第17話 憂鬱な時間が始まる瞬間。
グリミー5号が車から降り、ドアを閉めた音が聞こえた。そして、喫煙所側の階段を昇る足音。
ウギィー!ウギー!と独り言を言いながら事務所に入って行った。
グリミー5号こと
レゲエの雰囲気を漂わせるドレッドヘアぎみのかなり緩めの感じ髪型で顔の輪郭は丸い印象だ。
前職で宝石屋に勤めていたと聞いたことがある。この営業所で一番わがままで、全員から一緒に仕事をしたくないと言われ、1~5班まであるが、それらの班から外し、センター系への配達を1人でやらされている。以前に沢木から、「誠意」「気持ち」という言葉を入れて正論っぽく話された時から、マルチ商法野郎と草加部は呼んでいる。佐々 翔琉ささ かけるは正論と褒め称え、何でも言いなりになっていた。東藤も、それに近いものがあった。強い者には弱い二人だ。
グリミー5号こと沢木が事務所から出てきた。
「ウギィーここにパレットあったら邪魔だろ!片付けろ!ちゃんと仕事しろよ、暇なくせに!」
そう言うと、グリミー沢木は自分のホームにある荷物が載った台車を、
「キー!なんで、こう置くんだよ!狭くなるだろ!ウギー」
と言いながら、台車を他のホームや通路まで乱暴に雑に動かした。
構内は、更に狭くなった。
グリミー沢木は自分が良ければいいのだ。周りや他人は関係ない。まさしくグリミーだ。
これを見ていたグリミー大森は「キー」と吠え、「こいつら、仕分け遅いんだよ。ここまでやってやってるのに。」
「暇なくせに。ウキィー」と紳士風に語る沢木。
二匹の話しは“コの字”まで聞こえている。草加部は憂鬱になりながらも、
「大沢君、6枚だけだからパレットやってきちゃうから。」
と、ゴリラと呟く暇もなく不意をつかれた大沢君に言い、フォークに向かった。
大沢くんは、「はい。わかりました。」と健気に素直に仕分けを1人で続けた。
草加部は「すいません。」と大人の対応をして、フォークのカギを回し、カチッと電源が入ったと思った時には、バック音が鳴り、爪が床に当たらないくらいまで上げてバックし、スムーズに方向転換させ片付け始めた。
タイムリミットは4:00分。草加部は本気を出した。一枚目を運び、それを置いた、と思ったら、もうバックをしている。
早い!
そうしてる間にも、グリミー大森はボーリング投げして、「ギィー!」と吠えている。ガーンと台車通しがぶつかる音。
大沢は台車整理も怠らなかった。キビキビと動く。
グリミー沢木は、「誰だ、こんなパレットの組み方をしたのは~ウキィー!まったくよ~!」と騒いでいた。
草加部は、聞こえない振りをする。二枚目、三枚目・・・六枚と、終わった。さらっとやった。
段取りの成果だ。
フォークを元のところに置き、爪の先だけを床に着けるために爪を傾け、電源を切った。
105kgの草加部は走れない。早歩きで仕分け作業に戻った。
「早いですね。」大沢が言う。
「俺だってやる時はやるよ!」とさらっと言った。
仕分けを続ける。
3:10分
車が入って来たのが見えた。グリミー3号だ。
憂鬱になる。が、気にしてられない。
仕分け優先!
草加部は、何を優先させるべきかを即決した。
グリミー3号が、くわえ煙草でホームに来たのが目に入った。白髪は少なく坊主頭で髪が伸びてきた感じで、頭のてっぺんに髪を寄せて少し立たせてる、”天井の低いトサカ頭”ような髪型だ。
仕訳が進むにつれ、“コの字”に置かれた方面別の台車の何台かがいっぱいになってきた。いっぱいになった台車を順番に二人で連携して空台車との交換も平行してやっていく。
3:20分、横持ち便の荷降ろしが終わった。とりあえずは台車を逃がす作業からは解放された。
グリミー大森は、トラックにバーを入れ、トラックを移動させた。
トサカ頭のグリミー3号は、「あいつら仕事してねえよな!キー」と、今降りた荷物が載った台車を見て、ゴタゴタだべやとタバコを床の上に捨て足で消した。
“気にしない”
“ゴリラ” と二人は自分に言い聞かせる。
ーつづくー
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