Op.17 壊れる結界、負傷する悪魔
誰もが夜の空気に包まれ寝静まったころ。二体の悪魔は動き出した。
が、その火炎竜は壁にぶつかるように跳ね返され、二人は目を見張る。
同時、式神のような鋭い紙が一斉にレヴィに向かって攻撃にかかり炎を出す間もなく全身を切り裂いた。
「先輩!」
血しぶきが舞う夜空の結露から氷結晶を大量に作り出すベルフ、だが、「よせ!」 それをレヴィが食い止める。攻撃のエネルギーと同等の返り討ちを
「ぐっ……あのサイコが!」
「先輩もサイコです」
「黙れ! あ~クソ、二重結界か」
「それほど大事な魂ということでしょう、狙う価値は充分にあります」
負傷を負ったレヴィが歯を食いしばり真っ黒な三白眼で鈴の部屋を睨みつけている、
同時刻。
チリンチリンチリン……、
天使姿のキリクが咄嗟に立ち上がり瞬間移動しようとするも、サクがそれを制止する。
「キリク」
よりにもよって言霊を込めて。
自分以上の存在から放たれた言霊には決して逆らうことができない。もどかしさにキリクは苛立ちをぶつけた。
「なんで止めるんだ! 鈴が……!」
「結界は壊れていない。それに生者にも近いほど乱れた周波数で向かっては駄目だよキリク、弁えなさい」
「言ってる場合かよ!」
「キリク、ただでさえ生者の世界に天使が介入してはならないんだ。生者の修行を助けることは許しても邪魔してはならない。生者は時間や物質、言葉の壁、あらゆるハンディを担ってでも地球で修行することを願った尊い存在なんだよ」
「このタイミングで説法してんじゃねえよ!」
「思い出しなさい。幾度もの人生で毎回『足枷』をつけて私にすがってきたことを。それでもキミは最後に乗り越えたことを」
「………」
「だから私はキミがかわいい。そんなキミを失いたくない。強く在りなさい」
「畜生……お前に天罰を下してやりたい」
「ここの
「あとで絶対殴ってやる、今の間にも鈴に何かあったらどうするんだ」
「それは天が決めることだよ。大いなる『全』の御意志には誰も逆らうことは出来ない。ましてや生まれる前に彼女が決めた死に方には、『全』ですら手出しができない。だから彼女はあの悲惨な事故でも一命を取り留めたんじゃないのかい? まだ生者として役目があったからだろう?」
「けど、悪魔どもはそれを邪魔するだろ」
「悪魔たちでも手出し出来ないときは出来ない。基本的に自ら死を選ばぬ限りその命の在り方と行方はその魂が自身で導き出す、それが生者だよ。思い出したかい?」
「…………」
「キリク」
「いや、もういい。…………頭は覚めたから」
「さすがは私のかわいいキリク、良い周波数だよ。何があっても乱さないように。彼女の『その時』はきっと今ではないはずだ。さぁお行き」
「戻ったら一発殴らせろ」
「構わないよ、好きになさい (ついでにエネルギー勾配もし合いたいけれど言ったら倍返しされるだろうなあ)」
キリクが説法を受けている間、鈴の家のほうでは違う意味で驚くべきことが起きてしまっていた。
ガラッ……
窓を開けてしまったのだ、鈴自身が。
外の騒ぎは普通の生者には聞こえないが鈴にはハッキリと分かってしまう。だがその騒ぎが悪魔のそれとは思わずに油断して顔を出してしまった。悪魔と目が合う。
「きゃああああああああ」
叫んだのは浮幽霊の
「美琴さん、大丈夫ですから。結界が破れたわけではないので」
なぜか鈴のほうが七大悪魔二体を前に浮幽霊を
「間抜けども」
ポソッと呟き、結界を破壊する作戦を練り直そうとしたそのときだった。血まみれのレヴィを見てハッとした鈴は
「大変です、手当てをしなければ! 早く中に!」
そのようなことを
「鈴ちゃん!?」
食い止めようとする美琴だが、レヴィたちも当然困惑している。
「何の罠だ、それともただの馬鹿なのか?」
「僕は後者に一票です」
救急箱を持ってきたものの、悪魔たちは二階の窓の向こうで動こうとしないので鈴のほうから声をかけた。
「どうしたんですか、早く入って手当てをしないと。病院も開いてませんし、放置していると傷口が膿んでしまいます」
レヴィとベルフは顔を見合わせる。
「この魂を食らって食中毒にならないか、それが問題だ」
皮肉るレヴィの口を押さえ、ベルフはにこやかに微笑んだ。
「その前に、結界を解いていただかないと入室できないのです。さあその護符を剥がしてください」
「あ。それもそうですね」
ペリリッと護符を剥がしてしまう。強靭な結界は、このようにして崩壊したというわけだ。
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