Op.40 チョコミントアイス中毒への一歩
昼間の気温が下がり、冷えた風が学園祭の空気を作り始めた季節。
霊体には分からないが
夏場は屋上階段でベルフが半強制的に氷冷係をさせられていたのでレヴィは冬の暖房係になることは決定事項だと判断し「上級悪魔の俺を利用するなんて許さないぞ」と主張し、教室に至る。
しかしこの派手な面々が大移動するとあらば当然ながら目立つことも避けられない。
「えー! この面子が昼休みに教室いるのめずらしー!」
室内は騒然となっていた。
浮幽霊である
「どうせ生者の食事を要さないんだから自由に空でも飛んでればいいのに」
と最もな意見を述べるがレヴィは「俺の勝手だ」と反論する。
天使キリクが
「黒戸くんと碓氷くんは何もたべないのー?」
「お金ないって感じじゃないよね」
「一日一食法だったっけ? そういう健康療法もあるよね」
「なにそれ~僧侶みたい」
女子生徒に囲まれ決定的な行為を指摘された二人は自分たちが地上のものを何も口にしていないことに初めて気付き『そういえば』と今更のように顔を見合わる。そしてふと、うまく溶け込んでいるキリクに目を移した。一連の挙動を漫才のように見ていたキリクはイチゴ牛乳のストローを歯で噛んだ状態で「ざまぁみろ」と小声で呟いて笑う。
「なんて大人げない天使なんでしょうか」
ベルフが無理やり苦笑いを作るのみに留めたところをレヴィは妙な対抗心を生み出してしまい、近くの女子生徒の持っていたチョコミントのアイスクリームを奪って口に運んだ。
「あ」
そのとき身内の誰もが思ったのは、『炎属性なのに…』であるが、クラスの女子生徒たちの心境は『間接キス羨ましい』と両極端だった。
皆が見守る沈黙の中、当のレヴィは何が起きたのか硬直したままである。その空白の時間が皆の関心に拍車をかけているなど当人は知る由もない。
しかしアイスクリームという冷たい食べ物の中でも特に冷感の強いチョコミントをチョイスしてしまったレヴィを心配した鈴がついに「黒戸くん、大丈夫ですか?」と
そして三白眼を見開いたまま微かに震え、衝撃的な言葉を発する。
「なんだ、この絶妙な甘い・ひんやりの絡み合う味わいは。ミントとチョコレートの香りは知っていたが味はこんなにも心地良い甘みがあったのか? まるで口の中で一体となって奏でるハーモニー…」
それはまるで文明の遥かに遅れた異界から来た者のような食レポだった、と後にクラスメイトたちは供述している。
「その『甘い』『ひんやり』という感覚をそちらの世界に持ち帰って文明発展に繋げられるといいね」
そのときの鼓のコメントにもまた戦慄を覚えた、そう後世に語り継がれるのだ。
こうしてレヴィは季節の移ろいに反してチョコミントのガチ勢へと移行していき、「イチゴ牛乳を一日三本飲まないと消える」と言っていたキリクと同じかそれ以上の間隔で摂取し続け、寒い時期に周囲を震え上がらせた。
「俺、チョコミントを食い続けないと消えるから」
今まで『音羽さんの忠犬』と言われ見向きもされなくなっていたキリクに続き、レヴィまでもが『見てるだけで寒くなるイケメン』というレッテルが貼られる。ベルフは『あんなふうにだけはなりたくない』と大罪にも等しい生者の食べ物に断固触れないよう硬く決意したのだった。
そんな折、同じクラスの男子生徒がレヴィにある一枚のチラシを見せてきた。
「黒戸くん、チョコミント
ささやかな悪口が込められている気もするが特段言葉尻を捕らえるような性格ではない、いや、そんなことをする必要のない次元で生きてきたレヴィは男子生徒の一言など意にも介さずにチラシを奪い取る。
そのチラシにはこのような謳い文句が書かれていた。
〈 チョコミントパフェ 3kg、10 分以内に食べ終えたら無料、食べられなければ一万円払ってもらいます 〉
男子生徒の目論見はただひとつ。『黒戸焔に恥をかかせたい』、それだけだった。なぜならこの残念なイケメン認定を受けたはずのレヴィが普段から口にしているチョコミントは、女子生徒たちからの貢ぎ物だからである。女子から物などもらったことさえない男子生徒たちは一致団結してこの男子生徒を後押ししていた。ただ黒戸焔のゴシップネタを晒すためだけに。
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