第20話 不思議な二人。

 大沢君がデータ検索している間も、グリミー大森とグリミー能見の嫌味は続いていた。


「キーキーウキーウッキキー、キー」

「キーウキッ、ウキイ、キキー、コッコッコッコ」

こんな楽な仕事してればいいんだから羨ましいよなー、俺も夜間作業員やるかなーと言っていた。


 グリミー沢木は作業が終わったのかいなかった。

 いつものようにハンドルに足を上げてスマホをいじってるのだろう。


 草加部と大沢は、”コの字”から2班の台車を運んで作業を始めた。

 台車に載せたままにしておくのと、床に置くのとでは配達ドライバーの作業効率が変わる。床に無造作に荷物を置くと可哀そうなぐらい大変になる。配達ドライバーは、この荷物を見て、回る順番、積み込む順番を組み立てて段取りをするのだ。


 2人は、で方面別に分けた荷物を、大まかではあるが、主だった住所毎に置いていった。


 作業が終わり、空になった台車を”コの字”に戻す。終了。


 4:22分

 グリミー沢木の独り言が聞こえる。

「ウキィ暇なくせに、やってくれればいいのに」と紳士風の話し方をする。


 ”だから、できねえんだよ。どう言ったら理解できる?マルチ商法野郎。”


 北日本便が来た。


 と、同時に事務所にいたグリミー大森、能見に動きがあった。


 大森は、事務所のお客様用出入口から出て行った。

 能見は、喫煙所の方へ出て行った。


 ”いつものことだ。”


 北日本便がホームに接車しようとバックしてくるのと同時に、


 大森の車は営業所から出て行った。

 能見は自家用車で寝る。今日は何もないのだから。


 ”おい、能見、お前は何しに来た?”と思うが、こういうシフトなのだろう。

 後から聞いた話だが、ちょくちょくトサカ頭のグリミー能見は、こういう感じにシフトを変更するらしい。


 ドレッドヘアぎみのかなり緩めの髪型で丸い顔のグリミー沢木は出発するのか、

「点呼お願いします。」「今日の受付は何番?」と、本当は点呼なんか頼みたくないような言い方だ。やはり紳士的には聞こえる。


 23:00頃に大沢君が受付に行ってくれたやつのことだ。


「はい」と大沢が反応する。夜間作業員は運行管理補助者でもあるので点呼をする。

 大沢が事務所に向かいながら、「3番です。」と答えると、


「1番とか2番じゃないとダメなんだ。回り切れなくなるどうしてくれるんだ。まったく暇なくせに。」


 北日本便の中沢が観音扉を開けた。ガタンギーと音がする。


 ”満車だ。相当積んでるな。”


 大沢は、それには答えずに事務所に行き点呼をした。


 沢木はトラックに乗り込み出発した。4:27分。


 ”6時からしか配達できないところ、しかもすぐそこ。早くねえか。”


 ”3人ともいなくなった。” 


 ”いつも”のことだ。


 チンピラの残党の高津は配達の段取りを黙々とかったるそうにしていた。


 北日本便が接車された。真直ぐだ。

 草加部はバーを外す。


 白髪でリーゼントの中沢が階段を昇ってきた。


 挨拶がまだだった。「お疲れ様です。」

「お疲れさん。」疲れてる様子だった。


 中沢さんは続けて草加部に言った。

「もう出発したのか?沢木は。いつもそこのコンビニで寝てんだよ。足上げてよ。」

「えっそうなの?」

「配達先ってそこの交差点の角のとこだよな。こんなに早く出るなんて不思議だよな~」


 ”そうなのだ。グリミー沢木、グリミー能見。この二人は不思議だと思う。”


 ーつづくー

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