第16話 グリミー5号 登場。

 2:23分


 トラックのバック音が聞こえてきた。草加部と大沢は反応する。観音扉を開けるガタンという音も聞こえた。


 二人は休憩室から出てホームに向かった。


 クルクル白髪頭の後ろ姿が見えた。グリミー大森は接車させるために運転席に向かっていた。キーと吠えている。


“二回目の横持ちの量は、まあまあ ある。”


 大森は入場テーマと共にゆっくりバックさせた。今回は、まっすぐ接車された。


 草加部、大沢はバーを外す。構内には、バーを外すカランカタカタカランという音だけが響いていた。


 二人は荷降ろしを始めた。


 グリミー大森はムッとした顔で、書類を置きに事務所に向かいながら「いや~いや」と言っている。


 その間の荷降ろしをしていた二人が、2台目の荷降ろしの半分くらいのところでグリミー大森がきた。


「お疲れ様です。」二人は期待せず挨拶する。


「・・・」無視。


“そうだよな” それ以上は思わなかった。


 大沢は、表情を強張らせながら、“ゴリラ”と自分に言い聞かせるように心で呟いた。


 グリミー大森は、二人が荷降ろししている姿を突っ立って見ている。


 二台目の荷降ろしが終わり、大沢君が台車を引っ張って“コの字”に向かった。草加部は「仕分けに入ります。」と、大森に独り言のように言い“コの字”に早歩きで向かった。


 次の中沢さんの北日本便が来るまでは終わらせたい。草加部は時計を見て、タイムリミット4:00分と決めた。


 大沢君に言った。

「4:00には終わらせたいな。」

「はい、そうですね。」


 静かな構内には、荷降ろしの音と仕分けの音、台車のタイヤの音が響いていた。


 キー、ウキー、ガラガラと台車を滑らせボーリングのように手を放すグリミー大森。


 ガーン、キーと響いている。


 大森は、「こんなの終わるべや。」とキツイ口調で言いながら荷台の箱に入っていった。


 草加部と大沢は、荷降ろし台車で混雑しないように、且つ溜まらないように台車を逃がしながら整理しながら仕分けをしていった。


「大沢君!」草加部は呼んだ。

「はい。」

「呼んだだけだ。」


 大沢ははにかむ。草加部は固くなっている大沢をちょっとだけなごませた。


 固くなったら、また呼べばいい。


 この時間帯は、早朝に配達する荷物があったら、別にして分かりやすくする作業もしなければならない。


 草加部と大沢は細かく分けていった。


 大沢は、キビキビと早朝に配達する荷物を持って走っている。


 荷物がちょっとだけ載っている車が溜まる。


 溜まった台車を逃がす。


 きちんと並べる。


 仕分けが終わった台車は戻す。


 それを繰り返した。


 グリミー大森の荷降ろしは几帳面だ。


 早朝に配達するところの荷物も分けて降ろされている。これはありがたいと思ってるし、利用させてもらっている。


 大沢が、降ろされた荷物を見て走った。さっき降ろされた荷物の客先と一緒のところだと気づいたのだ。草加部も大沢の姿を見て、それに気付く。


「おー、それは、そうしよう。」と草加部は言った。


 大沢は頷く。


 これで伝わるのだ。


 グリミー大森はフォークリフトに向かった。パレット物を降ろすのだ。


 大森はフォークに乗り、付けっぱなしにされてる鍵を回した。電源がカチッという音と共に入る。


 ギヤがバックに入れられバック音がなった。


 プープープーというバック音とフォークの爪が床に着いたまま走った時の、爪が床で弾んだ時のカタンカタンという甲高い音と引き摺られた時のザーというか濁音がないサーという感じか、その中間のような鉄パイプが引き摺られたような音が交互に響いた。


 いつものところにスムーズに仮置きされていった。


 草加部と大沢が溜まった台車を整理していたからだ。


 5枚か?いや、6枚だ。草加部は遠目で確認しながら仕分けをする。かがむとお腹がじゃまだ。


 大沢は、さっきの荷物をまとめ終わり戻ってきた。キビキビとした仕分けしている姿は、バック転したり、バック宙したり、スライディングしながら仕分けするんじゃないかと思えてしまうくらいアクロバット的なものを想像させる。


「草加部さん、この荷物はどうします?15個口です。」と大沢は指示を仰ぐ。その日によって、台車のままがいいのか、床に直に置いてしまった方がいいなど、スペースのことや前に入っていた荷物の量によって迷うことがある。草加部もそういう時がある。


 草加部は荷物を見て、頭に入れてある、その荷物の行先のホームのスペースの状態をイメージして判断した。


「良きに計らえ。」

 任せて大丈夫と判断したのだ。


 大沢ははにかむ。

 緊張はほぐれたか?


 せまい構内は、荷降ろしされた台車とパレットでさらにせまくなっていた。


 荷降ろしは、まだ終わっていない。まだ半分だ。仕分けが終わった台車を戻しながら箱型の荷台の中身を確認する。


 容赦なく荷物は降ろされる。 

 ウキー、キー、キーと、グリミー大森のボーリングは続いた。


 ガーン、ガンガンと台車が玉突き状態になる。

 ウキーウキッキーとこちらをたまに見ている。


 それを整理しながらの仕分け作業が続いた。


 2:48分


 営業所に入って来る車のヘッドライトの光が見えた。草加部は憂鬱になった。


 グリミー5号だ。

 早朝に配達する客先を持っているので、この時間に出社してくる。


 この瞬間から、仕事終わりまで憂鬱な時間が続く。帰った後も、その気分は引き摺る。忘れるために酒を飲む。食べる。105kgになった理由だ。憂鬱な時間の方が多いから、帰った後の食事くらいはと思っている。


“Grimm is endless”


 ーつづくー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る