第21話 通常業務。

「配達先ってそこの交差点の角のとこだよな。こんなに早く出るなんて不思議だよな~」


白髪頭でリーゼントの中沢は、そう言って事務所に向かって歩いて行った。


草加部は、荷物を降ろすために、1m×1.5mの台車を箱型の荷台の前に移動させた。


このスペースに台車を25台置いている。

大型トラックの方を見て左側には、4列に5台ずつで20台置いている。

大きさが1m×1.5mだから、4列だと4m、5台だと7.5mだ。この部分に20台収めている。

右側には、2.5mくらいの通路を開けて1列に5台の台車を置いている。


草加部が荷降ろしを始めた。

大沢も、事務所から戻り荷降ろしを始めた。


この時間になると二人とも疲れが出始めている。無理もない。グリミー大森の横持ち便から、ほぼ連続になっている。しかも、この量を次の関東便が戻ってくるまでには終わらせなければいけない。関東便に重なるか重ならないくらいに上越便も荷物を積んで戻ってくる。


片付けておかないと荷降ろしができない。


関東便が来るのは、交通事情もあるが6:20分頃がいつもの流れだ。今から1時間50分はある。余裕ではないが何とかなっているのが実情だ。


一台目の荷降ろしが終わり、大沢が”コの字”に運ぶ。


草加部は、後々、ここに台車があると邪魔になるというところから台車を持ってきた。通路と通路が交差するところの角。ない方がいい。優先してそこから持ってきて使った。


中沢が事務所から戻り、荷台の前で手袋を着け始めた。手の平には滑り止めの緑色のゴムのグリップが一面に着いているタイプのものだ。ベテランほどシンプルで機能的なものを使う。というかデザインとかじゃない。


「ど~れ、やるか。」


と、疲れている自分にスイッチオンと言いながら、白髪のリーゼントの先端を、上目でチラ見してから荷降ろしを始めた。


草加部と中沢で2台目の台車をいっぱいにすると、草加部はコの字付近の通路に横付けした。次の台車が並べやすいように基準の役目になる。中沢は荷降ろしした台車をそれなりに並べてくれる。


大型トラックが営業所に入ってくる音が聞こえた。そのまま指定の駐車スペースに向かって行き、そこに駐車した。


鎌田さんだ。大型トラックの中距離ドライバー。その日の運行指示をこなして帰って来たのだ。全くグリミー化していない。どちらかというと虐められる側。


疲れている中沢の喜んでいる声が聞こえた。

「鎌ちゃんだ~」


草加部は台車を横付けして”コの字”で仕分けを始めた。大沢は疲れて動きが悪くなりながらもキビキビしている。


鎌田が書類を持って事務所に入って行くのが見えた。


その時、チンピラの残党の高津がこっちに歩いてきた。高津は我々には友好的だった。”高津基準”を満たしているからなのかは分からないが、若い大沢君を可愛がってくれていた。


「点呼、いいすか?」


「はい。」と大沢君が返事をして点呼をしてくれた。


”疲れてるのにありがとう。”


鎌田が事務所から出てきて、中沢さんの荷降ろしの手伝いに入った。

中沢と鎌田は、いつものように、その日の出来事や噂話をお互いに話して、作業に入った。


草加部は身構えた。

この量を、二人で荷降ろしされるということは仕分けのスピードが追い付かないから溜まる一方。


容赦ない。しかし、これは通常業務だ。


ーつづくー

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