いながら言った。
「でも疲れましたね。草加部さんは元気ですね~タフというか。」
「考え方だって言ったろう。本当に情けねえ。てやんでい。」
大沢は、草加部に伝授された攻略法を思い出したのか、少しだけ軽く仕事が出来ているように見える。
容赦なく荷降ろしされた台車が溜まっていく中、草加部と大沢は愚直に仕分け作業を続けた。空いた台車を戻し、荷降ろしされた台車を”コの字”の中に入れる。そして仕分けをする。
大沢が言った。
「草加部さん、こっち側半分は3班の荷物です。」
「そうか、んっ! こっちもだ。このまま持って行こう。」
「なっ!笑顔で仕事をするとこういういいことがあるんだよ!」
こういう時もあった。
中沢さんが気を使ってくれてまとまってるものはこういう風に降ろしてくれる。でも、これって積み込む時から考えてないとできないんじゃないのと思う時がある。
そして、次の台車を”コの字”に入れる。
今度は草加部が、
「こっち側は3班だ。」
「こっちはバラバラです。」
「じゃあ、こっち側半分はそのまま降ろさないで残そう。」
とバラバラの方を二人で仕分けして、3班の荷物が残された台車を草加部が3班に運んだ。
こういうこともある。
”コの字”の3班の方面の台車がいっぱいになった時は、このタイミングで、空の台車との入れ替えではなく、この台車と入れ替えて空いてる半分のスペースを使うこともある。
とにかく臨機応変に、その日その日、その場その場での状況で二人は仕分けをしていった。
現在5:08分。
荷降ろしが始まって40分くらい経っただろうか。
「バラ終わりな~」
中沢さんが声を掛けてくれた。そして、鎌田がフォークに乗った。
残った空の台車は7~8台だった。降ろされた荷物が載った台車で、荷降ろしのスペース、通路、反対側のホームがいっぱいだった。
そんな足の踏み場もないような構内を、鎌田は器用にフォークでパレット物を降ろし始めた。草加部は、遠目で箱型の荷台を見る。中沢さんのトラックはオートフロアタイプなので荷台の床が動く。”コの字”からでも見えるのだ。
”予想通り、けっこう積んでるな。”
鎌田は、順番にパレット物を降ろしていく。
中沢はオートフロアをボタンで操作していた。
せまい構内でフォークを器用に操作してパレット物の荷降ろしが終わった。
「終わりー」と中沢さんが手をあげた。
「はーい。お疲れ様です。」と二人は返した。
「おはよー」と中沢さんが言った。
「おはようございます。」と低音の聞き覚えがある声。
グリミー2号こと村上だった。事務所から出てきたところだった。
集中していて気付かなかったが、早朝に配達に行く当番だったのか出社してきたのだ。
ーつづくー
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