第5話 グリミーの飼育係
所長が草加部に向かって歩いてきた。谷田はお先しますと言って帰っていった。
草加部は、すぐに気付き作業をやめ、所長の方を見て、軽く浅く頭を下げた。
「お疲れさまです。」
「お疲れさまです。え~と草加部さん?」
「はい、草加部です。」
大沢君は気になり、たまに見ては、聞き耳を立てている。
「夜間はどうですか?」と、現場の現状を聞いてきた。おそらく配達ドライバーの谷田にも現状を聞いていたのだろう。
「はい、22時頃、発送の荷物の引き取りが来て、それと同じくらいに、“横持ち”の便が軽めの量できます。その後、24時頃に1台、北日本からの戻りの際に立ち寄って、うちの荷物を降ろして、集約店に向かいます。それは、4時くらいに積んで戻ります。これの前に、横持ちの便の2回目が2時30分頃ですが、1台分積んで戻ってきます。北日本便までが連続作業に感じて、その後は早くて6時ちょっと過ぎから20分くらいに関東便が戻って、それと重なるか重ならない位で上越便が戻ります。」
と、大まかな流れを話し、
「関東便と上越便の時間帯がかなり忙しいので日勤の作業員とシフトが重なるようになっています。」と、付け足した。
「夜勤は何時にあがれるの?」
「関東便、上越便が終わったらです。」
「20時からだから12時間労働までいかないくらいですか?」
「そうですね。道路事情とかで過ぎることもありますが。」
「なるほど。」と所長は、イメージしてるのか遠くを見てるような感じで目を少し上に向けていた。
続けて、所長が作業の内容を聞いてきた。
「到着荷物の仕分け整理は?これだけの荷物が立て続けに入って来たら、荷降ろしで使う台車も回らないでしょう?」
さすがだ。分かっている。話しが早い。
積極的に現場に出るタイプだから実務を理解している。
「ん~、まず、ここで各方面別に荷物を分けます。」と空の台車が9台、“コの字”っぽく並んでいる場所を指した。
「そのあと、というか、まず、ここでの仕分けが細かいんですよ。各方面毎というよりは、配達ドライバー個人個人に合わせなければ怒鳴られる状態で、勝手に仕分けルールが作られて、それが勝手にバージョンアップされて行く感じで、例えば、ドライバーどおしで、あそこまで行くならこれも行けないかみたいなやり取りなら、素晴らしい“やりくり”なんですが、自分がそこに行くのがめんどくさいから押しつけるために、作業員が最初から仕分けしたという形にするために、我々に強引にやらせたりで。酷い時は、その荷物が戻されます。さらにそれが、また戻され、構内の通路に放置され、作業員は、あっちに持って行けよ、いや、あっちだろと間にはさまれます。」
今村所長は、キョトンとした表情で、
「そこまで酷いの?」と言葉が漏れた。
「そこまで?って?」と草加部もキョトンとした。
ここで、“社内で、あそこは無法地帯だ。と呼ばれている”ことを聞かされた。
ちなみに、これまでの所長は支店長に昇格して関東に転勤したらしい。こういう連絡も行き届かない職場だった。
上からのウケはしこたま良かったとのこと。
草加部は、他にも、パレットで入って来た荷物を、すぐに積み込めるように。配達先で納品、検品しやすいように、新たなパレットに組み直す作業も作業員に押しつけられていて、できなくてやっていないと怒鳴るわ荷物投げるわで、トラウマになっていることを話した。
ついでに、朝の関東、上越便の時間帯が、
“ウキーー!キーー!バーン!
ウォー!ヒヒーン!キー!カー!モー!バーン!
ウホウホッ!ウホウホッ!ウッホウッホ!
そっちを手伝うならこっちもやれーウキー!
いらねえよ!荷物持ってくんじゃねえよ!
ちょっと来い!
荷降ろしやれよー!
ウキーー!キーー!バーン!
ウォー!ヒヒーン!キー!
カー!モー!バーン!
ウホウホッ!ウホウホッ!ウッホウッホ!”
と、こういう感じだとグリミーが蔓延してることを話した。
大沢君もいつのまにか話しに入って、頷きながら聞いていた。
所長は、「だからか~」と腕を組んで少し遠くを見た。
「だから?」草加部と大沢は頭の上に??と、クエスチョンマークが5個くらい浮かんでいた。
日勤の
おそらく軽い感じで冗談なのか本気なのか分からない口調で言われたんだろう。
草加部には想像が出来た。
飼育さんは、なんやかんや言っても、押しつけられて困った顔しながらでも、“グリミー化した周りの人“こと ”ゴリラ達”と上手に仕事している。
“まさに飼育係だ!”
大沢君は、「ゴリラの飼育係だと思って仕事すればいいんですね。」と、妙に納得していた。
所長は、「とりあえず分かりました。今日はとりあえず帰ります。あと、よろしくお願いします。」とあがった。
20:42分。
台車整理が終わったら、次はパレットの荷姿で来た荷物の整理。
フォークリフトに乗っている105kgの草加部のお腹が揺れていた。
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