第3話

当たり前、だと思うかもしれない。そんなのよくあることだと思うかもしれない。


この僕に悩みができた。


その悩みは嫉妬から来るいじめだった。僕は耐えられなかった。今まで失敗などしたことが無いし、僕の力でねじ伏せることができていたから。こんなことは幼い頃以来経験したことが無かった。



「そうだな、情けないことに先輩方や同級生からの妬みが酷くなってしまってね、それに耐えられなくなったんだよ。」

「…そう。」


実際に足を引っ掛けられそうになった。呼び出しもされて、教師や監督には見放された。寮生活では毎日聞こえてくる悪口に耐えられずに苦しい日々が続いた。試合に出れば文句、試合に出なかったら無視。2、3年生と僕の1年生1人で行われる練習は1人で全て準備、できなければ呼び出し。そんなことが当たり前のように続いた。仕事を取って、手柄を自分のものにする同級生。人として否定し続ける先輩。悩みを打ち明けられるような場所もなく、訴えられる場所もなく。終いには先輩が教室まで来て、休み時間はずっと僕の粗探しをしていた。

そんな日々が続く中、突然、僕の心の中で何かが切れた音がした。すると途端に、膝から崩れ落ちて、涙が落ちて、何もできなくなってしまった。



「へぇ。」

カツカツと君の靴の音が鳴る。

「ねぇ、君はそれでいいの?」

「いや、許せないさ。憎いよ。ただ今は何に対しても興味が湧かないし、前のことを思い出すと辛くなる一方なんだ。不思議だよね。うつ病って言うらしい。」

「まーあ、それもそうか。当たり前だよなぁ…」

座っている君はため息をつきながら頭を搔いた。真っ直ぐで綺麗な髪が少し崩れた。髪に光っていた天使の輪が歪む。

「ねぇ、私は君が悪いとは思わないよ。」

「そうやって言ってくれるだけでありがたいよ。」

「んふふ、だってさ、私は君を肯定する存在だもん。気付いてるでしょ?私は君が小さい頃からずっと君を肯定し続けるために生まれたの。」

「…さあ、どうだか?そんなこと知らなかったな。僕は。」

「そう…」

君はくるっと体を一周回す。華奢な体がただの何気無い君の動作を美しく魅せていて、なんとなく眺めてしまう。

「まあ、別にいっか。」

「あぁ。そんなことはどうだっていいんだよ。今は何が一番大切なのか分かっているだろう?君は早く僕に休む時間を提供してくれないか。」

「馬鹿じゃないの。ここはあくまで夢の中の世界。そもそも夢自体、眠りが浅い時に見るものなんだよ。」

「知っているよ。そんなことは。」

「じゃあ、なんで」

「分かっているだろう、君も。僕には今、生きていく上で休める場所なんてないのさ!」

少し声を荒らげると、君はひどく悲しそうな顔をした。くしゃっと歪んだその顔はいつもの笑顔とは正反対で僕の心が少し動揺したことが分かった。

「…昔と同じようにしてくれるか。」

「仕方ないなぁ。」

すぅっと君が息を吸うと、君の声が聞こえなくなる。君は何かを一生懸命に伝えるけれど、僕には何も聞こえない。ただ、気をつけなければならない、ということだけは何故か分かる。その後、目の前が暗転する。そして僕は暗闇の中を歩く。すると、いつも通り。

さぁ、始まった。

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