第8話 グリミー大森とグリミーこと東藤の接点

 グリミー大森の荷物の積み方、荷降ろしの仕方は几帳面なところがある。


 いつも来ている荷物で10個口、8個口、多いところだと64個口ということもあるが、覚えている納品先や早朝に配達に出発するところの荷物は、それ毎に台車を使い降ろしてくれるのだ。長年培ってきたものだろう。これは1個でも足りないと配達できない。個数が揃わない時でもそれなりに把握して積んできてくれる。そうそうできることじゃない。こだわりというものだ。


 実際、草加部はそこだけは素晴らしいと思っていた。


 故に、グリミー大森は、俺がここまでやってんだから作業員は楽なもんだ。俺が分けてんだぞキー。


 と、周りにもそう広めていた。こだわりアピールだ。


 草加部が入社する前のことだ。


 4~5年前だろうか、もっと前だろうか、いつだったかを正確に分かる人はいないが、まだ、東藤にグリミーという渾名が付いていない頃、もう定年退職している夜勤を長年やってきた鈴木さんも、これでかなりの攻撃を受けた。鈴木さんは定年60歳の時に嘱託社員での再雇用は選択せず退職した。だいぶ腰も曲がっていた。


 グリミーこと東藤が、グリミー大森の”こだわりアピール”をネタに、


「鈴木は仕事してねえで寝ている。キー。夜勤なんか楽なんだ。もっとちゃんとできねえのかよ。な~キー!。」


 と、夜勤が仕事しねえから俺に負担がかかんだよと周りに触れ回り、その頃から夜間は暇なんだ、楽なんだという固定観念が周りの人に根付いていった。


 グリミー大森とグリミーこと東藤の接点は夕方の発送の積み込みの時間帯だ。


 大森が出勤してくる時間の16:46分頃、タイムカードをカードリーダーに通して構内に出てくる時に「いや~いや参った」と集荷された荷物をチェックしながら歩いていく。


 その時が、グリミーの情報収集のチャンスだ。


 情報を巧みに誘導しながら聞き出していく。


 さすが職人気質のグリミーだ。うまい。


「最近は、夜間の荷物は多いすか?」から始まる。


 周りから見ていると、その会話は、こんな感じに聞こえる。

 キーキーーーーー、ウキ。

 ウキキー、ウキ、ウキ・・・

 ・・・・・


 そして、ニヤッとグリミーの表情が緩み、その後、真顔で、


「夜、少ねえんだどや。だったらもっとちゃんとやればいいんだよ。夜は楽なんだ。」


 と、自分が夜勤の時はやらないくせに、自分が夜勤の時は大変なんだとアピールし、自分だけがやっているかのように触れ回る。こういう人間だ。寒くても暑くても機嫌が悪く事務所のせいにする。


 この”作業”が終わると、東藤はこれから忙しくなるのに、自分だけが疲れているかのように17時ちょっと過ぎに帰って行く。グリミーの本業はターゲットを貶め自分中心に過ごせるようにすること。ターゲットは自分より弱ければ誰でもいい。


 これが、大森と東藤の接点だ。

 ーーーーー


 草加部と大沢は仕分け作業にに入った。


 荷物を一つ一つ丁寧に、かつスピーディーに住所を見て、方面別かつ配達ドライバー個々に合わせて仕分けをして行く。


 細かい仕分けだが、草加部は慣れたもんだ。きちんと把握している。


 大沢君も頑張っている。だいぶ慣れてきた。


 始めは覚えるのが大変な、この営業所の仕分け作業。


 一つ一つ捌いていった。

 キーキーーーーキーという甲高い鳴き声と共に、ガーンと大きな音がした。


 草加部と大沢は顔を見合わせ、始まったかとその音の方を見た。


 ーつづくー

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