第9話 グリミー大森の手口

 キーキーーーーキー。ガーーン!

 と大きな音が響いた。


 草加部と大沢は顔を見合わせ、始まったかとその音の方を見た。


 いつものことだ。


 グリミー大森が、箱型の荷台に1m×1.5mの台車を入れ、荷物がいっぱいになると荷台から出す。そして、新たな台車を押して中に入って行き、それがいっぱいになるとそれを出す。


 この繰り返しで荷降ろしをするのだが、


 グリミー大森の場合、台車を滑らせるように引っ張って手を放し、ボーリングのように投げていくからトラック付近に荷物が載せられた台車が溜まるのだ。


 スペースがなくなる。物理的に当たり前だ。


 さらに、台車を放り投げるように手を放し滑らせていくグリミー大森。


 溜まっている台車にぶつかる。ガーン!キーと構内に響き渡る。


 グリミー大森は、俺が仕分けしてるんだから夜間は楽なんだアピールしていたが、その分、配達先毎に台車を使うから使う量が多い。溜まるペースも早いのだ。


 グリミー大森はこちらをちらちら見ている。


 邪魔だから持って行け、仕事をやれよと聞こえる。


 大沢が、溜まった台車を逃がすために走って行った。草加部はそれを確認しながら仕分け作業を続けた。


 箱の中から、配達先毎の荷物がちょっとしか載っていない台車が出てくるペースが早い。その台車を草加部と大沢で交互に逃がしながら仕分け作業をする。これを繰り返していった。


 遊ばれているようにも感じた。この不快感。空気がどんよりと感じる。20分くらい経っただろうか。


 22:22分


 大型車のエンジンの音とエンジンブレーキを利かせながらブレーキが踏まれ、減速されたタイヤとアスファルトが摩擦した音が聞こえた。


 大型トラックが営業所に入ってきた。発送のトラックだ。


 この瞬間、


 今までのどんよりとした遊ばれ、振り回されていた空気感が吹っ飛んだ。


 空気が変わった。草加部はホッとした。


 同時に、


 大沢君が空気が変わったと感じたかは分からないが、事務所に走って行った。大森が事務所に置いてきた書類に判子を押しに行ったのだ。


 グリミー大森も空気が変わったことを動物的本能で感じたかは分からないが、ウキと短く唸った。


 ガラッと空気が変わり、発送担当のトラックが、ピーピーという入場テーマと共に、グリミー大森が作業してる横側に入ってきた。


 草加部は積み込み作業ができるスペースがあるか遠目で確認をした。


 溜まってる台車を少し逃がせば問題なかった。


 大沢君が事務所から出てきた。オレンジ色のユニフォームのシャツが眩しく感じる。


「大沢君、発送のスペースを作ってくれ」と草加部が指示を出す。


 草加部も、ちょっとだけ散乱していた、仕分けする台車をきれいに並べ直し、これから発送する荷物と仕分けする荷物が区別できるようにした。


 大沢君が仕分け作業に戻り、草加部も仕分けに入った。


「お疲れ様です。」と発送の荷物を引き取りに来たドライバーが事務所に向かって歩いて行った。ドライバーはその日によって違い、今日はグリミー化とは無縁のドライバーだった。


「お疲れ様です。」と返し、仕分けをしながら草加部は頭で組み立てていた。


 ”2台重なった。混雑する。”


 グリミー大森が来てから20分。いつもより多いとはいえ横持ち便の一回目はそこまで多くない。もう終わるだろう。発送のトラックもこれから東北の南側まで走る。早く出発させてしまった方がいいか。どっちにしろ放っておくと発送の荷物と荷降ろしされた荷物が混ざってしまう。誤発送、発送漏れの原因になり兼ねない。発送の荷物が積み込まれれば空台車も出てくる。空台車で溢れかえる。


「大沢君、仕分けは後回しにしよう。発送の手伝いに入ってくれ。俺は、荷降ろしを終わらせちゃうよ。早く出してしまった方がいいんじゃないか。」


「はい。そうですね。」とキビキビと走って行き、まず大沢は荷物が置いてる範囲、パレット物の枚数、ガサになる車のパーツ系の荷物の範囲をドライバーに伝えて、積み込む際に必要なスキャン作業を始めた。大型トラック1台分の荷物を一個一個スキャンしていくのだ。


 この一瞬で積み込みをするドライバーは、積みきれるか、どの順番で積み込むかを決める。この"目勘"は作業員にはない。


 草加部は105kgの身体を揺らしながら、グリミー大森の元に向かった。嫌だけどやる時はやる。これが草加部だ。荷台の箱の前まで行き中を覗くと荷降ろしは終わりかけていた。最後の一台になる感じで、「いや~いや」と作業していた。


 助かったと思いつつ、


「大沢君、こっちは終わってたから仕分けやってるよ。」と声を掛け、仕分けに戻った。


 グリミー大森は荷降ろしが終わり、出発の準備をしながら、隣で作業をしているドライバーと親しげに話していた。ドライバー同士だから顔見知りなのだろう。そんな感じだった。


「あいつら全然手伝わねえよ。夜間なんか遊びみたいなもんなのによ。」


 仕分けをしていた草加部の耳に聞こえてきた。


 グリミー大森、最後の”作業”も怠らずきちんとこなしていった。


 怖い。


 ーつづくー

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