Op.36 悪魔の才能?
中間試験でのことだ。
そして生者以外では、不正でもしたかのように
実際に不正に近いが不可抗力とも言える。
「教室内がめちゃくちゃ集中モードに入るから無視しようとしても流れ込んでくるんだよ」
羨ましいようだが、「苦しみも全部流れ込んで来る」と随分悲惨な様子だった。
それぞれ齢百五十、二百、と若いほうだが齢にして千を超えるサタンから大罪の話を聞かされていた彼らが言うには
「あの戦争の発端、全然違う理由なのにな」
教科書を覆す内容が多々あるようだ。或いは教科書のほうが覆されていると表すべきか。同じ歴史をキリクも共有しているが、生者の創った教科書を否定する彼らに対し「生者のやることに口出しすんなよ」と天使らしいことも言う。
どこの世界に真面目にテストを解く悪魔がいるのだろうというと、問題文までキッチリ読んだ上で真実を回答し揃いも揃って点を引かれた七大悪魔がここに二体もいるのだ。二人にとっては点数など取るに足らぬものであり、こと歴史における生者のこの伝言ゲームのような『遊び』が不思議でならなかっただけである。
「あなたたち、催眠で点数を上げてもらうとかすればいいのに」
逆にそうしないことのほうが不思議だった
「そんな無駄なエネルギーを使っても何のメリットもない」
「そうですよ、僕らは生者じゃないので」
随分とへんてこな言い分だが筋は通っている。
「でも点数が周囲より低いと焦ったり嫌な気分にならないですか?」
鈴が尋ねると、それにも首を振った。
「そんなことを考えてるのは人間だけだ」
レヴィはそのとき、『生者』とは言わなかった。彼らの中での基準がますます分からなくなる一方だが、皮肉にも天使であるキリクには理解できる話である。
「天界では『慈愛』、魔界では『無関心』ってところか」
『無関心』、その言葉は綺麗に当てはまった。現に彼ら悪魔は執拗に他者と自分を比べようとしない。天使が平等に愛を向ける『慈愛』に対して『無関心』としたのは、彼らがそもそも他者と自分を『比べる必要がない』と感じているからだ。
それは鈴たちと一緒にいるとき以外でも同じである。ただし、そのマイペースさは時に墓穴に繋がることもある。
「黒戸くん、碓氷くん、今日の帰りデートしよ」
デートと称して誘ってきたのは複数名の女子生徒。
「構わないが俺を退屈させるなよ」
「黒戸くんはこう言ってますけどどのみち僕らいつもヒマですから」
彼女らの誘いにすんなり承諾する二人。生者の姿で街を出歩くことにも慣れたようだ。ゾロゾロと女子生徒を引き連れて目立っていると複数名の他校の男子生徒に絡まれた。
「派手だね。俺らも混ぜてよ」
明らかに『混ざろう』としているのではないことぐらい全員察しがついていたが驚くべきことにレヴィもベルフも承諾するのだ。
「俺を退屈させないなら最後尾にでも付いていろ」
現代では聞かないような言い回しに男子生徒たちも当然ながら爆笑する。
「何様!?」
ニタニタと笑いながら彼らは全員で上級悪魔二体を取り囲んだ。通常の一般学生ならば集団暴行が確定するだろうその状況においてレヴィとベルフは背中合わせで八方塞がりとなるも眉一つ動かさず澄ましている。落ち着き払った二人を見ても尚 女子生徒たちは心配になり警察を呼ぼうとした。が、その手はすぐにピタリと止まる。
動けなくなったのだ、その場の空気がガラリと変わったことにより。
それは先ほどとはまるで違った、霊感のない者でも背筋に悪寒が走るようなものだった。
二人はその複数名を半々で担当し、彼ら一人一人と目を合わせながらこう言うのだ。
「たった今この俺が退屈させるなと言ったばかりだろう」
「僕らもなるべく殺さないようにしてるんです、生きた人間を」
「あ? 状況わかってん……」
最初に絡んできた学生がそう言いかけ、ふと黙り込んで目に光を宿さなくなった。それに続くように他の学生たちも硬直し、まるで目を開けて立ったままの状態で眠ったかのように焦点が合っていない。
この異様な光景に傍らで見守っていた女子生徒たちも何が起きたのか呆然としているとレヴィは短く軽い口笛を吹いた。
「今のは『
次にベルフが指をパチンと鳴らす。
「そしてこれが『帰れ』の合図です」
言い終えるや否や我に返った学生の一人は
「いま何しやがった!?」
とレヴィの胸ぐらを掴み、それに続くようにベルフの両脇を二人がかりで固めた。更に両腕を固定されたベルフに一人の学生が殴りかかろうとし女子生徒が顔を覆って悲鳴を上げかけた瞬間、
レヴィが先ほどと同じ口笛を吹く。
すると全員、レヴィの『合図』通りに跪いたのだ。
誰もが目を見張る摩訶不思議な光景だった。
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