第2話 グリミー1号 2号の誕生の物語

 グリミーは、今日も陰口で巧妙に感化させる作業に怠りがなかった。職人気質で作業についてはこだわりがある。


 グリミーこと東藤国明(60)。グリミー(grimmy)は渾名だ。当て字で作ったこの渾名を我々は気に入っている。グリミーは定年になり嘱託社員として働いている。前の職場で問題になり異動でここに来た。所長から言わせれば“押しつけられた。”が正解だ。


「なんで、ここに置くんだ。夜間なんか暇なんだから考えろよ。な~。」


 と、周りに言っていた。誰に言っているというわけでもなく、ただ、自分の立場を見せつけたいがために、ポケットに手を入れながら、


「配達ドライバーのことを考えろよ。俺が夜勤の時はここまでやってるよ。」


 と、自分はやっていないのに、わざとらしいしかめっ面で、まことしやかに言っている。


 周りで積込を始めてるドライバーの視線も夜間作業員を刺すようになっていった。


 グリミーの感化作業には抜かりがない。今日も上手く上積みをした。こうやって、毎日コツコツと積み上げて行くのだ。


 そして、グリミー 1号が誕生した。


「こんなんじゃダメだから俺がやる。」


 と、夜間作業員が仕事をしていないかのように上塗りをしたのは、感化された配達ドライバーの嵯峨仁志さがひろし(29)。彼は最初はバイトで構内作業員をしていたが、正社員としてドライバーになったのだ。自分は経験者だと先輩面をしたいのだろう。


 続いてグリミー 2号が誕生。


 ガーン!!と大きな音が構内に響いた。


 荷物を古くて錆びがある台車に叩きつけたのだ。この男は、村上俊哉むらかみとしや(45)の配達ドライバー。村上は、ここが開設された時から21年間、配達ドライバーとして勤めているらしい。


「チッ!また、間違えてるよ。」と、周りにも、困った奴らだと広めたいかのように、台車に叩きつける轟音と共に「ウキー」と響いた。


 グリミーは一瞬ニヤけたが真顔に戻すと、自分は完璧に作業をこなしてるけど、夜勤が適当なんだと言わんばかりに、わざとらしい顔つきと、かしこまったキビキビした動作で仕分け作業に入った。


 夜勤の二人は、なんかとてつもなく悪いことをした挙げ句に、仕事をしていないかのような視線と雰囲気に包まれながら仕分け作業を続けた。


 グリミー 2号は狡猾だ。誤仕分けについては何も言い返せないと誤仕分けを盾にしているのだ。


 グリミーの感染力はこれ程に強い。そして、周りの人(他の作業員)は、自分に矛先が向かないようにグリミーを中心に仕事をするようになっていった。


 グリミー予備軍、潜伏期間はそう長くない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る