Op.33 夏祭りのカオス
「あああああサクさま、よくお似合いです! なんと麗しい」
浮幽霊や低級悪魔だけならず魂の強い動物やコウモリの化身などが交雑するイベント。それが盆シーズンの夏祭りである。つまり天使も駆り出される時期でもあり、
「キリクさまと生者の姿で夏祭りデートができるのですよ」
という
結果として
それはやはり鼓の一言が発端だった。
『鈴ともリンクコーデしたい』
その言葉により おそろいに近い浴衣でコーディネートした鼓。そして鼓の願望でサクも鼓とカップリングコーデをさせられ、鈴にカップリングコーデしたキリクも結果的にサクとリンクを……というキリクにとっては負のスパイラルが発生していた。
そして祭りの当日。
二人の女の子は髪を結って白いうなじを出し、
どちらも高額な品だが鼓の家は代々裕福であり鈴は「
その簪に合わせるように浴衣のコーディネートが成された。
鈴の浴衣は白地に薄紫色のアサガオ模様で帯は翡翠色、鼓は薄紫色ベースの浴衣に白い
天使二人の浴衣は基本無地だが、キリクは白地の浴衣に紺の帯、そして翡翠のヘアピンを、サクは紺の浴衣に白い帯、珊瑚の帯どめをしていた。
浮幽霊の
「ささやかな願いだね。『足枷』は外してやれないけれど、これでどうだろう」
と叶えてやった。サクが美琴に手をかざした瞬間いつも定番だった私服が浴衣に変わる。鼓の浴衣を真似て着せてやっただけではあるが美琴は空を一周するほど喜んだ。
「神さまありがとうございます! どこぞの天使とは大違いです!」
サクは真っ黒な瞳を細めて微笑む。
「シンデレラのような時間制限はないから安心なさい」
この魔法には鈴も鼓も唖然とした。
「え。サクさますごい」
「イリュージョンですね」
サクは美琴の髪を結い上げ、ポンッと芙蓉の花飾りを与える。
「死者も肉体を持っていないだけで生者と変わらないからね。原理としては現代で言うホログラムに近いかな」
そう言うサクも、キリク同様羽根を仕舞いこみ生者ほどに周波数を落として可視化するにあたって素粒子を浴衣に展開させている、同じくホログラムである。
「キリクとおそろいで祭りを散策できる日が来ようとは。私も天に昇る気分だ」
実のところ誰よりもサクが今日という日を一番楽しみにしていたようである。キリクはうんざりしているが。
「前も思ったけどお前はむしろ天に昇らなきゃ駄目だろ」
生者として紛れているとはいえ二人は天使。下級天使から大天使までがそろって訪れるこの日ばかりはキリクも何かあれば加勢しなければ示しがつかない。鈴や鼓の隣が空っぽになるのを防ぐべく二人に護符も持たせ、上級悪魔二名に援護まで依頼していた。
その上級悪魔と言えば、何やら例年より浮かれている様子だ。
「おお~ 生者の視点で祭りなんか来たのは初めてだ」
「僕、あのポワポワした雲のようなものがずっと気になっていたんですよ。生者は美味しそうに食べていますね」
「見ろベルフ! 化け狐がキツネの面を被ってるぞ」
「わあ、自虐ネタでしょうか、それともアピールでしょうか」
「ちょっと
「まだ小さいですよ、妖孤ぐらいが揶揄い甲斐あるじゃないですか」
「妖孤は執念深いだろ、会ったことはないけど」
「僕らもまだせいぜい齢百五十と二百ですからいつか遭遇しますよ」
ハロウィンと勘違いしているのか『仮装』が許されると思っているであろう二人は黒い
何より各々の角も羽根も隠さぬまま生者に溶け込むという暴挙に出ていた。レヴィは竜人のような枝珊瑚の角、ベルフは羊の巻き角。大きなコウモリ羽根は邪魔なため小さくコスプレサイズに縮小している。意図した変装である明らかに浮かれている証拠だった。
「あいつらに任せるには一抹の不安しかない」
浮足立った彼らを遠巻きに眺めて虚ろな目をするキリクに、サクは涼やか かつ重力を帯びた瞳で微笑んだ。
「大丈夫。私から頼んでやろう」
悪魔二名は生者に紛れたサクに気付かなかっただけだったが、近づいてくるサクを目にした時の表情は怨霊に遭遇した生者のそれと同じに見えた、と後に鈴は言う。
この面々での移動は飛びぬけて目立っていた。生者から見ればモデルかアイドル集団、生者以外の存在から見れば百鬼夜行さながらだ。
「写真いいですかぁ?」
声をかけてくる女性もいた。レヴィはその女性を品定めするなり「珍しく美味そうな奴がきたぞ」と唇を舐める。
「お前を食らっていいなら写真ぐらい好きなだけ撮れ (どうせ死ぬんだし)」
違う意味で手を出そうとしている痴漢ならぬ悪魔を天使二人が
ただでさえこのように慌ただしい中、名指しで声をかけてきた人物までいた。
「音羽さん」
突如呼ばれた鈴が振り返ると、驚くべきことにそこにいたのは先輩の
確かに祭りの誘いは断ったはずだったが交際相手も見当たらず一人で祭りに来ているのか遠慮なく鈴に近づいたのだ。
「綺麗だね、着物、すごく似合ってる」
他の者には目もくれず鈴しか見ていない。どことなく異常な何かを感じた鈴が困惑する傍ら、サクとキリクはその奏の魂の汚れように目を見張った。
奏の魂の黒さは悪魔となんら変わらなかったからだ。
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